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(9)

「過去の貴様自身が相手でも、手をゆるめるどころかまったく動じないとはな。さすがは時空に選ばれし者、といったところか」

「……」


 無言のまま、秋斗くんが上段から一気にふりおろす。

 ガキィン、と甲高い金属音がひびきわたり、魔王ルーの手にはいつの間にか漆黒の鎌がにぎられていて、秋斗くんの剣がそれに受け止められていた。


「だがしかし、その瞳がありありと物語っているではないか。どうしてこんなことに――、どうして幼き日の自分と戦わなければならないのかと。こうなってしまった自分の運命を、呪っているのだろう?」

「いや、別に。おれはただ、美結さんに危害を加えそうなやつなら、だれが相手でも排除するだけだから」

「……勇者らしからぬ発言じゃね? それ」


 きょとんとした表情で物騒なことを口走る秋斗くんにジト目でツッコんでから、仕切り直しとばかりにルーがコホンと咳ばらいをする。


「フハハハハッ! 貴様は、時空を操る絶大な力を手に入れるために差し出しただろう? 貴様自身の――、『10年』という月日を」


 え……?


「! まさか」


 驚愕に力が弱まったのか、ルーが秋斗くんを一気に押し返す。その反動を使って、秋斗くんが後方へ跳んだ。


「クククッ。さすがに、そのお飾りの頭でも理解したか? そうだ、その『10年』を食らったのは、この絶対無二の存在たるオレ様。貴様が経験するはずだったその『10年』を、このオレ様が使ってやるのだから、ありがたく思うがいい」

「ルー、それどういうこと?」


 私の呼びかけに、ルーがニヤとしながらこちらをむいた。


「我が御使いたる女、ペタコ。貴様の能力をもって、我が完全なる復活ははたされるのだ!!」

「秋斗くんの『10年』を使うって、どういう意味?」

「美結さん、それはきみとは関係ない!」


 秋斗くんの制止が入るけど、私は首をふった。


「教えて、ルー」

「それくらい、構わんが。ならば、教える代わりに貴様自身を差し出すがいい」


 ルーの左手が、私に突き出される。

 ビクッとなりながら、私は一歩うしろにさがった。


「私を……?」

「そうだ、オレ様は貴様が欲しい」


 ルーが、私を欲しがる理由。


 犬っころのときは、そんなこと一言も口にしなかった。今のルーにとって、私のなにかが必要になったってこと? なにかってなに? さっきからわからないことだらけで、頭がパンクしそう。

 一つずつ、整理していきたい。なら、答えは決まっている。


「……わかった。私がちゃんと納得できたら、ルーの言うことをきく」

「美結さん!」


 駆け寄ってきた秋斗くんに、私は「しっ」と自分の指を唇にあてた。もの言いたげな藍色の瞳に小さく口元をゆるめてから、私はニヤニヤとした表情のルーへと身体をむける。


 ルーの人差し指が、ピッと立てられた。


「貴様ら愚民どもは、知る由もないだろうが――。ある周期に従って、世界のどこかに選ばれしものが誕生する。そのものが力に覚醒したとき、一つの選択の権利が与えられるのだ」

「選択の権利?」


 私がおうむ返しにたずねると、ルーがフッと笑った。


「覚醒したからといって、すぐにはその力を自由に操ることはできん。強大な時空の力を手に入れるためには、おのれの時間を代償にする必要がある。その代償にする時間の長さを選べる権利だ」

「代償にする時間……」

「その代償にする時間が多ければ多い分だけ、無論その力は強大なものになる。覚醒するタイミングはだいたいが十四、五のとき。差し出さなければならない時間は、人間にとって一番輝かしく楽しい時期なのだろう? 皆が皆ためらい迷い、そして後悔する。中途半端な力を手にしたところで、なにも変えられない。選択する権利は、一度きり。一度選択したのなら、もう二度と後戻りはできない」


 ルーが腕を組み、秋斗くんの方へあごをクイっと動かした。


「だが彼奴は、なんのためらいもなく『10年』という時間を差し出してきた。その『10年』で、なにが起きるか想像すらすることもなく、だ。中には、その時点で寿命がつきた輩もいた。クククッ。『10年』というのは、貴様が初めてだったぞ? 今までの連中よりも覚醒が早すぎて、力を暴走させたあげく、身内を一人殺めた未熟なガキの分際でな」

「あや、めた……? それって……」


 私の脳裏にすぐさまよみがえってきたのは、あの夜のこと。

 今にも泣きだしそうな顔のあっくんと、静かに抱き寄せる過去の私。


『だって僕が、僕がおじいちゃんを――』

『もし、もし仮にそうだとしても……。本望だったんじゃないかな、あっくんのおじいさんは。だって――、あっくんのことをすごくすごく愛してくれていたんだから』


 とまどいに揺れる視界を、私は隣の秋斗くんにむけた。

 うつむいた彼の横顔は髪にかくれて見えないけれど、小刻みにふるえていて。


「どうして、きみがそのことを……?」


 そこから発せられる、かすれた声。

 否定しないの? だって、それじゃ……

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