雑務・外来者
設定上、一日には十時間、一時間には百分、一分には百秒、になります。
読み辛いかもしれませんが、まあすみません。
左手であの黒いナイフを弄りながらショッピングセンターのセキュリティルームへ向かった。地上十階、地下五階で、合計十五階。地下は駐車場とセンターのオーナーの私有施設。管理層は方便のために普段セキュリティルームで会議しているから、今五階を目指している。
セキュリティというのは繁華街が雇う護衛の組織で、警察とやり合える強さを誇る。だから繁華街内部の事件なら警察に連絡せず独自で解決するし、内部の情報も警察に漏れることはない。
いわば縄張りである。
まだ開店していない店を尻目しながらエレベーターで昇る、周りは強くなった日差しのおかけで先より明るく、ショーウインドーの後ろに色んな服が等身大人形で展示され、小さなファッションショウのようだった。最後に魔術製品を扱う店を眺め、‘セキュリティルーム‘のブレードがついたドアを開け、真っ黒の部屋に入る。
明かりを付いておらず、いるのは欠伸をしていたセキュリティの男と管理層の老人だけ。半分白くなった髪をした老人が茶を啜り、目だけでこっちを見る。
「・・・・・・」
そのまま無言で紙二枚を渡された。
それを無言で受け取り、セキュリティルームを後にする。
一枚目はシフト表、俺の担当は午後九時から明日の二時まで、今から六時間が暇ということか、二度寝しよう。
機械式スケルトンの懐中時計で時間を確認し、二枚目を読む。
このセンターの設計図だ。
三つのマークが描いてあり、隣に説明が付いている。
最後あまけに指令というかセキュリティの行動方針がついている:テロリストを阻止せよ。
「人使い荒いね、本当。」
少し白い息を吐き、地面に戻って最も近いマークへ足を運ぶ。
一日に十時間しかないし、一時間に百分しかないから時間を大切しないと。
さっさと終わらせて二度寝しよう。
少し人が増えた街を歩き、曲がり三回。センターの後ろの小道に着く。
そこは怪異の空間だった。
地面と建物の壁に無数の傷跡と血が付いており、地面にいくつ水溜りがあり、何箇所に魔法陣が描かれている。魔法陣と言っても、円と三角と文字の組み合わせだけではなく、魔術専用の文字の組み合わせだ。
戦いにいくつの癖が見えるし、魔術式自身もその使い手も低レベルだな。
よかった、これならほかのやつに任せてサボれる。
魔法陣五つ、隠れた陣が一つ、大気に残った色も暗記し、帰り道につく。
まあ、そう簡単に手掛かりを見つかるわけがないか。
二度寝だ。
二度寝、のつもりだが、邪魔が入った。
街への道に一人の人間がいた、ここは通さないと言わんばかりに小道の真ん中を立つ。
建物の影のせいで顔が見えないが、身長、身形と身体構造で男だと分かった。身長百六十六センチ、金色の髪に青い目、地元に見えない顔つき、つまり外人だ。
「あんたがやったのか?何を知っている!」
男は怒っているのようだ、声が怖い。
高血圧になってしまうから冷静になろうね。
なんだか俺をテロリストの仲間と勘違いしたのかな。
確かに証拠とか忘れ物を回収するバカはいるかもしれないね。
それに犯人は現場に戻って感動に浸るって話も聞いたことがあるし。
だが現場にわざわざ戻る犯人はいないと思う。
少なくとも俺はこんなミスはしないよ。
それもわからないほど彼は焦っているのだろう。
いや、俺とは初対面だから仕方ないね。
困る。
ともかくここは平和的解決、説得で何とかしないと。
俺はか弱い青年でしかないのでね。
拳で語り合うことは遠慮させていただくよ。
「この悪戯のことですか?違いますよ、私ではありません。」
俺は手袋を着けた手を服の内側にあるものを取り、前へ進んだ。
男は腰を下げ、俺の手を睨み、口でなにかを念じている。
魔術のスペルか。
俺はもう1歩を進み、ゆっくり手をスーツから出す。
「くっ、止まれ!《ダーク・エッジ》!」
同時に焦った男は突進する、右手を前に出し、黒色の魔法陣を展開した。
黒い魔力の粒子が掌から放ち、一秒で手を包み、魔法陣の文字で形を得る。
普通な剣の穂先にフラットペンチが付いている代物だ。
「降伏しろ!俺は話を聞きたいだけだ。」
いや、戦いたくないのにそんな物騒な物で仕掛けてくるのはどうかなと思うよ。
まあ、そっちからすれば俺は現場をうろついている怪しい人間にみえるだろう。
怪しい、と自覚は、あるんだよ。
悲しい。
でも、たとえ相手がテロリストでもまず対話しないと。
意外とテロリストは悪い奴じゃないかもしれないし。
でも俺の知っているテロリストの一人は悪さしかしなかった奴でもう一人はテロリストになるしかない少女だからテロリストは五割悪人ってこと?
