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見知らぬ少年

後藤 史恵ふみえはカウンター席に座り、カウンターにひじを突き立てた両手のてのひらあごを乗せたまま憮然ぶぜんとしている。

先程、タバコを吸って来ると言って外に出たまま一向に帰って来ない山崎 和浩を待っているのだ。

引き戸を開けて外をチラッとのぞいたが、姿は見えなかった。

買い物に行くにしても何も言わずに勝手に行ってしまう山崎ではない事を史恵はよく知っている。


「カズちゃん、ほんま何処どこ行ってもうたんやろなぁ。また変な事に巻き込まれてへんかったらエエんやけど」

憮然とした顔とは裏腹にその台詞セリフには心配が含まれている。


「史恵さん、スマン」

言葉とほぼ同時に引き戸が"ガラガラ"と音を立てた。

「カズちゃん、何処行っとったん…て、その子、何なん?」

山崎の後ろに隠れる様にして、手足がやたらと細くアザだらけの男の子が立っていた。

「イヤな、向こうの薬局の辺りで歩いとったんを見つけてな、ついでに色々とな」

山崎は薬局で買い物をすると入れてくれる青いロゴ入りの白いビニール袋をかかげた。

「薬局って、そんな遠いトコ…また "カズちゃんレーダー" が働いたんかいなぁ。まぁ、それがあってこその、このスマイル食堂やけどなぁ」

史恵はあきれながらもその瞳には優しさをたたえていた。

「まぁなぁ、ところでほんまスマンねんけどっき夕方から断ったんやけど、頼めるかなぁ」

山崎は顔の前で合掌を造り軽く頭を下げながら言った。

「何を言うてんのん、かまへんよぉ。酢豚やったら旦那か晃司にでも取りに来させるわ。それよりカズちゃんの顔で、もう少し癒やしてもらう方がアタシには大事やしな」史恵の瞳はより一層、優しさを湛えている。

「ほんま、ありがとう。史恵さんらのおかげでオレもこんな道楽してられるしなぁ」山崎は少し照れて後頭部をいた。

「何が道楽やのん。道楽でこんなん出来るかいなぁ」

史恵は山崎の左肩を "バシッ" と叩いた。

「あっ、それより、もうすぐボンやらじょうやらが来よるで。サッサと仕込み始めんとヤバいわ。ついでや、史恵さん、手伝どうてくれるか?」山崎は左腕のGショックに目を落として言った。

「構へんけど、その子どないすんのん?」史恵は少年の方に目配せしながら言った。

「おっと、忘れとった。ほな、このボン、奥の部屋で頼むわ。それとこの薬、塗ったってくれるか?」そう言いながら山崎はレジ袋を史恵に手渡すと、前掛けをめた。そして愛用の包丁を天井の蛍光灯にかざした。

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