26 学園長3
ーー『準決勝 ソフィアvsセイジュ』ーー
セイジュ君が入場口から現れたときから観客席からはブーイングが収まらん。アイゼン君との試合の結果に納得出来ない者が多いようじゃの。
おまけに試合開始前にはソフィア嬢に随分と自分勝手なことを言っておった。
なぁにが『勇者である僕が特別の慈悲で愛人にしてやるって言ってるんだぞ!?喜んで愛人になれよ!』じゃ!ソフィア嬢は貴様よりもずっといい男を昔っから見ておるわい。
ソフィア嬢がセイジュを言い負かしたところで開始の合図を掛ける。他意はないんじゃよ?
開始した途端にソフィア嬢が動く。セイジュ君に向かって駆けながら短剣を投げてセイジュ君の片目を潰しよった。
『相手の視界を潰す』という戦い方を教えたのはワシじゃが、物理的に潰すとはのぅ。煙幕とかで妨害する程度にしか考えていなかったんじゃが・・・・・・。容赦ないのう。
セイジュ君は短剣を抜いて片目を押さえながら喚いておる。この結界は痛みを抑える働きもあるからそこまで痛くないはずなんじゃがなぁ。試合が終われば体も元通りになる安心設計じゃ。よっぽど『痛み』を知らないんじゃろう。
「あぁ、いてぇ!死ねぇ。ぶち殺してやるぅ!!」
短絡的じゃのう。
「僕に従えぇ!『聖なる精霊剣』!!」
随分と光が弱いのぅ。これは妖精級のエレメントしか付いていないかの?聖属性のエレメントが少ないとはいえ、勇者が妖精級のみか・・・・・・。大丈夫かのぅ。
とはいえ聖属性のエレメントは妖精級でもそこそこ強力じゃ。ただの短剣では防げないじゃろう。
ソフィア嬢の双剣が破壊され、セイジュ君の足がソフィア嬢の腹にめり込む。
ソフィア嬢は腹を守りながらも倒れ込んでしまった。
残念じゃがソフィア嬢はこれ以上戦闘を継続することはできんじゃろう。
試合を止めようと声を出す直前に・・・・・・
セイジュの足がソフィア嬢を蹴りつけた。その後も何度も蹴りつけ、踏みつける。
思わず呆気にとられてしまった。
「チビで貧乳の分際で!人間モドキのバケモノのクセに『勇者』の僕の誘いを断り!馬鹿にするなんて!許されねぇんだよぉ!」
コノ男ハ何ト言ッタ?『人間もどき』ジャト?
「そこまでじゃ!ソフィア選手戦闘継続不可!セイジュ・フタバ選手の勝利じゃ!!」
必死に怒りを押さえながら終了を宣言する。が、あの男は止めようとせん。
「オラッ!オラッ!最初の頃の威勢はどこ行ったんだよぉ!ヒャハハハハッ!!」
まずい!恐らくじゃがもうソフィア嬢は精神的に弱りきっているはずじゃ。このままではステージから降りても体にダメージが残るかもしれん!
入場口から『龍化』を使ったトモ坊が飛び出してセイジュを吹き飛ばしおった。
ソフィア嬢を抱え上げ、『水魔法:自然治癒強化』を使ったようじゃ。回復魔法は光属性や聖属性じゃからトモ坊には使えんからのぅ。
トモ坊はセイジュに近寄り、頭を踏みつける。何かを呟いたが声が小さくてワシにも聞き取れんかった。
ソフィア嬢を抱え上げたまま入場口へ向かうトモ坊の背中には普段よりも大きく、力強い翼が出ておった。ま、まさか今までの翼は『竜翼』だったとは言わんよのぅ?