冷静に心の中でツッコミを入れ、手が持ってるのを見せる。
「私はこういうものです、どうぞよろしくお願いします。」
頭を下げ、両手で名刺を渡した。
「え?」
男は攻撃する姿勢のまま硬直し、攻撃が外れた。
危ないね、髪は少し長いけど切らないでほしいけど。
男の大きく開けた目から怒りの色が消え、動揺と迷いの色が代わりに浮かる。
「此処の出来事についてなにかご存知でしたら、我々に教えてください。」
数秒が過ぎ、状況を把握したのか、
「す、すまない!」
男は何度も謝り、頭を下げた。
出会いは本当に突然だ。
さて、これで主なキャラクターが揃ったわけだ、予定とシナリオを考えておくか。
失敗しないシナリオを。
情報共有と操作という名目で一緒に朝ごはんを食べることにした。
俺はもう食べたが、細かいことは気にしない。
まだ三時ということでどこの店も開いていないが、開いている店ならある。いつでも自分の店に貢献できるのはプロである。
簡単なトーストとコーヒーとココアを彼、ミカエル・ガンの金で用意してもらう、会計六百五十円。
「その、本当にすみません、大和さん。今度こそ捕まえたと思っていたから焦ってしまいました。もう時間がないので余裕がなくて、思考も上手くまとまらないし。」
頭を下げ、十回目の謝罪である。
「構いませんよ。現にわかって貰いましたから。」
朝ごはんも奢って貰えたしね、彼の事情も理解できるから怒っていない。
彼からすれば俺は役に立つ情報提供者だからね、役割大事。
だからここは敢えて許して好感度を稼ごうか。
焼き立てのトーストの香りとバターと加糖練乳の甘さが口に広がる。
「あの、大和さん。失礼ですが、その仮面は・・・?」
ミカエルは困った顔で聞く、聞いて良いのか分からない顔だ。たぶん仮面のせいで怪しいと思われたのだろう。
知ってたけどさ。
「これですか?左目がちょっと事故でですね。眼帯を付けたこともありますが、怖いと言われまして。」
「はあ、その・・・あの、今もちょっと怖いです。」
知ってた。悲しい。
食べ終わったら灯理が食器を回収し、俺たちは本題に移る。
「改めて、私は相沢ショッピングセンターで雑務のバイトをさせていたたいています。最近センターの近くに怪しい方々がいるということで、セキュリティの手伝いになりました。」
その責務はセキュリティの保全工作と情報収集、だからこうして情報を持っていそうな外人と同席している。表面は。
おかげでこんな朝早く起きらなければいけないが。まあ、仕方がない。
最近の報告を纏めてミカエルに伝える。二週間前に魔術師を含む正体不明のグループがセンターの近くで騒ぎを起こし、セキュリティと警察の何人が病院直行、おかけで今現場に出れる警察は人手不足である。他の調査とかもあるからね。
そのためセキュリティと警察が珍しく協力することになった、元々ある意味対立しているからなおさら揉めたね、一週間ほど無休で。
さらに前週と一昨日にまだ魔術師が暴れて、通りすがり二人を攻撃した。
違う奴の仕業だと警察が言ったが、どうだろね。
シラナイネ。
まだ犯人を見つかっていないんだし。決めつけは良くないね。
「夜中に何人が市民を襲撃している、ですか。あの、そいつらは何者なのか、目処が付いていますか?」
それを聞くとは、彼は本当に何の情報も持っていないだろう、あるいは噂しか情報のソースがないのだろう。所でこの人、こういう交渉には向いていないね、人が好過ぎる。
「いえ、残念ながら。」
首を横に振ると、ミカエルは少し悩んだ後慎重に自分がここにいる理由を話す。
彼は西の大陸にある第四区から来た魔術師であると。
そして第四区で戦争を始めた組織の数人がここ第五区に不法入国したという。
「あの時からそこは変わり始めました。強力な攻撃魔法を使ったり、自分から勝負を仕掛けたり、明らかに自衛以上の行動を取りました。結局それに反対する俺たち大人の半分は裏切り者と言われ、第四区から追い出されました。」
今から半年前、そっちの学園が支部に抗うため勝手に戦争を始めた。しかし正しい思いが悪の結果を生み、暴走した善意の生徒たちはテロリストとなり、あちこちで混乱を起こした、らしい。
まあ、俺も混ぜてもらっているけどね、戦争とかクーデターとか勢力のすれ違いとかいろいろ。
頑張ったよ、うん。
「俺、あいつらを止めたいんです。第四区では民間人との共存も危ういですが、魔法使いが民間人を攻撃することあまりないから協会も目を瞑っています。しかし魔法使い同士の争いは戦争同然だ、このままじゃ子供たちが!」
