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 ティグロー。

 目的の町にたどりついたとき、空に浮かんでいた太陽が出発した時とは逆の方へと移動していた。


 馬に乗ったまま進んだ入口にいたのは、あのマーチングバンドの兵隊! よみがえるここでの一幕に、私は肩のルーを抱きかかえ、馬上でうずくまる。いぶかしんだらしいサリューが、「なにしてんだ、おまえ?」ときいてくるけど、スルースルー! 今は、私にかまわないでください!


 馬がとまり、耳障りな金属音が近づいてくる。

 ドキドキドキ……


「お疲れ様です! エレメンタルナイツの方とお見受けしますが、お名前をお伺いできますか」

「ああ。炎の騎士サリューだ」

「サリュー様。通行証を拝見します」


 後方で、サリューが身動きするのが伝わってくる。


 こ、この待ち時間が心臓に悪い。気づかれませんように、バレませんように。

 ドキドキドキ……


「失礼しました。どうぞ、お通りください」


 待ってましたの、その言葉。

 ほっ、と私が安堵したと同時。「ところで」と、声が続けられる。


「お連れの方は、どうされたのですか? さっきから、ずっとうずくまったままのようですが」

「!」


 私の鼓動が、はねあがった。


 どうごまかそうか、馬の鳴き声でもまねてみようか、もういっそここから飛んで行ってしまおうか、翼があったならそのまま太陽に焼かれて落ちていけるのに、とかよくわからない思考におちいっていた私の耳に「ああ」と、どこか楽しげな声が届けられた。


「慣れない移動で、体調を悪くしたのかもな。どこか休ませられる場所は、あるか?」

「それでしたら――」


 ここの店がどうの、あの店がこうのと、丁寧に一つ一つ説明をしてくれているのは、いいけども!

 今は早く! 早くここから離れたいのに!


 って、この町の名物とか特産品とか、そういう情報いらないから!

 あ、でも『ふわっともちっと二度食べてもサンドイッチ』はちょっと気になるかも……いやいやいやいや。


 サリューの、いつになく優しげでおだやかな話し声。いつ終了するかわからない世間話の恐怖につつまれながら、私はただひたすら早く終われー終われーと念じながら目を閉じていた。


 ようやく地獄の入口をくぐりぬけられたのは、それから随分時間が経ってからだった。


「なに疲れた顔してんだ、おまえ」


 しばらく行ったところで私は馬からおろされ、サリューが笑いながらそう言ってくる。

 私はげんなりして、近くの木にもたれかかると深く嘆息した。


「だれのせいですか、だれの……」

「あん? オレはただ、この町のことをいろいろきいていただけだぜ? 特に悪いことはしていないと思うがな」


 その割には、すごくニヤニヤした表情をしていますけど。あきらかに楽しんでいるでしょ。


「サリュー。もしかしなくても……、さっきのこと根に持ってる?」

「まさか。じゃ、こいつを預けてくるからおとなしくそこで待ってろよ?」

「……」


 私は返事をせずに、とりあえずうなずく。

 それから徒歩で戻ってきたサリューに連れられて、町の奥へと移動した。一つのためらいもなく大股で進んでいく背中を、私は懸命に追いかける。


「――おっと、ここだ」


 次にサリューが立ち止まったところは、大きな家の前だった。


 うわっ! すごい立派なお屋敷だ。


 アーチ状になった白い門ときれいに整えられた緑の垣根に囲われたそこは、私が通っている高校の運動場並みの広さはありそうだった。しかも、庭つき。噴水つき。使用人らしき人たちが、花壇の手入れや掃除を入念に行っている。


 いかにも、金持ちが住んでます的な雰囲気むんむんなその場所に、私は?マークを飛ばした。


「ここは?」

「この町の、町長の邸宅だ。とっとと行くぞ」

「う、うん」


 大股で庭の芝生を踏みしめていくサリューを追って、少しドギマギしながら私も入口の門をくぐった。


「ようこそ、炎の騎士様。それとお連れ様。このお屋敷にお仕えしている、執事でございます」


 ひんやりとした空気と、おだやかな声が出迎えてくれる。


「お忙しいところ、失礼する。町長殿は、どちらに?」


 優雅に一礼してから中に入っていくサリューの姿は、さっきまでの粗野なイメージとはうって変わって洗練されたもの。サリューって、こんなふるまいもできたんだ。ちょっと意外。


 執事と名乗ったタキシードの人が、「申し訳ございません」と返してくる。


「朝方、例の一団の見当がついたと報告があり、先ほど地の騎士様とともにお出かけになられました」

「そうですか。いつ、お戻りに?」

「明日には、戻られるかと」

「では、それまで待たせてもらっても?」

「もちろんです。主人からも、丁重にもてなすよう指示をされております。お連れ様も、お部屋にご案内いたしましょう。同室の方がよろしいですか?」

「「別室で!」」


 答えた私とサリューの叫びが、見事に重なった。


 そのあと、おいしい食事やあたたかいお風呂、その他もろもろで丁重にもてなされた私とサリューは、与えられた部屋でそれぞれ一晩をあかすことになった。


 私はルーをつれて自分の部屋に戻ると、ベッドに座ってくつろぎながら、ぼうっと宙を見ていた。


「勢いで、ここまで来ちゃったけど……」


 前かがみになって膝に肘をつくと、私は手のひらにあごを置く。


 少しだけやめておいた方がよかったかなあ、なんて。ううん、そんなことはない。ないよね。

 今ごろ……、どうしているかなあ?

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