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「我は、神。あちらの世界のことでもなんでも、手に取るようにわかる」


 自信満々の、ルーの返事。

 それっきり黙ってしまう、秋斗くん。


 うそ……

 きみのあの言葉は、冗談じゃなかったの? 真実だったの? もしそうなら、私、私、なんてことを……!


 私は、唇をギュッとかんだ。


「……『10年』を差し出したら、差し出した本人はどうなるの?」


 自分の声が、別人みたいにきこえる。

 本当の私はここではない他の場所にいて、知らないだれかの目を通してこの光景を見ているような、そんな気分。


「文字通り、それからの『10年』が消滅する。差し出した時点とそこからちょうど10年後がそのまま直結するといえば、貴様の頭でも理解できるか?」


 それで――、だったのね。

 ようやく、いろいろなことに納得ができる気がする。


 突然10年後の姿であらわれたこと、前に中学の話をしたときに見せていた憂いを帯びた表情、そしてたびたび感じていた違和感。記憶にないどころか、もともとの存在がなかったから……


 私は、秋斗くんにむき直った。


「このこと、秋斗くんは知っていたの?」

「……うん。力の代償の話は、ちゃんときいた。その差し出した時間の行方がどうなるかは、知らなかったけど」


 知っていたのなら、どうして……!

 私は、はじかれたように秋斗くんに詰め寄った。


「どうして、私にも教えてくれなかったの? だって、こんなことになるなら私、あんな無責任なこと言わなかった!」

「おい、貴様ら」

「落ち着いて、美結さん。八歳のおれがきみにその話をしたところで、ただの冗談だと思われていたよ。違う?」

「そ、そうかもしれないけど! でも、でも!」


 『あと10年くらい経って、あっくんがめちゃくちゃカッコイイ男の人になっていたら――』。


 あんな、なんとなくで出してしまった条件……!

 私は、強く強くかぶりをふった。


「おじいさんのことだって、私、知ったような口をきいてしまった! きみの苦しみや悲しみを、ちゃんと理解してあげていなかったのに、うわべだけであんな、勝手に同情するようなこと……!」

「ううん、そんなことはない。美結さんのあの言葉で、おれがどれだけ救われたか」

「救われ、た?」


 秋斗くんがうなずき、抜いたままの剣を腰の鞘に戻す。空いた手をひろげながら、彼は淡々と話をつづけた。


「力の覚醒はね、本当に突然だったんだ。あの日――、普通におじいちゃんと夕食をとりながらたわいない話をしていたら、いきなりドクンと大きな音がしたんだ。自分でもなにが起きたのかわからなくて、気づけば目の前でおじいちゃんが倒れていた。見た目は特に変わっていなかったのに、声をかけても、身体をたたいても、反応が全然なくて……」


 徐々に弱くなっていった声が、完全に途切れる。

 私の視線に気づいて、秋斗くんがかすかに笑った。


「そのときに、初めて会ったんだよ。『彼』と。クレッシーと」

「二人だけで勝手にもりあがるな! オレ様も、ちゃんと仲間にいれやがれ!! いいか? 力を手に入れたあと、その選ばれしものは――って、おい! きいているのか!?」

「……クレスさんと?」

「クレスだと? なぜ彼奴の名前が出て、オレ様は出てこない!?」

「うん。暴走した時空の力が一瞬だけど、二つの世界をつなぐ道を作ったらしくて、そこを通ってきたってあとからきいた」

「そうなんだ」

「うん……」


 小さく首を縦に動かして、秋斗くんはそのまま下をむいてしまった。


「クレスはもともとオレ様の――、っておい! きいているのか、愚民二人!?」

「……あの晩、突然一人になって、どうしていいかわからなくなった。今まで普通に過ごしていたはずの日常にポッカリと大きな空洞ができて、おれはおれ自身と当時はよく知りもしなかったこの力を激しく憎んだんだ。なんで? どうして? もしかして、おれのせいでおじいちゃんが……? 何度も、何度も自分に問いかけては後悔したけど、そんなことをしてもなにも変わらない。おじいちゃんが、戻ってくるわけじゃない。八歳なりにいろいろ考えたけど、どうしていいかやっぱりわからなくて、押しつぶされそうになっていた、あの時――」


 うつむいていた目線が、私の方に流されてくる。

 言葉が、出ない。


 なにか、なにか言わないとって思うのに……

 うつろだった藍色の瞳に、私がうつりこむのが見えた。


「美結さんのあの言葉で、美結さんがあの晩ずっと一緒にいてくれたおかげで、おれはおれを見失わずに済んだんだ。この力も、ちゃんと受け入れることができた。だからきみは――、おれのすべての恩人」


 やわらかな、笑顔。


 どうして……、そんな風に笑えるの?

 八歳の子が受け入れるには、あまりにひどすぎる状況だったはずなのに……


 視界がにじんでいくのがわかって、私はあわてて首を左右にふった。

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