雑務・寄り道
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世界が色褪せてゆく。
緑色の草が、黒色の空が、黄色の街灯が、全部灰色に堕ちた。
時間の流れと光の流れが減速する。
色は光が人間に見せる情報。
色を元に物体を分析し、特性を予測する。
それは人間に与えられた分析力、全部の色を認識できるとされる者の芸当。
五年ぶりの灰色を眺めながら道を描く、夢の中に見たあの赤い景色にたどり着くための道を。
一つの屋上から別の屋上へ跳び、涼しい風を堪能する。白いローブを纏う影が黒い帳にアークを描き、未だ眠れぬ街を見下ろす。
魔術による発展のおかけで住人が増え、他の場所と比べ物にならないほど先へ進んだ五つ目の特異点。
自動車、街灯、電話、管理システム・・・普通なら十年をかけても不可能な発明品がここで生まれ、成長する。それでこの島のような使徒に見定められた特別な場所、特異点は本土とかけ離れた風景を築き上げた。
黒い夜を眺めていた目が島全体を眺めた後に街のある場所を見つめる、まるでそこに何かが居るのかを知っているように。
少女を囲む男が三人いた、チンピラのようだ。
予定通りならば自分はただ見ていればいいはずなのになぜかこうして乱入するものが居るのだろうか。運がないな。
それ、ストーカーじゃん?とも思ったが。
この島に住むものと違わない姿をしたチンピラたちはゆっくりと少女との距離をを縮める、対して少女は周囲の状況を確認する。
戦う力がないなら逃げればいい。
逃げ切れる確率はそう低くないが余計のトラブルが起こる可能性がある、とそう割り切り、燃え上がる火の玉のような熱い左目に手を当て、溜息をつく。
過作動の目を閉じる。
色を意識する、余計な情報を再び拾う。
封印を解くのはもう少し時間がかかりそうだ。
焦って失敗しましたとか笑えないから。落ち着いて行こうか。
世界が色付いた。
眼の温度が下がる。
草が緑色に、空が黒色に、街灯が黄色に、灰色から色を取り戻した。
今は夜だから色がそう変わらないが。
視界の時間の流れが元に戻る。
色鮮やかな街の上空を駆ける。建物の壁や屋上を飛び、その少女がいる場所へ走る。
「今回はどのくらい時間が掛かるかな。」
独り言しながら商業区のビルの屋上に着地し、再度今の状況を確認する。
成年したチンピラ三人、対して少女の身長は百四十センチ位。
このチンピラたちはこの時ここではなく居住区にいるはずなんだがな。
運がね、悲しい。
ま、いいか。
それにしてもこんな深夜に街を歩く少女もいけないが、どう見てもチンピラが悪役に見える。なぜだろう。男女平等を説いたい。
でも三対一だからやはり悪いのはチンピラたちだろう。
うん、定番だな。
こういう場合、九割が男性が悪いからいいか、一般論では。
「二週間くらいか・・・」
自分の質問の対する答えを口にし、少女の方へ振り向く。
「たすけて!マスター!」
そういうことらしいのでさっさと倒すか。
左半分の白い仮面を外して赤い仮面をかぶり、屋上から飛び降りてチンピラたちを蹴散らす。
声すら出すことなく沈黙する三人。
「やぁ、仕事だよ。」
今の出来事が突然過ぎか、少女は返事せず白い影を見上げた。
理解できなくもない、遅い夜に男数人に囲まれたら慌てるはずだし、助けられても素直に喜ばないだろう。
まして自分はこんなに怪しい格好をしているのだから。
しかしこの少女はそうではなかった。
「はい!マスター!」
滅茶苦茶な魔力を放出しながら笑ってる彼女の手を取り、その掌に鶴の折り紙を乗せる。
というかマスターって、誰?もしかして俺邪魔?
睡眠が終わり、俺の意識が闇の底から浮上した。
体の調子を確認する、五体健全、頭痛なし、血圧問題なし。オールグリーン。
だが体の上に何かがいる、もふもふで柔らかい。
さて、朝起きたら何かが、または誰かがいる、というシチュエーションである。これこそが一般の健全なる男子高校生のパラダイスであるが、俺はさっさと起きて崩れたぬいぐるみの山を整理する。
熊、シロクマ、ペンギン、タヌキ、マスコットなどなど。
可愛いからいい。正義である。
今は春休み、授業がない、イコール遅刻しない。最近作った新型アラームをセットしたから誰かに起こしてもらう必要がないし、寝坊と二度寝のようなへまもしない。
まあ、どうでもいい一般論だ。
平焼きパンにバターを塗り、卵とチーズと一緒にフライパンで焼く。その間に歯を磨き、顔を洗い、左顔を覆う白い仮面を左目から展開し、セキュリティの字がついた服を着こなす。弱い日差しと静かな風が夜はまだ完全に明けていないことを物語っている。
午前二時三十分、食器を片付けて出掛ける、ちょっと寒い風が目を覚ましてくれた。
近くにある森から鳥の鳴く声が聞こえ、心を落ち着かせる。
もうすぐ四月だが、この島はそう広くないから海から吹いた寒い風が島全体を渡り、大陸の温度より低い。
普段ならマフラーを巻きたいが、今日の職場だと無理なので白い手袋だけで我慢した。
寒いな。
この島、蒼衣島は自然区域で、島の中心に広い山がある。大陸から二十キロも離れてるこの島はもともと御三家という貴族の私有地である。十五年前、第五魔法協会学園の成立をきっかけに島を開発し、五つ目の魔法協会特別開発区域<クエーサー>として生まれ変わった。
