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 何もしてあげられなかったおじいちゃんと重ねてしまっている部分もあるかもしれないけど、お年寄りには優しく労りを持って接するように、て学校でも言われていたし、ちゃんと実践もしている。


 そんなの当然でしょうが、て美結さんなら言いそうだけど。


 なんて考えていたら「ふふ」と急に笑い声が聞こえてきて、一気に現実へ引き戻されたおれは、慌てておばあさんに視線を向けた。


 すると、おばあさんは嬉しそうに。


「今、誰か大切な人を思い浮かべていたのかしら?」


 尋ねられて、おれは「えっ」と固まってしまう。

 どうして、と尋ね返す前におばあさんがゆっくりと頷いた。


「すごく、幸せそうな顔をしていたから」

「あ、えっと……」


 恥ずかしくなったおれは、どう答えていいかわからずに目を逸らした。

 それに合わせるように、伸ばされてきた手がおれの視線の先を指し示してくる。腕を辿って持ち主を見れば、にっこりと微笑された。


「じゃあ、あの辺りまでお願いするわね。本当にありがとう」


 やわらかな、笑み。

 記憶の中のおじいちゃんにも、喜んで貰っている気分がして嬉しくなってくるのと同時に、美結さんも、いつかこんな風に笑うようになるのかな? なんて考えてしまう。


 年齢を重ねてもどんな美結さんでも、美結さんには変わりない。きっと、彼女に対するおれの想いも変わらないんだろうな。


 だてに、片想いをこじらせ続けてきているわけじゃない。

 おれは、おばあさんには見えない位置で少しだけ自虐的に笑った。


 おばあさんの指定してくれた場所まで送り届けると、どうやらそこは、元の世界でいう雑貨屋のような店だった。店内から、娘さんと孫娘さんだと思われる40歳くらいの女の人と、10歳くらいの女の子が出てきてくれた。


 おれの方を見て、二人ともすごく驚いた様子で固まっていたけど、無理もないか。大事なおばあさんに、怪我を負わせてしまったんだしね。でも、その怪我も今は消えているはず。


「ありがとうね、お城の騎士様。すごく助かりました」

「いいえ。おれの方こそ、本当にすみませんでした。動けますか?」

「ええ、ええ。もうすっかり大丈夫よ。むしろ、ぶつかる前よりも元気になった気がするわ。ありがとう」

「なら、よかった」

「おおおお母さん」

「おおおおばあちゃん」


 娘さんと孫娘さんの似通った声が、ほぼ揃う。

 微笑みあっていたおばあさんとおれの目が、そちらに向いた。


「「アキトさまと知り合いだったの!?」」


 名前を呼ばれて、おれは「え?」となる。

 二人はドタバタとしながら、また店の中へと入っていく。


 それを見送ってから、おれはまたおばあさんに顔を戻した。

 「あらあら」と手のひらで口元を覆いながら、おばあさんが上品に笑う。


「あなたが、あの子たちが大ファンだっていうアキトさまだったのね」

「あ、えっと……」


 だ、大ファン?

 どう答えていいかわからなくて、おれは頬をかく。


「確かに、とても優しいし見た目も格好いい好青年だものね。おじいさんを思い出すわ」


 「ふふふ」と、おばあさんが楽しそうに両肩を揺らした。


「なら、さっきの話は秘密にしておかないといけないわね」

「え?」

「本当にありがとう。ほら、急いでいたんでしょう? 早く行ってあげないと」


 うながされて、おれはすぐに元々の目的を思い出す。


「は、はい。それじゃ」


 おれは頷くと、おばあさんに一礼をしてからその場を後にした。


 家を二つ分移動した辺りで、背後から「ああああ!」という声が響いてきて。

 おれは少しだけ足の速度を緩めると、耳をそちらへ傾けた。


「おばあちゃん! なんで、アキトさまをもっと引き留めておいてくれなかったの!」

「急いでいるみたいだったからね。忙しいんだよ、お城の騎士様も」

「えー! お休みの日は何しているんですかとか、つきあっている彼女はいるんですかとか、好きなタイプはとか、いろいろ聞いてみたかったのにー!」

「あらあら、そうだったの。ごめんなさいね。でも、ぶつかっただけでわざわざここまで送ってくれるなんて、とても素敵な騎士様だったわ。あなたたちがファンになるのも納得ね。おばあちゃんもファンになっちゃった」

「でしょでしょー! おばあちゃんにも今度、私の秘蔵のコレクション見せてあげるー! あ、そういえばね、おばあちゃん。私もね、さっき通りすがりのお姉ちゃんにね――」


 話題が変わったみたいで、今度はお孫さんの話のようだ。


 通りすがりの女性と一緒に出かけていた弟がぶつかってしまって、たいした怪我ではなかったけど、ここまで連れて帰ってもらいながら奇妙なことを聞かれたとか。

 同じような体験をしたね~と、笑いあう声。


 とても微笑ましいけれど、話を聞いているうちにどんどんと彼女が思い浮かんできて、居てもたってもいられなくなったおれは、気づけば駆け出していた。

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