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「嫌い、なんだ」

「だ、だれもそんなこと言ってないじゃない!」

「だれって、だれ? それが美結さんっていう保証は、どこにもないし」

「うわ……、いきなりネガティブサイドにおちたわね」

「もともと、そんなにポジティブな方じゃないし」

「常にキラキラオーラをまとっているくせに、なにをおっしゃいますやら」

「キラキラオーラ?」

「キラキラしているオーラ」

「そのままだね」

「うん、私が見ているそのままだもの」

「おれのこと、嫌い?」

「……また、戻ってきたわね」

「答えてくれないってことは、やっぱり……」


 みるみるうちに悲しさMAXの表情になっていく秋斗くんに、私は耐え切れずに叫んでいた。


「ああもうっ、嫌いなわけないでしょ!?」


 一歩前に進み出た私の手が即座にとられ、彼のさわやかキラキラ笑顔が迫ってくる。


 これ! これよ、キラキラオーラ!

 って、し、しまった……!


「よかった。じゃあ、いいってことだよね?」

「い、いいって、なにが!? てか、変わり身はやっ」

「おれと結婚してくれても」

「だから、なんでそうなるのよ!!」


 にぎられていた手をふりはらって、私はそのまま頭をおさえた。


 ああああ、もう! なんなのよ!

 私だけこんな悶々としているなんて、だんだん馬鹿らしくなってきたんだけど!


 そもそもですよ?

 プロポーズは何度もされたけど、なんでこのひと私と結婚したいの?

 家が金持ちってわけでもないし、親がお偉いさんというわけでもない。結婚したところで、メリットがあるようにも思えない。


 なんか、どうでもよくなってきた!


「だって美結さん、おれのこと嫌いじゃないんでしょ? だったら、す、好きってこと……」

「ええ、そうよ!」


 気づけば、私はそう口走っていた。

 あ。


「……え?」


 固まる秋斗くんに、私は「な、なによ」とあわてて言いつくろった。


「いいでしょ、別に」

「えっ、あ、うん……」


 ハッと我に返った彼が、さっきまでの余裕ぶりはどこへいったのか、そわそわした態度になる。藍色の瞳が所在なさげに宙をさまよって、ようやく私をとらえた。


「じゃ、じゃあ、本当におれと結婚してくれ――」

「結婚はまだ無理!」

「どうして? おれのこと、好きになってくれたんじゃないの? だったら……」


 切なげにゆがんでいく秋斗くんの整った顔に、私はビシッと指をさした。


「き、きみにとっては、たぶん残念なお知らせがあります! 耳をかっぽじって、よーくききなさい!」

「残念な、て……」


 秋斗くんの表情が、一瞬で凍りつく。

 今にも崩れていきそうなそれに、少しだけ罪悪感がわくけど、ええい! もう、どうにでもなれ!

 決意をこめて、私は彼を真っすぐに見つめ返した。


「きみのこと……! す、好きを通り越して、だ、だい……きになっちゃいましたから! だから、あの宣戦布告は無効になるはずでしょ!? 好きになったらっていう条件だったし、つまりきみとは結婚できな――ひゃあっ!?」


 我ながら情けなさすぎる悲鳴が、飛び出してしまう。

 だ、だって、いきなり抱きしめられるなんて、思わなかったんだもの!


「……だ」


 耳元をかすめていったそれに、私の全身がさらにこわばっていく。


「好きだよ、美結さん。ずっと前から、もうどうしようもないくらい……、きみのことが大好きだ」

「わ、わ、わかったから! わかったから、こんなところで、だだっ抱きついてこないで……! 耳元で、甘ったるくささやいてこないで……! 耳がっ、とけるっ、から……っ」

「じゃあ、こんなところじゃなかったらいい?」

「そそ、そういう問題でもないでしょうがっ」


 楽しげに笑う声に、私は必死に反論する。

 ここでもどこでもそこでもあそこでも、こういうことは勘弁してください……っ。


 もぞもぞと逃げ出そうとするけど、逆に強く抱き寄せられてしまって、もうどうしていいのか……


「美結さん」


 急に名前を呼ばれて、私の肩がおもしろいくらいにはねあがる。


「な、なに?」

「いろいろ……、可愛すぎ」

「っ!? ばばっばっだれがっ」


 思いっきりかみまくるし、自分でもなにが言いたいのかよくわからないし、なんなのよお。

 あきらめと同時に脱力していくと、頭の方も少しは落ち着いてくれたのか、回転してくれるようになる。


 えっと。ちょっと、信じられないんだけど……


「……秋斗くんって、私のこと好きだったの?」

「そうだよ。八歳より前から、ずっと。って美結さん、もしかして気づいていなかったの?」

「全然」

「じゃあおれがどうしてきみにプロポーズしたのか、わかっていなかったの?」

「全然」

「自分で言うのもなんだけど、おれの態度って結構わかりやすかったと思うよ?」

「全然」

「……プッ、クククッ」


 背中を丸めた秋斗くんが小さく吹きだし、それはいつしか大きな笑いに変わった。

 い、意味わかんないし!

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