対峙
あっこ=あそこ
西川巡査からの報告を聞いて以来、山崎はいつやって来るか分からない健太の母親に対して、どう対峙するべきか、考えて倦ねていた。
健太の望みと幸せを考えると、やはり自分が引き取るべきであるだろうし、自らもそう決意したところだ。
しかし、実の母親が取り戻しに来るとなれば、自ずと法の壁が立ち塞がるだろう。
もはや、方法論ではなく、誠意を持った話し合いをするしかないのであろう。
「カズちゃーん!生きてるか?」加藤 雅代が山崎を心配して山崎の目の前で手を振った。
「んっ!あぁ、スマン。何の話や?」ランチタイムを終え、いつもは皆んなで談笑しながら賄いを囲む山崎が今日はいつになく上の空だ。
「なぁ、どないやろ?三宝製菓の上野社長に相談して見たら?あっこ有名な弁護士先生、顧問に着けてはるやん?」三宝製菓の上野とは店の提携に応じ、支援してくれている一人だ。
「ウン、おおきにな雅代さん。でもな、法律とか、そう言う問題やないとオレは思てんねん。第一に考えんとアカンのは健太の幸せやから…」雅代は山崎の言葉を聞いて、自分が恥ずかしくなった。
過去に山崎が起こしたアレルギー問題で、雅代も山崎を批難した一人だった。そんな時、後藤 史恵に説得されスマイル食堂を訪れた。
その時に触れた山崎の本当の姿に暖かみを感じて今の自分があるのだ。
「ゴメン。いらん事言うたな?ウン、これがほんまの老婆心やで」
その時だった。"ガラガラ" と引き戸が開く音がしたのは。
「オイ!カズボンは居るか?」現れたのは三浦社長だった。
「あっ!社長、どないしたんです?こんな時間に」三浦が昼間からスマイル食堂に顔を出すのは山崎に何かあった時くらいだ。その為、山崎は三浦の訪問に嫌な予感を帯びた。しかし話しは逆だった。
「おぉ、居ったか。カズボン、朗報や。今な、役所から連絡があって補助金の申請が通ったぞ」以前から、子供食堂を成立させる為に身腹を削って来た山崎を最初に支援したのは三浦だった。そして役所への補助申請も三浦が先頭に立ってしてくれていた。
「あぁ、ほんまですか?それは良かったです」
山崎の感情が籠もらない反応に三浦は心配になった。
「どないした?カズボン、何かあったんか?」
山崎は事の経緯を三浦に話した。
「エエか?カズボン。お前の言う通りや!何…心配いらん!皆んなお前と健太の味方や」
"ガラガラ" 再び引き戸が開いた。
そこには制服姿の警官が二人と、どこかで見た事があるくたびれた女性が立っていた。
「カズさん、健太君の母親の三宅 茜さんです」
西川巡査は神妙な面持ちで口を開いた。