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(4)

「あ――、めんどくせ――」


 そんな、投げやりな声が聞こえてきて。


 何が面倒くさいの? と思って顔を上げると、ガシガシガシと激しく髪をかきむしっているサリューが視界に映った。椅子にもたれかかって後方に倒しながら、深々と嘆息して天井を仰いでいく様子に、おれは首を傾げる。


 面倒くさいって――、天井が?


「変なやつ」

「おまえにだけは、言われたくねえよ!」


 天井に向かって、サリューが言い放つ。

 天井にまで、苛々しなくてもいいと思うんだけれど。


 それより、あんなに椅子を倒していたら危なさそうだ。

 授業中に、あんな風にしていたクラスメイトが、先生に怒られた拍子にバランスを崩して後ろにひっくり返っていたのを思い出す。


 ま、サリューだし別にいいかな。

 おれは、頬杖をついてカフェの外を眺めた。


 ――今頃、何してるかなあ。


 昨日は、朝早くに移動を始める予定だったから、出発する前にこっそりと美結さんの家に寄った。でもまだ夜明け前だったし、話すことは出来なかったけれど――熟睡した寝顔を見てしまって。


 かわいかったなあ……、あんなに無防備で。

 美結さん。

 早く、きみに会いたい……


 目を閉じたらすぐにまぶたの裏に浮かんでしまって、おれはそうじゃないんだけどなと苦笑しながら、またナイフとフォークを手に取った。


 それから朝食を終えたおれとサリューは、カフェを出た。特に話をすることもなく町の入口辺りまで移動して、おれはいつの間にか遅れて歩いていたサリューを振り返る。


「サリュー?」


 呼びかけても、返事がない。

 考えこむように両腕を組んで、ブツブツと何かをつぶやきながら、こちらに歩み寄ってくる。その指先が、あごに絡められた。


「そういやこの街……新しいスイーツが……確か輸送も……ここからだと…………」

「サリュー、もう用事は済んだんだ。早く帰ろう」

「アキ。せっかくここまで来たんだし、土産でも買ってったらどうだ? 喜ぶだろ、あいつ」


 土産?

 その言葉につい反応してしまったけど、おれは少しだけ面白くない気がしてきて。


「あいつ、て美結さんのことだよね? なんで美結さんが喜ぶって、サリューがわかるの? サリュー、まさか……」


 以前、美結さんが、サリューと仲良く話をしているところに遭遇したことがあって、おれはさらに面白くなくなってくる。


 じっと凝視するおれの前で、サリューがひょいと両肩を竦めた。


「……女は甘いものが好き、てのが定番だろうが。違うのか? そこの看板見ろよ。この先に、スイーツ専門店があるみたいだぜ?」


 クイ、とあごで示されて、おれもそちらを見る。

 そこにはスイーツっぽいイラストが数点と地図、それに大きな矢印が書かれた木の看板。


 すぐに納得したおれは、「ああ、そういうことか」と拍子抜けしたような気分になりながら、頷いた。


「確かにそうみたいだね。じゃあ……、買って帰ろうかな」


 看板に描かれているスイーツを持って帰ったら――と、想像してみる。

 美結さんの表情が16回くらいクルクルと変わって、最後には照れたような笑顔。


 ああ、ヤバイ。

 美結さんを……、17回も連続で思い浮かべてしまった。


 熱くなってきた顔を手のひらで覆いながら、おれはゆっくりと息を吐き出した。


「おい、アキ。行くなら、さっさと行こうぜ」

「あ、うん。そうだね。行こう」


 先に歩き始めていたサリューを追いかけて、その隣に並ぶ。

 さっきの看板に描かれていた矢印の方向に移動しながら、おれはプッと小さく吹きだした。


「……よかった」

「あ? なにがだ?」


 両腕を頭の後ろで組んだサリューが、眉を寄せてこちらを見てくる。

 「いや」と、おれは額に指を当てて首を振ってから、サリューに笑顔を返した。


「もしきみが、邪な気持ちを美結さんに向けていたんだとしたら、どうやってきみを殺そうか考えないといけないところだったから」

「あ――、そりゃ僥倖だったな」


 緩々と嘆息して半眼になったサリューは、そのまま空へと視線を投げていった。




 昼。

 美結さんの家に寄ってみたら、誰もいなかった。


 美結さん、もう出かけたのかな? と思いながら、おれは簡単な書き置きと一緒に土産を置くと、すぐにまた城へと向かった。


「お帰りなさい、アキト。無事に戻ってきてくれて、とても嬉しいわ」

「ただいま、イレイズ。あれ、サリューは? 先に、ここへ戻ったはずなんだけど」


 エレメンタルナイツの執務部屋をグルリと見渡して、赤い髪の同僚がいないことにおれは首をひねった。

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