俺と甲賀2
火威 赤夜が今期アニメがつまらないことを嘆いて放った《獄炎の射手》。それが引き金となって今まで身を潜めていた能力者たちが一挙に活動を始めた。この世界ではこれを、《運命の赤い夜事件》と呼ばれていると言う。
火威があの時怒りに任せて街を燃やし尽くしてさえいなければ、能力者たちは従来通り、慎ましく大人しく影の生活を送っていた。しかし、この出来事以降、それぞれの勢力で動きがみられるようになった。
まず、「異能力者管理委員会」通称、「イノカイ」は異能力者を徹底した管理のもと、支配しようとする団体である。いち早く異能の情報を収集し、今回も火威兄妹に対し、いち早く勧告を行った。それが、雷久保 帯斗である。
続く「均衡推進隊‐Balance Prоpulsiоn cоrps‐ 」通称、「BPC」は能力者同士で徒党を組み、強大な能力を持つ者をこの世から消し去ると言うことを目的とした組織である。武曽 仁居弐はこの組織に所属していたが、組織の情報を伝えようとしたため、組織に消されることとなった。
他にも活動を始めた団体は様々あるが、全容が掴めないものばかりである。今こうして赤夜たちを幽閉している異能力者も別の組織の一員である……
「おいおいおいおいおい……わた〇ん最終回なんて見ている場合じゃなかったぜ……」
移動中に攻撃を受けると思っていなかった俺は、どうして良いか分からずにたじろいでしまった。
「心配するな、確実に攻撃を受けてはいるが、実際に俺たちにダメージはないんだ。まだまだこれからだ……」
一番年長者の九頭竜が、そう言って火威と虎走を安心させようと声掛けする。
「そうッスね! まだこっちは無傷、相手の能力さえ分かればなんとかなるッス!」
虎走の素直な性格が幸いし、彼はあっさりと平静を取り戻すことができた。一方の火威は……
「九頭竜さん、でも、一体俺たちどうしたら良いんだよッ……打つ手なしってやつだぜ、これはよ……」
前向きになった二人とは裏腹に、極度の不安から消極的になっていた。
――その時だった。
「うぐッ!」
俺の足を一発の銃弾が命中した。こう言うのってアニメだと、咄嗟にかばってくれる人いるけど、絶対無理だろ……
「赤夜ッ!」
九頭竜が火威に駆け寄ろうとしてきたが、
「待てッ! 来るなッ!」
火威の怒号でピタリと動きを止めた九頭竜。目の前に二発目の弾丸が通り過ぎた。
「ありがとう、助かったぜ……このまま進んでたら三途の川まで行っちまってた……」
――《双截龍》!
九頭竜は弾丸が飛んできた方向に、全力の火球を放った。
「こうやってサクッと刺客を倒してしまえたら良いんだけどな……」
――《無尽蔵暴走二輪車》!
「二人とも! 乗るッス!」
虎走は三人が乗れるバイクを生成し、そのまま全速力でこの場から離れようとした。
相手の数も能力も分からない限りは、距離を取り、逃げ回った方が得策だろう。その考えは理解できる。
だが……
「クソッ! やられっぱなしは気分悪いぜ……」
今からでも俺の《獄炎の射手》をぶっ放すってのは……と考えたが、やはり闇雲に攻撃するのはあまりにも愚かだ。
「まずは、さっき県道から出られなかった理由から考えるべきだと思う……」
九頭竜さんは冷静にそう言って聞かせた。俺はしばらく沈思黙考し、必死に考えを巡らせる。空間操作系の能力なのか、俺たちがどこかに移動させられているのか。とりあえず今分かるのは、俺たちがアニメを断続的に見ることができていたということから、時間を操作されたと言うわけではなさそうだということだ。
「時間操作系が、倒すのに苦労するってのは道理だからな……」
ひとまずその心配をしなくて良さそうなので安堵する俺。しかし、根本的解決には至っていない。
「目的地にたどり着けなかった。それが一番のカギになるはずなんだが……」
九頭竜はそう呟いたが、これもまた大きなヒントになるわけではなかった。
「九頭竜さん、あの時、カーブに一度でも差し掛かった?」
「あの道はたしか直進だったはず。そして、俺はずっと直進していた。だが、皆わき見をしていて、誰も周りの風景は確認できていない……」
なんとなく、分かってきた。俺たちは閉じ込められたわけじゃなく、何度も同じ道を走らされている可能性がある。
「ドラえ〇んのどこで〇ドアが、道のどこかにあって、延々ともとに戻され続けていたとしたら……」
可能性はゼロではない……
「きっと俺たちを倒そうとしている敵は俺たちが移動しても、俺たちを移動させようとしてくる。逆にその瞬間を狙うんだ」
俺たちは活路が見えたような、そんな気がした。
――バン!バン!バン!
再び大きな銃声が鳴り響いた。今度は三発。
「ははは! あたしの《至高の拳銃》から逃げられるものか! そうだろ! なあ!鄰姉!」
「そうね、私達コンビなら奴らを抹殺できるわ!」