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(6)

「つまり――、おれと踊ってくださいってこと。こういう所作も、ナイツには必要らしくてさ。少しは、それっぽくできたかな?」


 背中を伸ばしながら、茶目っ気たっぷりにそう言われるけど、あまりにもさまになりすぎてて、私はクラクラとしためまいにおそわれていた。


 ナイツの団服じゃなくて、まだよかった……けど。


「おど、踊る!? 私、小学校で教えてもらったふれあい音頭とかオクラなんちゃらとか、全然覚えていないんだけど……」


 踊りというキーワードで浮かんだ二つを並べてみた私に、秋斗くんが「ああ」と相槌をうってくる。


「ふれあい音頭、か。美結さんのときも踊っていたんだ?」

「ま、まあね。でもあれ、小学校低学年までのお遊戯みたいなものでしょう? 踊るのは嫌いじゃなかったけど、随分前のことだし、記憶があいまいなのよ」

「おれは、結構はっきりと覚えているよ。まあ……、当然なんだけど」

「え?」


 私がきき返すと、秋斗くんがほほえんでくる。


「――大丈夫。今おれが誘っているのは、それじゃないから」

「そうなの? てっきり、そういう類の踊りかと思っていたんだけど。私でも踊れる?」

「もちろん。おれが教えてあげるよ」

「う、うん。でも、私が教えてもらう側なのに、これってご褒美になるの?」

「おれが、そうしたいんだ」

「そうなの? じゃあ、お、お願いします」

「よろこんで」


 そう言って、秋斗くんが私の手をうやうやしくつかむ。

 へ?


 クイ、と引き寄せられて、一気に触れ合いそうな距離に私は目を見開く。硬直する私の腰に腕が回され、「いい? 美結さん」と耳元でささやかれる。


「基本は、123のリズムだから。ゆっくりするし、おれの動きにあわせて」


 み、耳がこそばゆい……!

 これはご褒美なんだから、これはご褒美なんだから。我慢、我慢。


 気力を総動員で、私は必死にうなずく。


「じゃあ、行くよ? 1」


 トン……ブミッ。

 華麗に床についた秋斗くんの足の上に、数秒おくれて私の足が着地する。


「ごご、ごめん!」


 あわてて足をどけながら、私は彼に謝った。


「全然、問題ない。だいたいの位置はつかめているんだし、どんどん踏んでくれていいよ。ほら、2」

「そ、そうは言われても……」


 足元をよく見ながら、私は自分の足を慎重に運んでいく。

 フフ、と笑われて顔をあげれば、藍色の瞳が悪戯っぽくきらめいた。


「気が咎める? じゃあ、こうしようか。おれの足を五回踏むごとに、おれの言うことを一つきく」

「はあ……っ!?」


 ご褒美の次は、ペナルティ!?

 さっきから、うまく乗せられている気がしてならな――


「今、一回だね。はい、3」


 あやうく踏みかけて、つま先でなんとかこらえる。

 なんの冗談かと思ったけど、いつもと変わらない目の前のにこやかな表情。


 こ、これは絶対に踏むわけにはいかない。


「1、2、3……1、2、3……」


 秋斗くんのリズムと先導に、私はたどたどしく足を動かしていく。


 こうして、こうして――

 わっ、ちょっ、今度はそっち?

 ブミッ。


「フフフ」


 わ、笑われてるし。

 こ、今度こそ!


 こうして、ああして――

 ブミッ。


 また笑われて、私の意地に火がつく。


 ああして、そうして――今回はそこそこの長さをがんばれたけれど、結局。

 ブミッ。


「これで、五回目だね」

「うっ……。わ、わかったわよ。私にできる範囲でなら、きいてあげる」

「やった。じゃあ、今日一日おれに嘘をつかないこと」

「え、そんなことでいいの?」

「もちろん。続けてもいい?」

「う、うん」


 あれ? やけに、ペナルティが軽くない?

 もともと真っ当な人生を送ってきたわけだし、嘘なんてつくわけが――ま、まあたまにはそういうこともあるかもしれないけど。


 今度は、失敗しないようにしないと。と、意気ごんだものの。


「はい、五回目」

「うう……っ」

「なら次は――、フフッ。二回だけでいいから、きみの手を自由に使わせてくれる?」

「手? わ、わかったわ」


 やけに変わったペナルティだけど、まあいいや。


 そうこうして、最初は目と全部の意識で追わなければならなかったけど、徐々に慣れてきたのか、少しずつ余裕ができてくる。足も踏まなくなったし、それに合わせて秋斗くんの123の声がなくなっていって、身体が勝手にそのリズムを奏でだす。


 ずっと無言だった私は、ようやく口をひらけるまでに上達していた。


「ねえ、秋斗くん。どうして、私を踊りに誘ったの? これ、元の世界でいう社交ダンスみたいなやつだよね。こんな本格的なダンス初めてだし、しかもご褒美になんて……」

「さっき美結さんが言っていたふれあい音頭、あれをさ、クラスの女の子たちと踊るたびに思っていたんだ」


 クラスの女の子たち? そういえばふれあい音頭って、男女ペアになって踊るものだったっけ。

 123、123、と。おお、この辺りは完璧じゃない。


「思っていたって、なにを?」

「うん。年齢的に、絶対無理なのはわかっていたけど。相手が美結さんだったら――美結さんと一緒に踊れたら、どれだけ楽しいんだろうなって」


 ブミッ。

 ――久しぶりに、秋斗くんの足を踏んでしまった。

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