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『どうしたの、急に』

『う、うん。ちょっと……、ね』


 食卓に、おれが並べていたいくつもの皿。

 それの一つに、なんだかカラフルな炒め物?のようなものを盛りつけながら、美結さんが曖昧な感じで答えてくる。


 おれは少し不安に思って、美結さんに問いかけた。


『アルバイトってことは、何か欲しいものでもあるの? おれが持っているもので良ければ好きなように使ってくれていいし、美結さんが働きに出る必要は……あ、もしかしておれの貯金じゃ足りない? なら、もっともっと稼いで、きみを楽にさせてあげないといけないね。待ってて、今すぐに――』


 壁際に立てかけておいた剣鞘をつかんで、おれは玄関に向かう。

 確かまだ、残っていた仕事があったはず。なんなら、サリューの分を奪ってでも……


『いやいや、十分すぎるほど稼いでくれているし、逆にこんな額どうやったら稼げるんじゃい! と思ったくらいだから別にそういうわけでは――って、また颯爽とお城に戻ろうとしない! さっき来てくれたばかりでしょうが』

『大丈夫。きみの顔を見れたし、話も出来た。それだけで、十分すぎるほど元気になったから。まだ、全然いける』


 頷いて大丈夫アピールをすると、彼女は深々とため息をついて首を左右に振る。


『……きみの体力やら何やら、いろいろなものが化け物級なのはよーく知っているけど、それでも前に無理して倒れたことがあったでしょ。あのときは、大変だったんだからね?』


 指摘されて、すぐに思い当る。


『ご、ごめん』


 あのときは――

 自分の不甲斐なさと実力のなさに、どれだけ失望して絶望したか。


 結果的に彼女を失うことはなかったけれど、それでも危険な目に遭わせてしまったのは事実で。あげくの果てには、怪我までさせてしまった。


 もっと、強くならないと……!

 グッ、と剣鞘を持つおれの手に力がこもる。


『まったく……』


 美結さんの呆れたような声が聞こえてきて、おれはうつむきがちになっていた顔をあげた。

 目があった途端、すぐさま逸らされて。


『そ、そんな風になられても困るし、せっかくここへ顔を出してくれたと思ったら、また私を一人にするつもり…………ごにょらごにょら』

『え?』


 徐々に口ごもっていった美結さんの言葉がうまく聞き取れずに、おれは聞き返してしまう。

 すると、慌てたように『とと、とにかく!』と美結さんが話を変えてきて。


『いつまでも一人でここにいても暇だし、ちょうど私に合いそうな仕事も見つけたから、ちょっと行ってみるつもり』

『わ、わかった。でも、くれぐれも無理はしないでね』

『それは、きみの方。私はきみみたいに、命がけで戦ったりとかしないんだし、全然平気』

『命がけ? えっと……、きみのこと以外でそこまでした覚えはないんだけど』

『ぐっ……』


 美結さんが急に胸元を押さえて、背中を折り曲げる。


 ゴト、とおれの手から滑り落ちた剣鞘が床で重々しい音をあげる中、おれは弾かれたように空いた両手を伸ばしながら、彼女に駆け寄った。


『美、美結さん!? どうしたの、大丈夫!?』

『だ、大丈夫……。ちょっと、自分の価値って何だろうって改めて考えるきっかけを与えられてしまったというか、何といいますか……』


 顔の前で広げられた手のひらが、おれを制してくる。


 本当に大丈夫なんだろうか。おれは不安になって、床に片膝をつくと彼女を覗きこんだ。ぶつかった視線の先で、丸みを帯びた瞳が器用に一回転したかと思うと、不自然すぎる動きで横に流されていく。


 美結さんの、価値?

 そんなの――


『そんなの、最初から決まっているのに』


 内心でつぶやいたことを、おれはそのまま口に乗せていく。


『きみの価値は、この世界より――ううん。元の世界よりもどの世界よりも、大きくて尊くて測り知れないものなんだから』

『い、いやいやいや! そんなスケールで天秤にかけられてしまうと、隅の方でひっそりこっそりちょこんと座っているような分銅になりたい私としては、あまりにも恐れ多くてですね、すぐにでも天秤のお皿から這い出したくてたまらなくなるので、出来ればやめて貰えると……』

『美結さん、分銅になりたいの? じゃあおれも、そんな美結さんに寄り添えるように重さの違う分銅にでもなろうかな?』

『ちょ、ちょっと待って。なんで、きみまで分銅になる必要が? た、確かに分銅って、いくつもあるし、一緒に使うこともあるけれど、てそうじゃなくて!』


 一人でノリツッコミしてる。かわいい。


 思わず口元を押さえて、こみあげてくる感情を抑えこんでいると、美結さんが不思議そうな顔で見つめてきて。


『分銅、わかるの? 小3までに習うんだった?』


 そう、詰め寄ってくる。

 ち、近い……!


 ドギマギしながら、おれは『えっと……』と懸命に頭を巡らす。


『そ、そこまでは覚えていないけど、おれ、わりと理科は好きだったし、美結さんの家で美結さんが使っていた教科書を覗き見ることがよくあったからさ。なんとなく、覚えているんだよ』


 美結さんがどんな勉強をしているのか、あの頃すごく興味があった。


 少しでも、追いつきたくて。少しでも――、きみの視界に入れて貰いたかったから。

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