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 ウオオオオオオオ――!! 台詞の続きをのみこむように、先ほどよりも大きくて野太い歓声があたりの空気をふるわせていく。


「ヌホホホホ。どうやら、始まったようですよ」


 それを皮切りに、歓声に混じって甲高い金属音や何かが燃える音、切り裂くような風の音、怒号、断末魔のような悲鳴、さまざまなヤバそうな音たちが私の耳に飛びこんでくる。


 ひいい! 普通に怖い。怖い、けど。


 私が好奇心に負け、さっきと同じように柵の上からおそるおそるのぞきこんでみれば、円形の白い舞台のようなものと、それを取り囲む黒で統一された人、人、人が今度ははっきりと見えた。


「戦いはすべて、血わき肉おどるバトルロイヤル形式となります。参加者たちは10のグループに分かれて、一つの席を奪い合う。そしてまた、勝ち残ったものでバトルロイヤルを行い、最後の一人になるまで殺しあう。ヌホホホホ! なかなか、たまらないでしょう?」


 ヌホホホ、と再び笑う声にゾクっとうすら寒いものを感じながら、私は小さく息をのんだ。


 舞台には、10人ほどの人影があった。10“人”と呼んでいいのか、はなはだ疑問ではあるけれど。なぜなら、その上で戦っていたのはおよそ人間とは思えない異形のやつらばかりだったからだ。


 確か、そう。ここに連れられてくるときの廊下で見た、サーカスとか雑技団とか見世物小屋みたいな怪物たち。彼らが、コロシアムの参加者だったわけね。


 それじゃあ、周りを取り囲んでいるのがもしかして、信奉者とかいう連中なんだろうか。さっき、年に数度の我らが信奉者のつどいとかって言ってたし。


 って、あれ? ちょっと待って。


 参加者があの怪物たちってことは、賞品らしい私は優勝したあいつらの誰かに与えられるということよね? あんな怪物たちが、私を欲しがる理由っていったいなんなの? あいつらにとって、どんな意味が――ああもう、わけわかんない!


 私は髪をかきむしりながら、中央にポツンとたたずむ全身黒マントに目をむけていた。顔は鉄仮面におおわれてよくわからないし、見るからにあやしい姿だけど、せめてまだ人間に近い方が考えとかいろいろ近いかもしれない!


 誰か知らないけど、ガンバって! 超超超超、超ガンバって!! 心の中で声援を送っていると、ドオオオン! と全身黒マントのあたりで激しい爆発が起こった。


「へえ……。なかなか、やるじゃないか」


 ルーの楽しそうな、つぶやく声。


 ちょ! 応援しているそばから、ピンチにならないで!


 すると爆炎の中から、黒マントが飛び出してくる。ホッと安堵する暇もなく、ヘビの頭に牛みたいな顔のやつがでっかいオノをブンブンと振り回し、黒マントに襲いかかっていく。


 ガキイイ、と耳をつんざく金属音。おろされたオノの一撃を、黒マントが横に構えた剣で受け止めたようだった。返す刃で、黒マントがヘビ頭牛男を切り裂く。


 そのグロテスクな光景に、私は思わず目を閉じて、柵をつかんだままズルズルと座りこんでしまう。ゆ、夢に出てきそう。うへえ……


「そろそろ、次のバトルへの出場者が決まるころでしょう。しばらくそこで、ご観戦くださいね」

「え! あ!」

「ヌホホホホ。では、わたしはさる大事な方とのお約束がございますので、これで失礼します」


 黒装束の男が深々と礼をして立ち去っていくのに、私はあわてて左手を出した。


 まだききたいことが、山ほどあるのに! あんなことやこんなこと――、とはいっても最初に何をきこう。


 ヌホホ、ヌホホ、ヌホホホ。笑い声が、どんどん遠ざかっていくのがわかる。


「えっと、えーっと」


 ああああ、もうあんなところに! まとまらないうちに小さくなっていた背中を一応呼び止めようとしたけど、鳴りやまない過激な音や落胆のような嘆息たちにおおいつくされて、声が届かない位置まで行ってしまった。


