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41 朝の玄関先にて

 今の時刻は6時半頃、日も昇り空も綺麗に晴れ渡っている。風は爽やかに穏やかに頬を撫で、春の新緑の香りが鼻を抜ける。

 ああ、なんて素晴らしい朝だろう。





 目の前に土下座をしている少女達がいなければ。




 「先ずは昨夜のトモヤ様に対する無礼な発言の数々を謝罪させていただきます」


 一番先頭の金髪の少女が頭を下げたまま謝罪をしてきた。

 え?昨夜?ということは昨日の夜に食堂で色々言ってきた子か?


 「トモヤ、食堂の子だよ」


 ソフィア、分かってる。誰かが分からなかった訳ではないよ?自信は無かったけどね!


 「えっと?いきなり謝罪をされても対応のしようがないから取りあえず立って貰えるかな?」


 なにせ今いる場所は女子寮の入り口だ。このままでは他に通行する人の邪魔になる。


 ひとまず彼女達には立ってもらい、入り口のすぐそばにある談話スペースで話を聞くことにした。


 「それで?いきなり土下座されても迷惑なだけなんだけど?俺が『複数の人に朝から寮の入口で土下座させているクズ』というイメージを周囲の不特定多数の目撃者に印象付けるというのなら大成功だけどね」


 別に怒っているわけではないが敢えて突き放すような口調で言い放つ。


 実際、遠巻きに見ていた生徒たちの中には俺のことをそういうふうに見ていた奴もいたから嘘ではない。何より初対面であれだけ攻撃的だったのだから警戒しても無理はないはずだ。


 周りからの印象については何も考えていなかったのか一気に少女達の顔が青くなる。


 「トモヤ、当事者の子はマルヴェイド伯爵家四女『ルイーザ・ディ・マルヴェイド』。軍事における指揮能力に定評のある一族。前当主は共和国を成立させるために軍配を棄てて自ら相手国を訪れ、幾つもの国から合意書を任された傑物といわれているよ。彼女自身は軍人を目指していないっていう噂もある」


 彼女達が震えている間にソフィアがコッソリと教えてくれた。サンキューソフィア!愛してる!


 「ま、誠に申し訳御座いません。わたくしの心足らずのせいでトモヤ様に多大なる御迷惑お掛けするばかりで恐縮にございます」


 ・・・・・・。まあ、今度は頭を下げただけだったし本当に何も考えていなかったのかもしれない。


 「朝のことに関してはもう気にしなくていい。幸いにもここは学園だ。規則にも『貴族・平民などの社会的地位の濫用を禁じる』とあるし私の父を後ろ盾にするのは個人的にしたくない。今後同じようなことをしなければなんの問題もないということにしよう」


 これで今後も似たようなことがあれば厳重に対処すればいいだけだ。


 「あ、ありがとうございます!しかし、わたくしが昨晩トモヤ様が野宿をすることになったのも事実。なにかしらの償いをさせていただければと・・・」


 「厚かましいね」


 ぼそりとソフィアが呟き、ルイーザの表情が固まる。


 「トモヤが『不問』としたのに逆らうの?オマケに自分から処罰の内容を申し出るのでもなく相手に委ねる?自分から申し出てそれが甘いと思われるリスクは分かるけどだからって相手に任せる?もしも一族を巻き込むようなことを要求されたらどうするの?断れる?」


 「そ、それは・・・、わたくしではトモヤ様が満足頂けるお詫びが思い浮かばなかったのです。それに、先ほどトモヤ様のお話を聞いた以上は一族が絡むような要求をなさるとは思えなかったので・・・」


 それはあまりに甘い考えだな。俺がやるべきことではないが少しお灸を据えるか。


 「ルーズヴェルト名誉貴族家長男がマルヴェイド男爵家四女に命じる。この度の賠償金として大金貨10枚(日本円換算で約一億円)、及びマルヴェイド男爵家の領地である『マルヴィー』の移譲を求める」




 『マルヴィー』

  マルヴェイド男爵家の受けた最初の領土。今では干上がっているが元は大きな川が近くを流れていた。そのため水はけもよく、質の良い葡萄や梨などが採れる。さらに綺麗な地下水も湧くため、酒造りなども盛んであり、マルヴェイド男爵家の財力の源でもある。




 もしもこの領土がなくなってしまったらマルヴェイド男爵家は収入源の大部分を失う。オマケに賠償金もつくと致命的にはならなくとも暫くは質素な生活が必須になるだろう。

 収入源の喪失という長期的な損害、貯蓄への大打撃という短期的な損害。

 それぞれ合わさることで大きな効果が出るというわけだ。


 かなり直接的な制裁になるのでルイーザにはすぐにこの意味が理解出来たのだろう。すでに青くなっていた顔はさらに血の気が引き、もはや生気のない白になりかけている。漫画的描写なら口から魂が抜けていくような表現になりそうだ。


 「そ、それは・・・・・・」


 「困るか?嫌なら嫌でいいんだ。家族への手紙を書きたいから席を外してもいいか?」


 もはやパニックで思考も正常に働かないのだろう。白目を剥きそうになってしまい、口が閉まらなくなっている。


 「恐れ多いのですが」


 ルイーザの後ろで控えていた少女が口を開いた。目線を向けても頭を下げたままピクリともしない。変に動いて不況を買わないようにしているのだろう。


 「なんだ?貴様とは話していないはずだが?」


 おそらく従者であろう少女は顔を上げてこちらの目を真っ直ぐに見てきた。


 「こちらのルイーザの従者をしております『ジュリア』と申します。主は現在体調が優れないようなのでわたくしが代行させていただたいのですが、よろしいでしょうか?」


 「主の許可は?」


 「事後報告で充分かと。万が一わたくしに何かあっても外の者達があとを引き継ぎますので」


 随分と余裕があるみたいだな・・・・・・?


 「いいだろう、なんだ?」


 そしてジュリアが言った発言はあまりにも衝撃だった。














 「私の今後の人生のすべてを補償金と領地に充ていただけませんでしょうか?」




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