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羅刹の門前

「カズちゃん!カズちゃん、聞いてぇなぁ!健太君、メッチャ凄いって!」

夕方に向けての仕込みをしていた山崎 和浩に対して、晃司は奥の部屋から興奮気味に出て来た。

「何ないなぁ?うるさいなぁ?ほんま史恵さんそっくりやんけ」山崎は両手で耳をふさぎながらわずらわしそうに答えた。

「あぁ、ゴメン、ゴメン。イヤなぁ、健太君って全然勉強出来るやんか!一番いっちゃん勉強出来る健人よりも出来るかも知らんで!」

学年でもトップクラスの中村 健人を引き合いに出し、晃司はまだ興奮が冷めやらぬ様子だ。

「健人よりも?ふーん、そないなんか?」山崎は特に驚く様子もなく、平然と答えた。

「カズちゃん?ほんま、分かってんのん?これって凄い事やで」思っていた反応と違う山崎の態度に晃司は少し仏頂面になった。

「ウン…凄いのんは分かるよ。ただな?あの子、ずっと見て来て、何て言うんかなぁ?呑み込み早いって言うか、多分、空気読んだり、自分が今置かれてる立場みたいなモンをいち早く察知して理解する能力にけた子やとは思っとった。まぁ、あの子の暮らしてきた環境がそう言う能力を身に着けさせたんやろなぁ?」晃司は山崎の台詞セリフを黙って聞いていて、初めてこの店に母に連れて来られた日の事を思い出していた。

今、黙々と仕込みをしているように、その日も調理をしていた。そして、子供が入って来るなり入り口に目も向けずその子の名を呼んで "いらっしゃい" と言うのだ。そして、顔を見てから元気がない子には "ニタッ" と笑って「どないしたんや?」と声を掛け、楽しそうに入って来た子には、冗談の一つも飛ばしてより明るくさせた。

晃司は何故そんな事が出来るのか、あえて聞かなかったが、そんな山崎を見て、教師を目指そうと思ったのだ。


その時、珍しくこの時間に "ガラガラ" と引き戸が開いた。

「チワッス、カズさん!」制服姿の西川巡査だった。

「おぅ!翔平、ご苦労さん。何かあったんか?」

「スンマセン…ちょう冷たいモンもろてエエです?」汗だくの額を身体に似合わぬ小さなハンカチで拭き取った。

山崎は冷たいおしぼりと氷がたっぷり入ったジョッキ入りの麦茶を出してやった。

西川は、おしぼりで首筋までゴシゴシ拭くと、ジョッキの麦茶を一気に飲み干した。

「カズさんもニュースで見たりして知ってる思いますけど、健太君の母親と一緒の男の身柄、押さえましてね。ほんで、色々分かったんで報告に…」

「おぉ、捕まったんやなぁ?健太も知っとるわ」

山崎は飄々と答えながら追加の麦茶を注いだ。

ず、男の方なんですけど、児童虐待と未必の故意による殺人未遂で送検出来そうなんです」そこまで言うと麦茶を一口、口に運んだ。

「問題は母親の方で、恐らく送検しても不起訴処分か、良くても起訴猶予って事になるらしいですわ」西川は残りの麦茶を飲み干した。

「はぁ?ほなら、直ぐに釈放される言うんかい?」山崎は以外な報告に面食らった。

「えぇ、何でも過去の判例によると自分の子を虐待死させてしもた両親も、長くて一から三年くらいで出て来てるっちゅうんが実情らしいです」

「そな、アホな。ほなら健太がもし死んどっても母親はそないに罪に問われへん言うんか?」

「そうですね、特に今回の場合、両方の供述から母親は直接には手ぇ出してへんみたいやし…何より後悔の弁を述べてますから…」西川は神妙な面持ちで山崎の心中をはかった。

「ほなら、出て来たら、また健太を引き取るって言うんか?」山崎の語尾が強まった。

「恐らくは、そうなると思います…」

西川の言葉には痛恨の念が込められていた。

法律の専門用語が出て来たので、少し説明を…


未必の故意とは故意(わざと)で無いにしろ、このまま行けば、もしくは放置すればそうなると分かっているのに、そのままにする事を言います。


不起訴処分と起訴猶予の違いですが、不起訴処分はその件について、起訴する必要がないと検察官が判断したもの、つまりこれでこの事件はこれで終わりで今後一切不問とすると言う事です 

起訴猶予は今すぐ起訴するとは言わないが、反省も見られるので、今後の動向を見て判断しようと言うものです。


警察が捜査した事件は全て、検察に送検する必要がある為、裁判にかけるかどうか(起訴するかどうか)?は検察官が判断します


だからこの場合、不起訴処分の方が少しだけ軽い処分と言えます

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