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(9)

 道なき道を移動して、跳んではねて、あっという間に戻ってきたお城の入口でおろしてもらった私は、早鐘をうっている胸元を何度もたたく。

 それを、あまりの恐怖に声をつまらせているとでも解釈したのか、心配そうな秋斗くんの顔が私をのぞきこんできた。


「ごめん、美結さん。さすがにちょっと乱暴すぎたかな?」

「そ、その辺に関しては大丈夫……、だから。早く報告に行ってきなさいってば。お仕事なんでしょ?」

「うん。じゃあ、美結さん。またあとで」

「とりあえず……、ありがと」


 私のお礼に秋斗くんは少し驚いたように目をひらいてから、すぐさま無敵の微笑を浮かべる。


 もちろんそれに凍結させられた私は、右手をふりながら走り去っていく秋斗くんに、ぎこちなさ100%の動きで手をふることになった。


 完全にその姿が消えると、ようやく私は呪縛がとけたように息をつく。


「はあ……、えらい目にあった」


 これから、どうしよう? 日が暮れだした城内は、あわただしくたくさんの人たちが行きかっていく。バタバタバタ、とあまり見慣れないだろう私には目もくれず、私の横を、前を、うしろを通り過ぎていく。


 警備とか、大丈夫なんだろうか? まあ、こっちの世界にはこっちの世界のルールがあるだろうから、よそ者の私がとやかく言う必要はないだろうけれど。


「――あら? あなたはたしか」


 透きとおるような、静かな女の人の声が私の耳をうつ。


「あ。さっきの……」


 そこにいたのは、薄水色の髪を一つにゆったきれいな女のひと。王侯貴族が使っていそうな豪華な部屋で見かけた、クールビューティーさんだった。彼女が青色の瞳をなごませながら、私に歩み寄ってくる。


「こうやってお話しするのは、初めてね。アキトは一緒じゃないの?」

「秋斗くんなら、団長さんのところに行くって別れたところです」

「そう。おそらく、先刻の襲撃の件ね。ということは、アキトが撃退してくれたのかしら? 魔王を倒したはずなのに、魔物の数はそんなに減っていない。やっぱり、変ね」


 唇に指先をあて考えこむような仕草の彼女に、私は少しだけ首をかたむけた。


「ああ、ごめんなさい。こちらの話なの、気にしないで。それより、残念ね。団長なら、少し前に隣国へむかわれたわ」

「えっ」


 それって、入れ違いってやつじゃ。

 彼女は小さく嘆息すると、頬に右の手のひらをあてた。


「だから報告は団長補佐の私にしてくれて構わないんだけれど、アキトの性格だとわざわざ隣国まで団長を追いかけていって、直に報告をしそうな気がするわね」


 思いこんだら、一直線。いい意味では素直、悪い意味では融通がきかないというか。彼女の分析はもっともな感じがして、私は苦笑してしまった。


「た、確かに……」

「あの子の能力なら、移動にもそんなに時間はかからないでしょうけれど、おそらくそのまま団長につかまって、いろいろつきあわされることになりそうだし、帰りは遅くなるかもしれないわね。あの子の婚約者としては、ちょっとおもしろくないんじゃないかしら?」


 おもしろくない? 帰りが、遅くなることが?

 夜遊びくらい、別にいいんじゃないんだろうか。私自身、そういうのはあまり興味ないし……


「あ、いえ。おもしろいとかおもしろくないとか、特にそんな感じもなくて。それに私――」


 婚約者じゃありません、そう続けようとして私はやめた。

 ここで私が否定しちゃうと、秋斗くんの立場が悪くなるんじゃ? という考えがふと頭をよぎったからだ。なんで私がそんな心配をしなきゃならないの、とうつむきながら息をはく。


 「ふふ」と上品な笑いがきこえてきて、私は怪訝に思いながら顔をあげた。


「――アキトも苦労するわね。ふふふふ」

「え?」

「そうそう。申し遅れたけれど、私は、イレイズ・ルフト・シュディアーネ。イレイズと呼んでくれると嬉しいわ」

「は、はい。あ、えっと、相原美結です」


 名乗ってから、私はペコと頭をさげる。


「アイ・ハラ?」

「美結です」

「ふうん、変わった名前なのね。なら、ミユちゃんでいいのかしら?」

「あ、はい。呼び捨てでもなんでもいいです」

「ミユちゃん。もう少しあなたとこうして過ごしていたいけれど、あいにくまだ自由に動ける時間じゃなくて。また次の機会に、ゆっくりとお話ししましょう」

「は、はい」

「特にすることがないのなら、少し早いかもしれないけれど夕食でもとったらどうかしら? 食堂は、そこの廊下を真っすぐに行ってつき当たったところを左に曲がればすぐだから。私かアキトの名前を出せば、いろいろと用意してくれるはずよ」


 夕食! その単語を耳にしたとたん、私のお腹から情けない音が響き始める。さっきの市場で、いろいろとおいしそうなにおいに刺激されまくったのに、すっかりとお預け状態になっていたのを思い出した。


 クスクス、と唇に指をあてて微笑しているイレイズさんが、私のすぐ隣を過ぎていく。途中、私の耳元にささやきが落とされた。


「――あなたの世界のこと、今度詳しくきかせてほしいわ」

「!」


 え……?

 はじかれたように、私はふり返る。


「それじゃあね」


 規則ただしい靴音と一緒に、一つにたばねられた髪が揺れ動きながら離れていく。


 どうして私が、こことは別の世界から来たってこと、知っているの? 秋斗くんから、教えてもらったんだろうか。でも、それなら彼にきけばいいのに。どうして、私?


「あ、あの!」


 あわてて呼び止めようとしたけど、あのクールビューティーな女のひと――イレイズさんは、もうすでに私の視界のどこにもいなくなってしまっていた。

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