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「……その様子だと、ここまで来れないみたいね。なら、自分でやるしかないか」


 仕方なく、私は鉄格子の間に自分の身体をすべりこませ――られませんよねえ、ですよねえ。無理やり通ろうとしたせいで、抜けなくなる。このっこのっ! っと、抜けた……


 安堵している私の頬を、何かうすら寒いものがなでていった。


「ひっ!」


 楽しもうと思ったけど、とりあえずここは出たい! 今にもデそうなところなんて、やっぱり無理無理無理、無理に決まっている!


「おい、貴様。オレ様の鎖を、とっとと斬りやがれ!」

「その鎖を斬れる力があったら、とっくの昔にこの鉄格子を斬っているわよ」


 チェーンロックを素手でぶちぎれる――、彼じゃないんだから。


「……これだから、脆弱な人間の小娘は役にたたん」


 ボソリとつぶやいて、ルーはその場に座りこんでしまった。


 困ったなあ。どうやって、ここから脱出したらいいんだろう? グルリと見まわしても、窓や抜け穴一つないこの場所。ここが地下にあるということは、連れてこられたルートでなんとなくわかる。たぶん出口は、うっすら遠くに見えるあの階段だけ。


 もちろん、鉄格子は開きそうにない。ため息ついでに、頭をかかえる。


「八方ふさがりって、こういうことかあ」


 することがなくなって、私もルーの近くにしゃがみこんだ。立てたひざの上に肘を置き、そのまま頬杖をつく。


 と、いうか――


 あれから、結構時間がたっていると思うんだけど。いつになったら、私を見つけてくれるんですかね? さっきもちょろっと思い出しちゃったけど。ねえ? どこぞの……、幼馴染くん?


 と。キィ、カツカツカツ……

 木製の何かがきしむ音と、甲高い靴の音がつらなる。このタイムリーな展開。もしかして、もしかする?


 廊下の奥、壁にかけられた松明のあたりでユラリと揺らめく人影が見えた。私の胸が、どんどん期待にふくらんでいく。


 カツカツ、ドスドス……


 まったく、どれだけ待たせるのよ。この世界に足をふみいれる直前、私に言ってくれたあの言葉。


『おれが絶対にきみを守るから』


 あれ、ちょっとは信じてたんですけど。ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ、ね?


 カツカツドスドスドスドス……


 ほんと、しょうがないんだから。見た目はイケメンになっても、やっぱり中身は――


 ん、あれ? カツはともかく、ドスってなんぞ? そこで、ようやく違和感に気づく私。この流れ、過去のパターンだと――まさかまさかまさか。


 ドスドスドスドス……


 あ。完全に、効果音がドスだけになった。暗闇からあらわれたのは、ある意味では忠実に、でも私の期待を大きく裏切ってくれたドでかい物体。


「だれやねん!!」


 わかってはいたものの、流れ的にそう叫んでしまった。しかも関西弁で。


 鉄格子をはさんで、むこう側。そこに立っていたのは、秋斗くんとは似ても似つかないその巨体、その雰囲気、そしてなによりその顔。きゅうくつそうなボロボロの鎧の上に乗っかっていたのは、大きなカバみたいな豚みたいな頭だった。なにこいつ、もしかして人間じゃないの?


 ルーが、私の背中に隠れるようにくっついてくる。あんなにふてぶてしい性格をしているのに、意外と怖がりな小心者なの?


「オマエ、ハンザイシャ。イマカラドレイ、ドレイ! ドレイ、ケッテイシタ。ダカラ、ミセモノニナル」


 片言できこえたその内容は、寝耳に水なものだった。


 は? なんですって? ドレイ? ミセモノ? ダレガ? ワタシガ。


「んなアホなっ!」


 見世物になれるほど、私は絶世の美女でも個性的な顔でもめずらしい特技があるわけでもなんでもない、ごくごく普通の女子高生なんですけど!


 しかも奴隷って、そんな風習があるような町には全然見えなかったのに。

 ゲヘヘヘ、と目の前のカバブタが品のない笑い声をあげた。


「アサッテノヨルニ、ヒサシブリノコロシアイ、オコナワレル。ソノショウヒン、オマエオマエ」


 コロシアイ? ショウヒン? なんだかすごく、きな臭くなってきたけど……


 ドスドスドス。用件を言うだけ言って、カバブタは来たときと同じ物音を立てて去っていく。


「ちょっと! 話、それだけ!?」


 私は、はじかれたように鉄格子をつかむ。顔を押しこみながらさけんだけど、カバブタはお構いなしに闇の中へと消えていった。


「へえ……、コロシアイとは。フフフ……」


 うしろでルーの含み笑いがするけど、今はそれどころじゃない。


 明後日の夜って……、またそんな急すぎじゃないですか。私としては、そこまであわただしくやってもらわなくてもいいんですけれども。むしろ、やってもらわない方がありがたいんですけれども。


 そういえば昔やったロールプレイングゲームで、優勝者にはその国の王女様と結婚できる権利がもらえるっていう武術大会に参加したのを思い出した。


 私、その王女様ポジション? いやいや、そんな甘いものじゃない。だけどとらわれの王女様は、白馬の王子様に助けられて幸せに暮らしましたとさ。――ボンッ、と白馬の王子様が私の脳内にあらわれる。その顔は――


「違う違う違う! 絶対に違う!! むしろ、ただのフラグ・クラッシャーだし!!」


 頬がものすごく熱くなっていくのを感じながら、私は必死にかぶりをふった。


 なな、なにはなくとも私、自分でも知らないうちにかなりヤバい状況になっていますよね? いますよね!? 誰に問うわけでもなく、私は心の中でたずねる。


 ああああ、もう! ほんと、これからどうなっちゃうのよ、私!

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