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 趣味? 大丈夫? なにが? いや、全然大丈夫じゃないんだけど。


 考えにふけっていた私はようやく現実に引き戻されながら、いつの間にか手にしていたらしい服を見た。


「!!!!」


 それは、黒く艶やかな光沢をはなった衣装だった。胸元はあみあみ、ウェスト部分はキュッとしぼられていて、足のつけねの部分はくっきりVの字。ベルトやリボンがいくつもあしらわれていて――こ、これはいわゆる、じょ、女王さm……


 な、な、な……!! なんで、こんなマニアックなものを私は選んで……!!


 は、となって秋斗くんを見やれば、ちょっと赤面しながら微笑される。


「えっと、その……。やさしく、してね?」

「なにをだああああああああああ!!!!」


 絶叫してから、私は手にしていたそれを服の間に無理矢理ねじこむ。素早くその両脇にかけてあったハンガーを二本つかむと、ダダダッとさっきまで秋斗くんが使っていた試着室にとびこみ、カーテンで現実世界をさえぎってから、自分の制服に手をかけた。


 はやく、はやくここから出なければ!

 バサッと脱ぎ捨て、持ち込んだハンガーから新しい服をとる。


 って、ああああ! 今さら気づいたけど、こ、こんなかわいらしい服なんて、着たことないよおおお。だからって今まで着ていた制服は、ぐっちょり感がさらにひろがって見るも無残な姿になってしまっていた。


 さすがに、もう一度これを着るわけにはいかない。元の世界に戻ったら、着ていく制服どうしよう……


 結局、悩みに悩んだ結果。おそるおそる試着室から出た私を、真っ先に秋斗くんが見つけてくる。ビクッとなった私に、秋斗くんが小さく息をのんだ。


「……っ」

「な、なに?」

「あ、いや、ごめん。ちょっと……、びっくりしちゃって。美結さんも、そんな格好するんだね」

「や、やっぱり変だよね。私がこんな、レースたっぷりの女らしさ前面に出しまくってごめんなさい的な、こんな、らしくない服なんて――!」


 身動きするたびに、フワフワとひざ丈のすそが揺れる。


 上半身は、白のブラウスみたいなもの。そのまま腰の部分がいくつものギャザーでしぼられ、フリルの黒いスカートにつながっている。ドレスなのか、ワンピースなのか……どっちにしたって、こんな服装恥ずかしすぎて今にも死んでしまいそうだ。


「どうして?」

「ど、どうしてって見たらわかるじゃない!」

「うん、そうだね。似合ってて、すごくかわいい」

「な……っ」


 しごく当然と口にされた誉め言葉に、私は目を見開いたまま硬直してしまった。


 そんな私に、秋斗くんがほほえみかけてくる。ひいいい、こ、この顔は……


「あまりにかわいすぎて、今すぐこの手で抱きしめたいくらい」

「!?」

「なんてね。いきなりそんなことをしたら、きみに怒られるもの。だから、我慢する。ね、えらいでしょ? でも、おれの気持ちは――って美結さん、どうしたの?」

「どうしたも、こうしたも……っひゃあっ」


 心配そうな面立ちが、すぐ間近にまで迫ってくる。


 私の息が、完全にとまった。


「大丈夫? 顔、真っ赤だよ?」

「!!!!」


 だ、だれのせいだあああああ!!


 叫びそうになるのを必死に抑えこみながら、私はツカツカツカと店の出口へ向かった。


「ちょ、ちょっと待ってよ、美結さん」

「待てない!」

「そうは言うけど、きみとおれの服の支払いがまだ終わっていないよ?」

「!!」


 そうだった。私は、うらめしげに秋斗くんを見る。「すぐに終わらせてくるから」と秋斗くんは、店の奥へと戻っていく。


 早く、早く、早く。ああもう、無理! むしろ今は、秋斗くんから離れたい!


「美結さん!」


 呼ばれる声がしたけど、きこえないフリ! 私は店を飛び出すと、人ごみの中へと駆けこんだ。流れをかきわけて、私は両足を懸命に動かす。これだけの人にまぎれていたら、さすがの秋斗くんでもそう簡単には――


「ねえ、美結さん」

「!!」


 って、いつの間にか追いつかれているし! 相変わらずの、意味不明な能力を発揮するんだから……もう! 軽やかに隣に並んでくる秋斗くんに、私は移動スピードをあげる。


「どこに行こうとしているの?」


 そう言いながら、すずしい顔でついてきている秋斗くん。


 これじゃ、ぜんぜん意味がないじゃない!


「そ、そんなの、私が知るわけないでしょ! とりあえずどっか遠く、ここじゃない場所!」

「そうなの? こっちはね、市場の方だよ」

「市場?」

「いらっしゃい!!」


 私が尋ね返すのと同時、ひときわ甲高い声が辺りにひびきわたった。


 うわ。なんか、すごい……


 目の前にひろがっていたのは、大きな通りとその両端にズラリとならんだ商店や屋台の数々。色とりどりの商品の前で手を叩いたり、声をかけたりとお客さんの興味を引こうとしている商売人たち。


 まるで、有名な神社やお寺のお祭りみたいなにぎやかさだ。


「へい、らっしゃいらっしゃい!」

「新鮮な食材、たあんと買っていっておくれ」

「どこの店より安いよ、安いよ!」


 あっけにとられたまま、私は間を抜けていく。


 左、右、そしてまた左、右、右、左と何度も見わたす。

 なにあれ、土偶? 手足が6本、しっぽもついているし、変な形……


 あ。

 クンクン、と鼻が反応する。


 なんだろう、これ。栗のようなリンゴのような、いいにおい……

 自然と、口がほころんでしまう。


「ね、美結さ――」

「おっと、そこのお似合いなお二人さん、ちょっと見ていかないかい! いいものそろっているよ」

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