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「うん。おれね、城の兵士に志願してきたんだ」


 ……そうですよね。こんな格好の公務員がいたら、即クビですよねえ。私の将来安定生活プロットが、あっけなくガラガラと崩壊していく。


 まあ、公務員だったらそこそこの給料はもらえるだろうし、私も高校を卒業してそのうち働きだせばそれなりの生活がおくれるかなあ、なんて――ん? 私はどうして、そんな生活プロットを?


 やばい、やばい……

 彼に、もろに影響されてきている。


 内心で頭を抱えている私をよそに、秋斗くんは苦笑しながら就職活動の詳細を語りだした。


「状況が状況だったし、すぐに採用されて魔物討伐に連れて行かれたんだけど、流れ的に一人で倒してしまったら、その。一般兵から兵士長に推薦されたんだ。そのあと城に多くの魔物が襲ってきてさ、それもまたほぼ一人で撃退したら、次に城に呼ばれたとき、叙勲式と同時に一番の名誉と言われる王宮騎士に任命されてた。ほら、これがその証」


 そう言って、秋斗くんは胸元の勲章っぽいものを指し示す。

 って、一晩で出世街道をどんだけ突っ走ったんですか、あなた……


「お、王宮騎士ってなんか偉い人みたいだし、忙しいんじゃないの?」

「うん、そうだね。王様やお姫様の要人警護とか、魔物の討伐隊の組織や対処とか、仕事はいろいろあるみたいだけど」

「こんなところにいても大丈夫なの? 新入社員が、いきなり仕事サボってどうするのよ。早く戻らないと。印象悪くしちゃったら、これから仕事がしにくくなるじゃない」

「ああ、それなら気にしなくてもいいよ。未来の婚約者のところに行ってくる、てちゃんとみんなに伝えて出てきたから」


 にこやかな笑顔で、そうサラリと告げてくる秋斗くん。


 ……いや、まだOKした覚えはないんですけれど、私。でも、そんなことを口にすれば、どうせまた――

 ふっ。同じあやまちは、二度と繰り返さないんだから。ここは、何も反応しない方がベターに決まっているわ。


 無言、というのも感じが悪そうだったのであいまいに笑う私に、彼は少し驚いたような表情を浮かべていたけれど、すぐさま最強の輝きと共に顔をほころばせた。


 あれ?


「否定、しないんだ? ありがとう、美結さん! おれ、美結さんのこと、絶対に幸せにしてみせるから!」

「ス、ストップ!」


 今にも抱きついてきそうな秋斗くんを両手で制しながら、私の頭は困惑で埋めつくされていく。


 なんで? どうして? 何かがおかしいと思うのは、私だけですか?


 『美結さんのこと、絶対に幸せにしてみせるから!』その台詞がどうして現れたのか、私の頭の中ですぐさま分析が始まる。


 秋斗くんがお城の兵士になって、どうやら王宮騎士にまで出世したらしい。そこまでは、いい。


「それでね、この前きみが言っていたもう一つの条件なんだけど」

「ええ」


 私は、首を縦に動かす。


 そうよ、そこまでは何も問題はなかったはず。

 どこからおかしくなったのかしら? そのあとは、確か――


「美結さんがもう一つ気にしていた、新居の方なんだけど。美結さんは、広い方がいい? 部屋数いっぱいで、かくれんぼが出来そうなくらいの」

「そうそう」


 王宮騎士の仕事の話になったんだ。いろいろと、忙しいんじゃないのって。

 それで、そう。未来の婚約者のところに行ってくるとかなんとか――!


「そうなんだ。じゃあ、お城くらいの大きさがいいってこと?」

「それよ!!」


 “未来の婚約者”で、やっぱりツッコミをいれるべきだったんだわ、私。

 ああ、もう。そのせいで、あの台詞が出てきちゃったってわけね。――油断した。


 ようやく合点がいって、私は意識を秋斗くんへ戻した。視界にとびこんできたのは、やけに満足そうな藍色の双眸。だいぶ見慣れてきたとはいえ、その表情にはなぜだろう、嫌な予感しかわいてこない。


「わかった。いい場所を探してくるから、楽しみにしておいて」


 うなずく秋斗くんに、私は目をまばたかせた。


 いい場所? 楽しみ? なにが?


 私の中で、今度は?マークが大量発生する。


「なんの話?」

「またね、美結さん。次こそは、いい返事をきかせて欲しいな」

「は? だから、なんの話を……ってちゃんと人の話をきけぇええ~っ!」


 勝手に走り始めた背中に私は思わず声をはりあげたけれど、まったくきく耳をもたないらしい彼の姿は、そのまま小さくなり、そして消え去った。


 って何度目ですか、この展開……

 いつまで続くんだろう――と考えて、私はあることに気づいてしまった。


「これってもしかして、私が結婚をOKするまで終わりがないってこと……?」


 まさかね。まさか……、よね。さすがの彼も、そろそろ失敗するか飽きてくるわよね?


 いきなり10年後の姿であらわれて、すごく高価らしいドラゴンの宝石で作った指輪をもってきて、さらに一番の名誉と言われる王宮騎士にもなって――って、どれだけハイスペックなんですか、あの人。


 今までの彼の成績を並べてみると、彼に不可能はないんじゃないだろうか。そんな不吉な予想に直面する。

 今回はどうして帰ってしまったのかわからないけれど、とりあえず次の条件がまだ必要なら、そう簡単にクリアできないようなものを準備しておかないと。


「でも、どんなものにしたら……」


 確かあっちの世界は、ロールプレイングゲームみたいな世界だって言っていた。ロールプレイングゲームの最終的な目的は――、そうよ。あれしかないわ。


 ひらめいた私は、唇をかみしめ静かにうなずいた。


 来るなら来なさい、秋斗くん。今度こそ、絶対にあきらめてもらうんだから!

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