 ああ、せっかくの情報源が……


「ん?」


 黒装束の男に、だれかが近寄っていくのが見える。黒装束の男が深々と頭をさげている相手は、さっき言っていた大事な方? 遠目ではっきりとは断言できないけど、その姿格好と印象的なアレは――


「ハハハハ! なかなか、やるではないか。オレ様も、久々に血がたぎりそうだ……!」


 私の記憶が完全に合致するより先に、大音量の爆音とルーの哄笑+物騒なボソボソ声、そして最後にきた波動のようなものが私の記憶もろとも、いろいろなものを吹き飛ばしていく。それと、「うおおおおおおしゃあああああ」という大歓声。


 次に巻き起こってきた熱風に髪や服を揺らされながら柵から見下ろしてみれば、白い舞台に黒いシルエットが一つ。


 よくよく見ようと身を乗り出した瞬間、ピシッと何かがきしむ音がどこかからひびいてきた。


「ピシッ?」


 嫌な――、予感。小さかった音は、たちまちピシッビシッビシィイイッと連鎖していき、私がつかんでいた柵に無数のひびをきざんでいく。


「……おっと、ついやってしまった」


 ルーが玉座を離れて、空中でパタパタと浮遊しはじめる。


 おお! 嫌な予感どころか、これはもしかして逃げるチャンス到来ってやつですか!? 早く、私の手錠がはめられている柵よ、壊れてしまえ!


「もうちょっと、こっち! こっちだってば!」


 ガシャガシャと手錠の鎖を鳴らしているうちに、亀裂はどんどん私の足元にまでひろがっていって――、ん? これってチャンス到来うんぬんの前に、もしかしなくても私自身がかなりヤバい状きょ……ッ!


 そう思ったとたん、私の足場が粉々に砕け散り、私の身体はそのまま下へと落ちてい――きかけて、宙でとまった。


 服が引っ張られている感覚に首をめぐらせば、視界の端にちらちらと銀色の毛並みがうつる。


「犬っころ!? 今度こそ、助けてくれたの!?」

「だれが犬っころだ! ――あ」


 呆けた声と同時に首元にあった窮屈感が、一気に消え失せていく。瞬間。


「いやああああああ!!」


 この世界にきて、たぶん二度目の本格的な落下。周りのがれきと再度一緒に落ちていきながら、私はさめざめと自分の不幸をなげく。


 ああああ。また、こんな目に遭わないといけないなんて……!

 今度は、この前よりももっと痛いに違いない。もしかしたら、痛いどころじゃすまないかもしれない。


「なんで……っ」


 なんでこう、何度も何度もピンチに陥るのに、なんなのよ……! かっこいいヒーロー登場の機会は、何度もあったはずでしょ! ちょっとくらい見直したかもしれないのに、なにが守るよ、やっぱり嘘ばっかじゃないの! 嘘はどろぼうの始まりだって、昔教えてあげたのに!


 こうなったら、化けて出てやるんだから! 最後まで責任とりなさいよね!


「…………くんの、ちょーーぜつ!! ウルトラ!! 究極アンリミテッド馬鹿あああああ」


 きてほしくないそのときが、刻一刻と迫っているのがわかる。


 ふいに、ドサッと私の落下がとまった。


「へ?」


 そんなに、痛くない。


 なんで? どうして? 反射的に顔をおおっていた手をおそるおそるどかしてみれば、視界に飛びこんできたのは重々しそうなフルフェイスの鉄仮面。私はどうやら、さっき試合で見ていた黒マントの両腕に抱きかかえられているようだった。


 助けて、くれた?


 そういえば――実は隠れてコロシアムに参加していたヒーローが、ヒロインのピンチを救ってくれるというのも、王道といえば王道よね? もしかして、今度こそもしかするの?


 私はちょっとだけドキドキしながら、黒マントの鉄仮面に手をかけた。はずしたそこには、ずっと会い――もとい、文句を言いたくてたまらなかった顔が――


「って、だれやねん!!」


 この世界にきて、その台詞もたぶん二度目だった。

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