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「思い出した! あなた、あのときの黒装束男でしょ!?」

「……ヌホホ?」

「そうよ、その独特な笑い方! あのコロシアムの玉座のあるところで、目だけ露出した黒装束で登場してきた怪しさ抜群の人!」


 私が一気にまくしたてると、相手の記憶も蘇ってきたらしい。見る間に、その両目が驚きに見開かれていった。


「ああっ! あなた、あの時の! 視界があまりよくなかったから気づかなか――って、し、知りませんよ、御使いのお嬢さんなんてあなたのことは!」

「めっちゃ覚えているじゃないの!」

「ヌホホホホホ、知らないと言ったら知りませんよ!」


 汗だくだくで、しらをきる町長さん。

 絶対に、嘘ついてる! 御使いのお嬢さんなんて呼んできたのは、あのときの黒装束の人だけだもの。


 「おい、アホ女」と、うしろから低くおさえられた声のサリュー。


「今おまえが言ったこと、本当なんだろうな?」

「うん、間違いない。私、あのひとにコロシアムで会った!」


 首元からモソモソと、ルーが肩へと移動してくるのがわかった。

 そうだ! あのとき、ルーも一緒だったんだから、この子も知っているはず。


「ねえ、ルーも覚えているよね? あなたもあの場にいたんだから、しっかり見ていたでしょ?」

「…………」


 肩の上のルーは、だんまりのまま。


 あ、そうか。私以外の人間の前ではしゃべるなって、クレスさんに釘を刺されていたんだっけ。それじゃあ。


「いい? 覚えていたら、ワンって言うのよ? あのコロシアムで、ヌホホホって笑う黒装束のひとに会ったよね?」

「…………」


 ジトっとした瞳が、私をにらんでくる。


 『オレ様に頼みごとをするなら、もっとこびへつらって床に頭をこすりつけながら、畏怖の念とともに申し訳なさたっぷりに心から願いやがれ!』と、上から目線で言われているような気がしてならない。


「やっぱり、あなたの勘違いじゃないですか」


 勝ち誇ったような、町長さんの声。


「ルー、お願いだから言ってよ」

「…………」

「ルー!」

「…………」

「……言わなきゃ、今後いっさいのあなたの存在をスルーし続けるからね?」

「ワン!」


 よしよし。

 さめざめと涙を流しているルーの頭をなでながら、私はしてやったりとうなずいた。


「ほら、この子も覚えているって言ってます」

「……そそそれ、脅迫じゃないんですか!?」

「気のせいです」


 きっぱりと、言いきる。

 あからさまに動揺している町長さん。よし、もう一押し!


 私がたたみかけようとしたそのとき、ポンと町長さんの左肩に手が置かれた。


「ちょっと落ちつきなよ、町長さん。ただの子犬ふぜいが、ボクたち人間の言葉を理解できるわけがないじゃん。ワンと言ったのも、偶然に決まっている系だって」

「ハッ……! そ、そうですよね! セディス様のおっしゃるとおり!」


 両手でごますりをしながら、町長さん――ってさんづけ、もういらないよね!


 くっ、いい感じにさぐりをいれられたのに! さっきまでの言動から、この人完全に真っ黒に違いない。

 あせる私の肩が、グイと後方に引っぱられた。


 わっ、わっ! バランスをくずした私の背中が、だれかにぶつかる。


「とりあえず、たずねたいことが山ほどできた。ちょっと顔を貸してもらおうか、町長さんよ」


 見あげれば、サリューの不敵な笑み。

 私を後方に押しやって、入れ替わりで前に進みでていく彼に、町長の表情が一気に青ざめた。


「ひいっ」

「別の部屋で、ゆっくりと話をきかせてくれよ。なあ?」


 町長の首根っこをつかんだサリューは、そのまま出口へと取って返す。彼の前に、セディスくんが回りこんでいった。


「ちょっと待ってよ、サリュー。それならボクが、あんたの代わりにきいてやる系だし」

「あん? てめえはすっこんでろ、セディス! てめえ、この町長と随分仲がいいみたいじゃねえか。どんなやつだろうと、一応はナイツの仲間だ。オレにこれ以上の疑惑を、持たせないでくれよなあ?」


 すごみを帯びたサリューのにらみに、セディスくんが一瞬だけひるむ。チッ、と舌打ちして去っていこうとするサリューを、私は呼び止めた。


「サリュー!」

「こいつにいろいろときいてくるから、てめえは自分の部屋に戻って待ってろ。なにかあれば、オレを呼べ。いいな?」

「う、うん」


 私がうなずくと、サリューは町長と一緒に出て行ってしまった。

 扉の閉まる音を最後に、不気味なほどの静寂が落ちる。


 戻った方が、いいのかな?


 いつの間にか肩の上で器用に丸まって眠ってしまっている(もしかして、ふて寝した?)ルーをながめてから、私は出口にむかった。


「……あいつやっぱり嫌いだ。あのうっとうしい系熱血野郎! いつもいつも大声出してねじふせればいいとか思っていそうだしなんなんだよ。この前も同じやり方で勝手にいろいろ決めてたし。ボクはもともとこんな地味な仕事やりたくなかった系なのに。だからちょっとだけ遊んでやろうって思っただけじゃん。どこまでボクの兄貴面する気だよあいつは……! あんな頭の中まで脳筋野郎と話をするだけでもマジ疲れる系だっつーの。ああああマジでマジでうざい系!」


 ネチネチネチネチと小言のようなものが流れてくるけど、とりあえずスルー。


 ドンッ! という物音にうわっと驚いてそちらを見ると、セディスくんが壁を足蹴にしながらベレー帽を脱ぎ捨てるところだった。


 今まで隠れていた頭部があらわになって、そこにあった衝撃的な髪型に私はぎょっとなる。


 な、なにあれ、すっごい派手な前髪! 真っ赤な色からこげ茶色にグラデーションのかかった、目にも鮮やかな――って、あれ?


「あの前髪、どこかで……」

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