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 だれ、あれ。怪しい。この上なく、怪しすぎる。


 フォークの動きはとめないまま、私はエリー越しにその人物をチラチラと観察し始めた。

 あ、きょろきょろしながら、こっちの方に歩いてきた。


「ちょっとあんた、さっきからなに――」

「――げっ! アホ女と猫かぶり姫!?」


 エリーのいらだった声と、灰色ローブのあわてたような声がかさなった。

 あれ? 今のって……


「その声とその単純明快な呼び方は、もしかしなくてもサリューですよね?」

「うぐっ」


 私の指摘に、声をつまらせる灰色ローブ。

 エリーが大きな瞳をまるくして、「サリューですって?」と灰色ローブをのぞきこんだ。


「あんた、こんなところでコソコソとなにやってるのよ。しかも、なにその怪しい格好」

「うっせえ、てめえらには関係ねえだろうが。ああくそっ! せっかくここまで来たっつーのに」


 サリューのボソリとしたつぶやきと舌打ちが、きこえてくる。


 あ……、そっか。もしかして、と私の視線が今まで堪能していたお皿(完食済)へとうつる。


 荒々しい靴音と一緒に身をひるがえして去っていくサリューと入れかわりで、見たことのないおじさんが私たちのテーブルへとやってきた。


「かわいい嬢ちゃんたち、甘いものが好物なんて趣味が合うじゃねえか。一緒にお茶しようや」

「かわいい? 誰がですか? あ、エリーは確かにかわいいですけど」

「はあ!? なな、なに言ってんのよ、あんた!」


 真っ赤になって、否定するエリー。

 そんな彼女の隣の席へ強引にわりこみながら、おじさんは気持ちの悪い笑いを浮かべてくる。


「グヘヘ。ごちゃごちゃごちゃごちゃ、そんなことどうだっていいじゃねえか。三人で、楽しもうぜい?」

「ちょっと! あたしに触らないでよ! せっかくのお気に入りの洋服が、汚れるじゃない! というかあんた、自分の顔を鏡で確認してから出直してきなさいよ! そんな低レベルでナンパしてくるとか、馬っ鹿じゃないの!?」


 え、ナンパ? これ、ナンパだったの?

 生まれて初めてナンパなんてされたけど……、想像していたのと違うなあ。


「ほお、威勢のいい嬢ちゃんだ。グヘヘヘ。それくらいじゃないと、盛りあがらないよなあ」

「! はなしなさいよ!」


 うわあ。エリーにからむ図は、まるで絵にかいたようなセクハラオヤジだ……

 って、感心している場合じゃない。エリーを助けなきゃ。


「あの――」

「おい、そこのハゲたおっさん」


 投げかけられた声に、私もエリーもおじさんも動きをとめてそちらをむく。


 いつの間にもどってきたのか、そこにいたのは灰色のローブに身をつつんだ怪しさ全開の人物。フードからのぞく赤い瞳が、不敵にきらめいた。


「その二人はあいにくと、オレの方が先約ってやつでね。とっとと失せろよ」

「あんだあ、おまえ? オレ様とやるってのかあ!?」

「ハハハッ! そういうの、わかりやすくてすげえいいわ。こっちは、いろいろあってイライラしてんだ。ほら、とっととかかってこいよ」


 バサッ、と灰色のフードがうしろに流される。


 あの、サリューさん。顔、もろ出しになっちゃっていますけど、こんなところで大丈夫なんですか?


「ねえ、あれ……。もしかして、エレメンタルナイツの炎の騎士様じゃないの?」

「え! あの『月間エレナイ通信』先月号の表紙になっていた、サリュー様!?」

「なんで、こんなところに?」

「超かっこいいし!」


 ひそひそ、とまわりから女の子たちの色めいた声がきこえてくる。

 ほら、バレてますよ。エレナイ通信って、意味不明な単語までありましたけれど。


「ぐわあっ」


 ドガラガッシャーン! 無人のテーブルと椅子に、おじさんがふっとばされていく。そこへツカツカツカと、大股で歩み寄っていくサリュー。


 「ひいっ」と叫び声をあげ、おじさんは腰が抜けたのか四つん這いのまま逃げ出していった。


「ああ、くそっ! さっきから、とんだ無駄足ばっかじゃねえか。ったく、ありえねえ!!」


 床をけりながら吐き捨てるように言うと、サリューもまた乱暴な足取りで店から出ていく。

 一気に静かになったその場で、エリーはそれほど動じる様子もなく嘆息した。


「なにしにきたのよ、あいつ。まあ、あんなんでも一応エレナイだし、いいネタにはなったけど」


 エレナイって、さっきの女の子たちも言っていたけど、もしかしてエレメンタルナイツの略? いいネタって……、なんの?


 深入りするとめんどくなりそうだし、やめておいた方が無難かな。あ、そうだ。


 熱心にメモ帳に書きこんでいるエリーには気づかれないように、私は少し離れたところにいたメイドさんに近づいていって、そっと耳うちした。


「あの……、ツケでお持ち帰りとかってできますか?」

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