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「ちょっとくらい、よくなっ――」

「おい、ペタコ」


 私は窓の方へとむけかけていた目を、床下にうつした。そこにちょこんと座りこんでいたのは、銀色の毛並みの犬っころ。


 ルーをにらむように見おろしながら、私は小さく嘆息した。


「だから、ペタコじゃないってば」

「オレ様がペタコと決めたら、ペタコで良い。それよりも貴様、好きなやつはいるのか?」

「……は? はあ!? な、なんでルーにそんなこときかれないといけないの!?」


 突然の質問に私はビクッとなりながら、うしろにのけぞった。

 ぴょん、と私の空いた両ひざに飛び乗ってきたルーは、「いいから答えろ」とえらそうに続けてくる。


「オレ様には、そこそこ重要なことだ。もう一度問う。好きなやつはいるのか?」


 好き? 好きぃ!?


 なんで、そんなことが重要なわけ?

 わ、私が好きなのは……好き、なのは……!


「その態度は、あからさまだな」


 ぼそ、とルーがあきれたようにつぶやく。

 その見透かされたような態度に、私はバッと身体を起こして叫んだ。


「てか、いないし! むしろ、あんこが好きだし!」

「あんこ? だれだ、それは」

「あんこは、あんこだし! あんこは、私の世界を救ってくれるんだから!」

「世界を救う? なるほど……、そういうことか」


 一人で納得したらしいルーは、私の膝から軽やかにおりていく。トコトコと移動して窓辺のスペースに飛びあがると、伏せの格好で動かなくなってしまった。


 なんだったの……、いったい……。一気に、疲れたし……

 好き? 好きってなに? あんこが好きなのは、確かだけど。


 グルグルグルグル。さっきのルーの質問が、頭の中を何度も何度も駆けめぐっていく。答えは……、出てくるわけがない。


「もう寝よ……」


 脱力してベッドに横になると、私は目を閉じた。けど、すぐに見開く。


「って、眠れないしっ! ああもう、ルーの馬鹿っ!」


 ゴロン、と寝返りをうつ。そして、ゴロンゴロンゴロンゴロン――眠れないぃぃぃいい!

 なかなか訪れてくれない睡魔に、私は悶々としながらその夜を過ごすことになってしまった。


 次の日。前日までのいろいろな疲労がたまっていたせいか、すっかり寝過ごした私は、ぼうっとする頭をかかえながら部屋を出た。


 隣の部屋に、サリューはいなかった。どこに行ったんだろう、と疑問に思う前にだれかの叫び声がひびいてくる。サリューじゃない、昨日の執事とかいう人でもない。


 吹き抜けになっている階下をのぞきこんでみれば、奥に通じる両扉が開け放たれているのが見えた。

 もとの部屋に戻った私は、窓辺でまだ寝ていたルーを肩に乗せてから階段をおりて、扉の外側で中をうかがってみる。


 そこは、広間になっていた。壁一面が真っ白で、窓もカーテンもない。天井にはきらびやかなシャンデリアが輝いていて、左側には豪華なソファーとテーブルのセット。その隣でカーペットに座りこんだだれかと、その人を見おろしているエレナイの団服を着ただれか。深々と白いベレー帽をかぶった見覚えのないこの人が、もしかして地の騎士なのかな?


 入口近くの壁によりかかって腕を組んだサリューを見つけて、私はそちらに歩み寄った。


「サリュー」

「あん? 今頃、お目覚めかよ。随分、ごゆっくりな登場だな」

「ごめん。昨日、寝つけなくて。部屋にきて、叩き起こしてくれてもよかったのに」

「んなことできるか、阿呆。てめえも一応、…………な」

「は、はあ? まあ、いいや。えっと、今どうなって?」

「簡単に言えば、もめてるってやつだな」


 ひょい、と肩をすくめるサリュー。

 「違う!」と悲痛な叫びが飛びこんできて、私はそちらに目をやった。


「わたしは、そんなコロシアムやバトルロイヤルなんて、これっぽっちもきいたことがない!」

「ここにきてまで、嘘はつかないでよ。証拠はいろいろとあがってる系なんだから、さっさと認めてくれた方がこっちも楽なんだよね」


 ハスキーな声が、淡々と告げる。


「嘘もなにも、やっていないものはやっていない!」


 必死に否定する悲痛な声の持ち主に、ハスキーな声の人が一枚の板のようなものを差し出す。


「これ、なーに?」

「な、なんだ、それは」

「あれ、忘れちゃった系? 見た目どおりの頭足りない系かー。そちらさんがねえ、あの集落で作っていたバトルロイヤルの招待状の原本ってやつ。日時、場所、そしてかけ金の下限額。これを印刷して、懇意にしている権力者や豪族、闇の商人たちに送っていた系なんでしょ?」

「そ、そんなのでたらめだ!」


「これと一緒に、ダッサダサの黒装束も押収した系なんで。あのコロシアムの関係者は全員、ああいう黒装束を身に着けていた系みたいだし?」

「それは、あのお方にお仕えするための衣装だ! コロシアムとは、関係ない!」

「まったく、頑固すぎ。その頭はもしかして、考えるためには作られていない系? そちらさんがこの町の地下でバトルロイヤルを開催して、そこで莫大な利益を手にしていたことは明白系なの。いいかげん白状してくれないと、ボクも面倒なんだよね」

「知らないものは知らない!」


 さっきからずっと否定はしているようだけど、証拠とかいろいろ出ているんだ。なら、私の出番はなさそうかな?


 やり取りをぼんやりながめていると、横からサリューが声をかけてきた。


「……おまえ、どう思う?」

「どう思うって言われても、なんとか系って変わった口癖ですね」

「は?」

「いえ、こっちの話です。えっと、あの座りこんでいる人が例の主催者なんじゃないの?」

「そうらしいが、どうもさっきから引っかかる」

「引っかかる? なにがですか?」

「あいつ、そんな大それたことをしそうなタマか?」


 サリューがあごでクイ、と『あいつ』を示してくる。

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