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後日談になります。

今回のお話は彼の視点になりますので、ご了承くださいませ。

 ――鼓動の音がずっと鳴りっぱなしで、耳が痛い。うるさいくらいだ。


 やっと、会いに行ける。

 そうだ、やっと会いに行けるんだ。

 そのために、いろいろとがんばったんだ。ちょっとたいへんだったけど、がんばったんだ。


 ……って、違うだろ。


「ふう」


 落ち着け、おれ。と、深く息を吐く。

 おれはもう、何も出来なかった小学三年生じゃないんだ。立派な大人の男だ。ちゃんと振る舞えなくて、どうする。


「……よし」


 行こう。

 やっと、会いに行けるんだから。


 イレイズに依頼されたナイツの仕事を夕方までに全部終わらせて、ようやく空いた自由時間。


「……げ、マジかよ。あんなに大量に割りふられた仕事や案件、本当に全部こなしやがったのか、あいつ。普通、三日くらいはかかりそうなもんだろ……」

「ええ。アキトには、少し物足りなかったかもしれないわね。あの子がナイツに加入してくれたおかげで、業務の回転率が格段に上昇したし、すごく助かるわ」

「そりゃ良かったな。だからって――」

「だから、サリュー。あなたもこれくらい、容易いわよね?」

「!! んなわけあるかっ」


 サリューの怒号に、おれは口元をゆるめて「ご愁傷様」とつぶやいた。


 まだ続くイレイズとサリューの押し問答みたいな会話を聞きながら、ナイツの執務部屋を出てきたけれど。

 もう少し、時間をかけた方がよかったのかな?


 でも、ちょっとでも早くあの店に行きたかったし、昨日はこことは違う町に滞在していたから、かかか彼女に会いに行く余裕も作れなくて――って。


「か、彼女……」


 急いでいたはずのおれの足が勝手に速度を落としていって、ついには止まってしまう。

 口にしてすぐに顔中が熱くなってきたおれは、手のひらを押しつけた。


 だって、か、彼女って。

 彼女って、こ、恋人ってことだから……こいびとってことは、だって、あこがれのおねえちゃんと……


「……っ」


 だめだ。

 やっぱり、恥ずかしすぎる……!


 むしろ、本当に現実? おれの都合のいいように改変された、思いこみとかじゃないの?


 何度も求婚して断られて、それでもあきらめきれずにまた求婚して。

 一度返して貰った指輪も改めてちゃんと受け取って貰えたし、また近所にかか彼女も住み始めてくれた。


 前の世界みたいに二軒隣というわけじゃないけれど、何かあればすぐに駆けつけられる距離だし、問題はない。


『……はい? 秋斗くん、今なんて?』

『え? 美結さんのことが好きだよ、て話?』

『ばばばばばばっちちちがう! な、なんの話をしているのよ、そそ、そうじゃなくて! い、いや、それはそれでうれ――あああああ、そうじゃなくて!! 相手は元・8歳児、8歳児、8歳児、8歳児ぃい』


 おれの脳裏で頭を抱えて悶絶しているのは、元の世界からさらってきてしまったかか彼女。


 か……、彼女。

 本名は、相原美結――美結さん。


 この世界でも元の世界でもどこの世界でも、おれにとって一番大事で一番大切な女性ひと

 誕生日がきたから、16歳になったばかりなんだよね。


 ちょっと癖のある肩くらいまでの黒髪に、珍しい薄紫の瞳。確か、おじさん側の影響だったかな?

 ご両親が海外赴任で、一人暮らしが長かったんだよね。兄弟姉妹はいない。


 掃除は得意なのに、料理は壊滅的――というかすごく独創的。

 おれは小さい頃から食べさせられていたこともあってそれなりに慣れているけど、自分では本当においしいと思っているから、周りからしてみればちょっと性質たちが悪いのかもしれない。


 まあ、そこがまたかわいくて仕方がないんだけど、ふふっ。


『どどどど同棲とか、ささささすがにむむ無理だから……!』


 って、どど同棲、て――


 言葉にされて、一気に羞恥がこみあげてきたのを思い出した。

 こっちの世界にいる間、城にあるおれの部屋で一緒に生活していたのに、それはノーカウントなのか、住む場所の話になった途端、そう言いだされてしまって。


 慌てふためくその様子に思わず『かわいい』て呟いたら、彼女の頭から火山のような火がボンッと噴き出していく。その表情やもろもろが、またたまらなくかわいすぎてもう一度『かわいい』って言いかけたら、顔を真っ赤にした彼女におれは口元を押さえられてしまった。


 そしたら今度は、『はうああああああああっ』て奇妙な叫び声をあげながら後退していって、床にうずくまっていく。両手は、こちらに伸ばされた状態のまま。


 なんでそんな風になっているのか全然見当がつかなくて、おれは『えっと……』と頬をかいた。


 意味もわからないし、何がしたいのかも理解できない。

 昔からこうだし、相変わらず個性的で変わっているなあとは思うけど、見ているだけで――なんだか癒されるんだよね。


「はあ……」


 そのときの美結さんを思い浮かべていたおれは、額に手を当ててゆっくりと息を吐いてから、また足を動かし始めた。

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