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(6)

 途中、木やら岩やら身を隠せるところがなくなってあせったけど、私は鼻筋男の子に見つからずに、町のようなところにまでなんとかたどりつくことができた。


「あれって、町?」

「そうみたいだな」


 私の問いかけに、肩の犬っころが答えてくる。


 見た目は、まさにロールプレイングゲームに出てきそうな町並みだった。

 大きな門が入り口にたちふさがり、その奥に西洋風の建物が左右に並んでいる様子がうかがえる。建物の間をたくさんの人が流れ、それらを相手に商売をしているのだろうか、活気にみちた声もかすかにきこえてくる。


 ……ほんとに、そういう世界なのね。なんだか、あらためてそう思ってしまう。


 遠目で観察していると、町の中にターゲットがスルっと消えていくのが見え、私も急いで門へと走った。


「そこの女、ちょっと待て!」


 へ? と思う間もなく、ブンッブンッと風を切る音が立て続けに目の前を通過していく。


「わわっ!?」


 あわてて立ち止まった私の前で大ぶりの槍が二本、私の行く手をはばむように交差された。


 あ、危ない。もう少しで、あの槍が鼻の先っちょをかすめるところだった……


 私がホッとしていると、「何者だ!」という鋭い声。その主は、門の右側で槍をかかげた人物だった。まるでそう、子供の頃に見たマーチングバンドの兵隊さんみたいだ。受け持つなら大太鼓が似合いそうなタイプだな、うん。


 今度は門の左側で槍を持った人――こっちはシンバルとか地味な感じかも? が、私を見おろした状態で口を開いた。


「旅の者と見受けるが、肩に子犬をのせて、見たことのない奇妙な格好までしているな」


 いや、奇妙な格好ってお互いさまだと思うんですけど……

 あ。この世界では、そういうのが普通なんだった。学生服なんて、そりゃあ珍しいよね。


「この町に用があって参られたのか?」

「えと、あ、はい。そうです」

「貴様には関係な――ぶっ!」


 はいはい、黙っておこうね。

 なぜだかけんか腰になっている犬っころの口を、私は手でふさぐ。


「今、その子犬がしゃべったのか?」

「いえ、気のせいです」


 怪訝そうな視線に、私は即座に答えながら口元を少しだけゆるめた。


「ならば、目的は観光か? 商売や勉学か? 誰かの使者か? それとも他に?」


『実を言えば、とあるよく知らない人物をストーキングしていて、その人物が町の中に入っていったので追いかけたいんですよ』


 まさか、正直にそんなことを言えるわけがないので、私は「あはは」とさらに愛想笑いを浮かべた。


 目的、どうしよう。

 元の世界では一応学生なんだし、勉学でいいのかな? でも、この世界の勉学ってどんなの? 小難しい歴史とか出てきたら、わかるわけがない。


「あーっと、その中のどれかときかれれば、他に当てはまるかと思うんですけど」


 あいまいに答えてみたら、門番・左側が私に手を差し出してくる。


「ならば、通行許可証を見せてもらおうか」

「通行許可証? それって……え? あれ?」


 そこで私は、今更ながらあることに気がついてしまった。


「私の言ってること、通じてる!?」


 自分でも驚くくらいの素っ頓狂な声が、飛び出ていく。


 うそ! なんで!? どうして!?


 私ははじかれたように、門番・右側にズズイッっと詰めよった。


「あの! なんでもいいので、しゃべってもらっていいですか!?」

「はあ!?」


 私の迫力におされたのか、門番・右側がたじたじと後退する。それに畳みかけん、と私はさらに語気を強めた。


「挨拶でも褒め言葉でも! なんなら罵倒や非難中傷、ねたみやそねみの類でもなんでもいいんで! さあ、さあ!」

「なんだ、この女! 頭おかしいのか!? 最近噂になっている、邪教の信者の生き残りか!?」

「ああああ、わかる! わかるううう! なんでこうなったのかよくわからないけど、わかるうううう!!」

「うがああああっ」

「お、おい……」


 犬っころのあせったような声がきこえるけど、今はスルー!

 ガクガクガク、と無意識につかんでいたものを力いっぱい揺さぶる。


 言葉が通じる、て普段当たり前のことだと思っていたけど、こういう状況になってそのありがたさが身に染みる。


 全然信じていなかったけれど、言葉の神様ありがとう! 両手を離し、その手をすぐさま組みなおしてから、天にむかってお祈りする。


「だ、大丈夫か? しっかりしろ!」

「ゲホゲホゲホ」


 よし。あとはさっきの鼻筋男の子を見つけて、秋斗くんに元の世界に戻してもら――


 ガシッ。意気揚々とふり向いた私の両肩が、突然つかまれる。え? とたずねる間もなく、私は二本の腕を縛られて、ズルズルと引きずられるようにどこかに連行されていく。


「ちょ、ちょっと待って! なんでこうなるの!? まだなにも、ストーカーとかもしていないんですけど!? いやまあ、さっきここに来るまでの間に、ちょこっとやっちゃった気もしないわけでもないけども! それがちょっと楽しかったなんて、やみつきになりそうだなんて、そんなこと! てか、たったそれくらいで罪になっちゃう!?」

「さっきから、ごちゃごちゃ意味不明なことを! あやしい女め、逮捕する!」

「ええええええええ!?」


 私が何をしたって言うの――!?


「……自業自得だろうが」


 耳元で、犬っころのボソリとしたセリフ。


 ズルズルズル。

 望んでいたとおりに町の中へ入ることができたものの、こんな展開、予想と違う全然違う。


 ズルズルズルズル。

 弁明も何も許されないまま、私は門番・両側に引っ立てられて、町のどこかに連れていかれたのだった。

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