10 入学式の前に・・・・・・
実家に郵送されていた印刷物を頼りに入学式の会場に到着した。のだが・・・・・・。
「コロッセオ?」
ローマのコロッセオのような円形の石造りの建物だった。入り口は二つあり
『戦闘力に自信のあるもの』
『戦闘力に自信のないもの』
と、それぞれ貼り紙があった。
「俺は『自信のあるもの』の方に行くがお前はどうする?」
「一緒に行く」
まあソフィアも戦闘向きの種族だ。戦いたいという気持ちがあってもそれは当然だろう。
会場に入ろうとすると、後ろから話し掛けられた。
「おい君、荷物は寮に置いてきなさい」
後ろにいたのは全身鎧を装備した人だった。声から女性だということがわかる。
「寮の場所はどこですか?」
「わからないなら私が案内しよう。私の名前は『ルミナス・ベンヴェヌータ』だ。一応教師で今年の1年の担任をすることになっている」
「よろしくお願いします、ベンヴェヌータ先生。俺はトモヤといいます。」
「ソフィア。よろしく、先生」
「家名で呼ばなくてもいい。気軽にルミナス先生とでも呼べ。『先生』だけでもいいがな?」
随分とさっぱりした性格のようだ。話しながらもどんどん歩いていってしまうので、俺達は急いで彼女の後ろについていく。
「入学式の会場に『戦闘力に自信のあるもの』とありましたが、それは武器の使用も含まれていますか?」
道中に気になったことを聞いておく。
「武器や防具、魔法の類は許可されている。スキルなどは個人の力の範疇だ」
「ありがとうございます。ルミナス先生」
「大したことではないよ」
そうこうしているうちに幾つかの大きな建物が見えてきた。
「中央の生け垣から分けて右側が男子寮、左側が女子寮だ。わざと間違えるなよ?ソフィア」
「大丈夫。間違えるときは何も考えていない」
さすがにそこまで甘えさせるわけにはいかない。
「ソフィア、もし男子寮と女子寮を間違えたら次の日のくっつく時間を半分にする。悪質な場合はもっと減らす」
「私は絶対に間違えない。お願い、嫌いにならないで」
ソフィアは目を潤ませてこちらを見上げてくる。彼女にとっては
俺が触れられるのを嫌がる=嫌われた
と感じるらしい。
「ソフィアを嫌いになるわけがないだろう」
少し雑に彼女の頭を撫でる。彼女が強めに撫でられることを好むからだ。目を細めて気持ちよさそうにしている。かわいいなぁ。
「おっほん!」
あっ、ルミナス先生のことを忘れてた。
「そろそろいいかな?君達?」
「すいません、先生」
「ん、先生にもいい出会いはあるはず」
「大きなお世話だ!大体なぜ『はず』なんだ!?そこは『ある』と確約してくれ!!」
なぜか先生が必死だ。・・・・・・。適齢期なのか?
「まあとにかく、寮に荷物を置いてこい」
「あぁ、ルミナス先生!ちょうどよかったよ!」
恰幅のいいおばちゃんが女子寮の方から走ってくる。
「寮母さん。どうしました?部屋の掃除が終わりませんでしたか?」
「それはもうやったわよ!男子寮の部屋がもう空いてないのよ。例の編入生達が入ったから・・・・・・」
「じゃあ、この子の部屋は?」
「それが・・・・・・。女子寮も部屋が1つしかなくてね」
「それは私の部屋?」
ソフィアが若干目を輝かせて寮母のおばちゃんを見ている。
「そうだよ」
「なら簡単なこと。トモヤと私で同じ部屋に入ればいい。幼なじみで同じベッドで寝たこともある仲」
「あれはお前が俺のベッドに潜り込んで来たんだろうが」
「既成事実(笑)」
軽くソフィアのこめかみをグリグリしておく。
「幼なじみというよりは夫婦ってかんじだね。あんたらはまだ子供なんだから変なことはするんじゃないよ?」
「許可していいのか寮母さん!?女子寮に男子が入るなど問題しかないぞ!?」
「寮の子達にはちゃんと説明しておくさね。ほら、あんたらの部屋は一番手前の建物の1階の1番左奥だよ。これが鍵だ。荷物を置いて着替えてきな」
ソフィアと俺はそれぞれ鍵を受け取り、部屋に向かう。
部屋に着き、それぞれ荷物を下ろす。部屋はホテルのツインのようになっていてタンスが2つ、机も2つある。部屋に入ってすぐ左側の場所に扉があり、水洗トイレと風呂桶がある。殆どホテルだな。
先ずは左手に持っていた杖を机の上に置く。そして腰に履いていた打刀と脇差をベッドに置き、背中に掛けていた大剣を壁に立て掛ける。
俺が持ってきた数少ない私服の中から取り出したのは、スネまでの長さの白い胴着(下)、半袖の厚手の白い胴着(上)、紺の袴、足袋(靴下)、草履。これらを着て杖を持ち、俺の対人戦闘準備の完成だ。
「ソフィア、そっちはどうだ?」
「いつでもいけるよ」
振り返ると、長袖、長ズボンの上に皮鎧を装備し、腰に二振りの短剣を装備したソフィアが立っていた。
「よし、行くか」
さて、どんな入学式になるのやら