ーー『決勝戦 トモヤvsセイジュ』ーー
入場前に生徒達に注意をしておきたかったから出場者の二人には待ってもらっているんじゃが・・・・・・。入場口から殺気が漏れておるわい。冷や汗が止まらんのぅ。
これはアレじゃな。ソフィア嬢が馬鹿にされたときと同じくらい怒っとるわい。確かあのときはスコティニアのヤツが抑えつけたはずじゃが・・・・・・。ヤバいのぅ。
『さてさて、いよいよ決勝戦じゃ。本戦から見ていて気にくわない選手もいたかもしれん。じゃがのぅ、彼らもまだまだ未熟。諸君達には先輩として余裕を見せてやって欲しいものじゃ。』
トモ坊なら、これが彼に向けたものでもあることに気づくはずじゃ。少しは冷静になるといいのじゃが・・・・・・。
『それでは入場じゃ、先に入場するのはセイジュ・フタバ選手!』
もはや野次すら飛ばん。すっかり悪いイメージが定着してしまったようじゃの。
『そして次に入場するのは、トモヤ選手じゃぁ!!』
こっちは野次や歓声が入り混じって賑やかじゃ。野次にしても陰湿なものは少なく、陽気な掛け声が多いように聞こえる。
「なあ、みんな。コイツはどうしたほうがいいと思う?」
トモ坊が生徒達に問い掛ける。
「実は、俺がどうするかは決めている。だが君たちの意見を聞きたい。単純なことだ。一撃で場外か、それともじっくりと身の程を教えてやるか。『場外』ならブーイング、『教育』なら歓声で教えてくれ」
そして、鼓膜が破れそうなほどの大歓声が響きわたった。
こりゃ本当にまずいのう。皆が興奮状態なせいで歯止めが利かなくなっておる。
む?トモ坊の目が赤くなっておらん。トモ坊は怒ると何故か目が赤くなるんじゃよ。ということは、本気では怒っとらんのか?では何故生徒達にあんなことを聞いたんじゃ?
トモ坊がセイジュ君に話し掛けておる。なる程、セイジュ君は異世界人。『人間もどき』という言葉の意味を知らなかったのかもしれん。彼がそれに気づき、謝罪をすれば周りも溜飲を下げるかもしれん!じゃが・・・・・・。
「だからなに?異世界人の僕にはぁ~関係ないしぃ~?そんなどうでもいいこと知りませぇ~ん」
あの子はせっかくのチャンスを逃してしまったのぅ。伸ばされた手をはねのけおったわい。
『勇者』を名乗る者がこれでは彼と同じ異世界人の友人たちも冷遇されかねん。困ったのぅ。
おまけにトモ坊の目が少し赤っぽくなってしまった。『ちょっと頭にきた』程度かの?
「学園長、もう始めてくれ。時間の無駄だった」
まあ、これ以上は確かに無駄じゃろうな。
『それでは、決勝戦の開始じゃぁ!!』(トモ坊、やり過ぎるんじゃないぞい)
小さな声でトモ坊に注意しておくがトモ坊の反応はない。無視しおったなあのク○餓鬼。
そこからは完全に一方的なトモ坊の蹂躙じゃった。左脚は残しているが両腕と右脚は完全に破壊しておる。しかも試合が終了終了すれば直る程度に抑えておる。
トモ坊、恐ろしい子!
そしてトモ坊は最後に観客席を見渡すと、満足したような表情でセイジュ君の腰を踏みつけた。
・・・・・・。うん。自分の鬱憤を晴らしたかったんじゃろうな。
この結界は体は直せても血などの体液は戻せない。つまりその・・・・・・。失禁したらそのままになってしまうんじゃよ。
セイジュ君・・・・・・、恥ずかしいじゃろうなぁ。
ホッホッホ♪
学園長が『人間もどき』という単語で怒ったのは彼が獣人族だからではなく、友人に獣人族も多くいるためです。
ー『用語解説』ー
『人間もどき』
…現在の国家連合によって『種族融和条約』が
締結される以前に使われていた差別語。互い
の特徴を尊重し、共存しようとしている現在
では不適切とされている。普人族が半人族、
特に奴隷にされていた獣人族などに多く用い
た。