魔法特区というのは五百年前の第三次魔法会戦後、魔術師と魔術を自力で使えない民間人が一緒に暮らすために魔法協会が大賢者が掲げる共存の未来のために、作られた特区である。そこで魔術師は魔術を学び、民間人との生活を試みる。
民間人は魔術師を知り、無意味の恐怖を克服する。
ちなみに島は御三家の私有地のままで、異常なお金持ちになったとさ。
なぜならみんながみんな大金で島の土地を借りてるからだ。
魔術で作ったツールと魔術師自体は素晴らしい商品であるため、世界中の大企業は特区に支部を置き、より価値の高い商品を開発する。
そのため、この街では試作品や初回限定のものが溢れており、この島の住民はもちろん、そんな商品目当ての人もここの商店街を愛用している。
ちなみに俺もそれなりの土地を所有しているから金はなくはない。
地味な活動でもね、地味にお金がかかるんだよね。
本当に悲しいね。
島の中心である第五学園は真ん中の山頂の近くにに位置し、南方向へ放射状で建物が並び、街を作る。住宅区は島の南部分にあり、学園への坂道は繁華街となっている。ここの生活レベルは大陸より何倍高いし、商業区と生活区に二分割された繁華街は基本的なんでもあるから島を出る人は少ない、極端的に魔術嫌いでなければ。
周りを見やる。
道はちゃんと整備されている。ほぼ全部の商業区ビルは七層くらいで、外装は灰色の金属系サイディング、島の経済を支えるオフィスがそこに詰まってる。繁華街は基本こういうのしかないが、住宅区とかは普通にこの地域らしい建物が並んでいる。
生活区は店主の家も兼ね、全部の建物は二層、その為商業区のビルで島の西側の風景を視界に収めることが可能である。
繁華街の一番高いビルにつく。
相沢ショッピングセンター、商業区と生活区の間にあるこのビルに服、食事、魔術製品などの商業区と生活区の大手ブランドが集まり、実験的商品を売ってる、言わば繁華街の中心である。
朝はまだ早いからか、ここ数日強すぎる日差しもまだ休んでいる、あかけで汗をかいていない。
少し寄り道しようか。
そういうことでほぼ無人の寂しい繁華街を通り、明かりの付いていないショッピングセンターにつき、小道にある職員専用のドアを開け、店に入る。
その際に外に置いていた魚を運ぶための箱を覗くと、やっぱり空っぽだった。
よく掃除と手入れされている白い廊下を進み、途中で休憩室に荷物を置き、厨房に入る。銀色の設備と包丁がキラキラして、床もしっかり拭いている。
もうすぐ三時になるから厨房にいる三人が素早く魚を処理している、静かな戦場だ。
「おはようございます。」
挨拶したら全員が仕事を止めた。
包丁を使う時に目を逸らすのは素人か達人だけだ、残念だが三人もそこそこできるから手を切るへまはしない、はず。残念。
「おはよっす。」「おはようー」「おはようございます、マネージャー。」
今日の当番たちが挨拶した。
「今日マネージャーは非番のはずですが。」
「非番ですよ、ただこのあとショッピングセンターに仕事がありますから、ちょっとした暇潰しです。」
ゲリラ職場チェックでもあるが。みんな真面目だな、こんな朝早く来るなんて。
サボってよ、罰ゲームできないではないか。王様ゲームとか、全員の晩御飯を奢るとか。
「暇なら手伝ってくださいよ。超忙しいっす。」
「構いませんが、日向さんの用件の方が先ですよ。」
むしろその用件のためにここに寄ってきたから、紫色のポーニテールの彼女に目を向けた。
「あ、うん。こっちこっち。」
店の制服が彼女の抜群なスタイルの魅力を引き出し、全身が素晴らしいラインを描き、軽いメイクが瑞々しい目をより美しく仕上げた。
なにより彼女の明るい雰囲気がそのスタイルとぴったりである。
「なんだか来たばかりの魚を狙っているみたいだよね。水まで盗むなんて、ちょっとわかんないね。」
彼女が文句を言っている間、俺たちは誰もいない店長室に入り、机にある黒いナイフを俺に渡した。長さ十センチ、どこでも売ってる金属製ナイフだ。
使った痕、ほかの何かを切った痕跡もない。つまりこれの持ち主を洗い出すことはできない。
指紋も消されているし、魔力の色もついていない、用心深い人だ。
はて、心当たりはないね。
ダレダロウネ。
結論としてこれはただうちの箱をこじ開けるために買った物だろう。
ならばこれ以上調べても何かが出てくるわけもないな。
「では、引き続きお願い。それと、無理しないでね。まだ治っていないでしょう?手の動きが変だよ。」
ナイフをしまい、厨房に戻る前に、包帯を巻いていた手首を指す。
「あはは、分かっちゃうンダ。うん、気を付けるわ。ありがとうね、トウ君。あっ、それとトウ君に届け物ダヨ。」
両手を腰の後ろに回す灯理がピュアな笑顔を浮かべた。
「わかった、ありがとう。それでは厨房に戻ろうか。」
「うん!」
微笑む灯理と共に厨房に戻り、よく手入れされている包丁を手に今日の仕入れリストに目を通す。
「よし、今日は寿司より天麩羅で行きましょうか。」
「はい。」
「うっす!」
「分かったわ。」
勢い良く返事をするスタッフたちと一緒には素早く残りの魚を捌いていく。
すると百匹目の魚を解体した瞬間懐にある懐中時計が鳴り始めた。
「おや、もう時間ですか。それでも皆さん、私はこれで。」
「はい、いってらっしゃい。」
「お疲れ様っす!」
「また後でね。」
手についた臭いを消して店を後にする。
そろそろ出頭しないと遅刻するからね。
同人誌・・・
周回ぃぃぃぃぃ