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 能天気って、失礼な。ほんのちょっと、マイペースなだけよ。


 って、怖かった? 誰が? 一応、一人ぼっちでもなかったし。きょとんとしていると、ドオオオン! ひいいい、天井が崩れてきたし! 


 彼のすぐ背後を、大きな瓦礫がいくつも落ちていく。なにすずしい顔しているんですか、あなた!


 うわっぷ! ななな、なんでいきなり、だだだだ抱きしめられるわけ!?


「もう、大丈夫だから。これからは、おれがきみを必ず守るって約束する。おれの、すべてをかけてでも。だから、だから」


 だだだだだ、大丈夫じゃないし! 今、まさに今! 守るどころか、そう言っている誰かさんのせいで、危険きわまりない状態におちいっているんですけど……!?


「だから……っ、おれと結婚してください!」

「って、そんなことを言っている場合かああああ!!」


 私の絶叫に、彼――秋斗くんは少し驚いたような表情を浮かべた。


「拒否、しないの? 美結さん」

「今は、そんなことを言っている場合じゃないの! 周りを見なさいよ、周りを! とにかく、急いでここから脱出しないと、結婚どころの問題じゃなくなるでしょうが! 話はそれからよ!」


 私のまくしたてに、秋斗くんは何度かまばたきを繰り返してから微笑した。


 なんなの、このさわやかな余裕は……! ああもう! こんな非常事態のときに、内からあふれんばかりのイケメンオーラをかもし出すんじゃなあああい。


「そうだね、こんな場所じゃ雰囲気も何もなかったな。そういうのは大事にしろって、前に美結さんに怒られたのにね。ごめん。じゃあ、あとでゆっくりと――」

「ああもう、わかったから! 早く早く!」

「うん。美結さん、おれの首にしっかりつかまってて」

「首? ああああ、ちょっとまって! 犬っころ、どこ!?」


 一緒にいた小さな存在を思い出して、私は辺りを見わたしながら叫んだ。


「――だれが犬っころだ、だれが」


 不機嫌そうな返事が、上空からふってくる。

 トン、と軽い衝撃が、秋斗くんと、みみ、密着していない方の肩におりてきた。


「美結さん、それは? 今、おれのきき違いじゃなければ――、しゃべったよね? 動物がしゃべるなんて、この世界でもきいたことないんだけど」


 たずねてくる秋斗くんに「ああ、うん」と私はこたえる。


「こっちの世界で、私が最初に会った犬っころのルーよ。なんでしゃべれるのか私にもわからないんだけど、ここまで勝手についてきちゃって。置いていくのもこの場所じゃ危ないだろうし、一緒に連れて行ってもいい?」

「うん。美結さんがそう言うなら、おれはかまわないよ」

「……」


 ニコ、とさわやかに微笑する秋斗くんとは対照的に、ルーは無言で私の首筋に隠れるように黒い身体を縮こまらせていく。おとなしいその様子に、私は「どうしたの?」と眉根をよせた。


「もしかして、さっきの秋斗くんの戦いを見て怖くなった? きみ、カバブタのときもそうだったけど、意外と臆病だよね」

「まさか。このオレ様にかぎって、そんなことあるわけがない」

「なら、どうしたのよ。らしくないじゃない。いつもの偉そうな態度は?」

「……いや。さっき貴様の服をつかんでやったことで、大切なあごを痛めてしまったからな。あまりしゃべらない方がいいと、判断しただけだ。それより、早くここから脱出した方がいいんじゃないのか?」


 って、そうだった!


 ガラガラ、ドドーン! とまわりの崩壊は、どんどんと激しさを増していって一刻の猶予もなさそう。うわっ! なんかもう、世界の終わりですかってくらいの勢いだ。


 そんな中で、秋斗くんが私に顔を近づけてくる。ひいぃぃっ! 私の世界が停止する……!


「美結さん。ほら、早く。おれの首につかまって」

「首、首……こ、こんな感じ?」


 うぐっ。な、なるべく顔を見ないように、いそいそと私は秋斗くんの首に両腕をまわした。


 うううう、ただでさえ密着して近いのに。さらに近いよう、めちゃくちゃ近いよう。


 嫌でも感じてしまう、異性特有の体つき。私を軽々と抱きあげていることもあって、幼かったはずの彼のイメージがどんどんどんどん書き換えられていってしまう。


 恥ずかしさともろもろで私がOTL状態に追いやられていると、耳元に小さく吹きだすような笑み。なに? と思う間もなく。


「きみに会いたくて……、気が狂いそうだった」

「ふあっ!?」

「もう少しで――を、――――ていたかもしれない。だから、本当によかった」


 な、ななななななななな!?


 カチーーーン。恐るべきイケメン・ウィスパー・ボイスに脳内やらなんやらを駆逐破壊されまくった私は、秋斗くんの言葉の一部をきき逃してしまうほど意識を凍りつかせながら、崩壊していく周辺が次第にぼやけていくのをただただ遠くに感じていたのだった。

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