顔は怒りと悲しみで歪み、握りしめた拳に力入れ過ぎて指の隙間から血が出てる。
俺は彼が落ち着くまで静かに水を飲み、頭の中で第四区の資料を掘り出す。
七十三年前設立、もともとの理念は魔術の盾で、結界や自然制御など防御特化の魔法を研究してる。
だが十年前に現任管理者が着任し、攻撃は最強の防御と言い出し、研究は防御特化から攻撃特化に変更する。あまけに島の魔法使いたちに実戦推奨するという馬鹿げた制度を立ち上げ、その結果民間人はともかく、三歳から八十歳までの魔法使いも戦闘に巻き込まれた。
全部俺謹製のシナリオだけどね。数日後のために。
やはり無謀な開戦よりしっかりと戦争と紛争の下地と燃料を準備した上で火をつけたほうがいい火事になるし面白いから。
それにそこに管理者がいない分俺が好きにやらせてもらって、そこをめちゃくちゃにするために頑張った。
いや、あそこの管理者って俺か。なら何してもいいよね。
だからある意味彼がここに来たことは俺の準備が成功した証拠だ。
嬉しい限りだ。
だが俺は黒幕というのは間違いである、俺が何もしなくてもこうなっているのだから。
燃えるゴミが十か千かの差だ、ほら別に大した差がないでしょ?
結局がすべてなのだから。
そしてミカエルの話では、もとも対話で解決しようとする学園はテロリストの組織オリジンと接触した後、突然力ずくで第四区の特区管理層を倒すという本末転倒の結論に達し、襲撃と戦争を仕掛けた。
その接触はもちろん俺が手を加えた、だってそうでもしないと高ランクの魔術師に邪魔されるからだ。学園の生徒にはちゃんと戦争するための言い訳になってもらわないと。
当然結果は明白だった、学園はすぐ追い詰められた。
一人一人の実力の差はもちろん、人数に経験も桁違いだ。そして予定通りオリジンは手を引いて傍観者となり、そこでやっと彼ら生徒はとても合理的な答えに辿り着く。
利用されて捨てられた、良くある話だ。だから彼らから見れば黒幕はオリジンになるね。
その学園に潜入したテロリストは未成年の学生を戦争に使おうとする支部を倒すために未成年の学生を使うべきだと大声で言った、その熱い空気に当てられた未熟な生徒は賛成。
さて、ここで矛盾があるわけだ。
敵を倒すために敵と同じことをする、その矛盾を人々は無視してしまう、特に自分こそ正義だと思っている奴は。
独善的な善意が真っ黒な悪意になる。
そうなるように煽ったけど、証拠の捏造とか、虐待の噂や事件とか。
「しかし貴方もまた魔法協会の一人、特区の敵になるおつもりですか?」
基本すべての魔術師は協会に属し、援助を受ける代わりに協会の指示に従う、少なくとも敵対はしない、表面上は。理由は自分ひとりでは何気に生き辛い、魔術師の共通問題だ。
協会の分身である特区の敵になることと協会の敵となることは同じだ、いつ死んでもおかしくない。
「それでも俺は子供たちを助けたいんです、そのために魔法使いになったんですから。」
そんな青臭いセリフを真顔で口にするミカエル。
そんな夢を抱いたまま成長するのは難しい、多くの人は夢と理想を捨てる、そのほうが生きやすいから。
だが彼は心底からそう思っているから俺も笑う気になれないし、笑わない。あるのはその眩しい姿に対する称讚だけ、本を読む時にその主人公が凄いと思うことと同じだ。
面白いから。
例え裏切られても、自分のしたことが戦争を起こしても、やりたいことを貫く。
その姿勢は実に素晴らしいもので、彼の目にはこれ以上のない闘志と決心を見える、だからそんな素晴らしいもの見せてくれたお礼に、手助けの情報を一つ。
「俺はここに来たやつらを捕まって第四区に帰り、仲間を集めて戦争を止める。」
「そう・・・ですか。私は何も出来ませんが、この方に会ってみてください、力になるはずです。」
名刺と個人情報の紙を渡し、番号を交換してから彼は店を出た。
「ありがとうございます。また近いうちに、大和さん。」
ミカエルが礼儀正しく会釈し、海の方へ歩いた。彼の黒色のジャケットと青いジーンズがすぐ人混みに消える。
「・・・」
肉と野菜の店たちは営業始め、おばさんたちの戦争の開始だ。繁華街はすぐ戦場と化す。
俺はそのおばさんたちの声を聞きながら店に戻る。
連続投稿もここまでになります。
出来れば毎週投稿します。
よろしくお願いいたします。