取り調べ(小森の場合)
その日は、昼から身柄を確保した小森 洋輔の取り調べが進められた。
小森の供述によれば、自身が務めていた店近くで働くキャバクラ店員の三宅 茜が常連客として自分を指名してくれるようになったのはニ年ほど前の事だったらしい。
自身の売上が余り芳しくなかった小森は、唯一と言っていい上客の茜を繋ぎ止める為にあらゆる手を尽くしたと言う。
もちろん、アフターと言ってはホテルで抱く事も厭わなかったと供述した。
しかし、茜も徐々に資金が底を尽き、ツケをするようになっていった。
それでも売上を上げる上で茜だけが頼りだった小森は、それに応じ、ツケは雪だるま式に膨らんで行ったと言う。
店では三ヶ月経ったツケは担当ホスト自身が支払わなければいけないルールがあり、このままでは、小森自身がツケの補填しなければならなくなる。困った小森は店長に相談した。
すると、店長は売春を斡旋する組織を紹介してくれた。
始めは戸惑いを見せた茜だったが "二人の未来の為" と言葉巧みに言い包め、売春を繰り返させた。
こんなやり取りが続く中、茜も限界を感じ始めたのか "もう店には行けない" と言って来た。
上客を失った小森は、やがて住んでいたマンションを引き払わなければならなくなり茜のマンションに転がり込んだ。
しかし茜は自分を歓迎してくれたと言い、自分は茜に愛されていたし、自分も茜を愛していたと供述した。
通常は売上が上位にいるホストは、女性経営者や若い男に飢えた社長婦人などにターゲットを絞って気に入られようとあらゆる手を尽くすらしいのだが、元来、無駄にプライドが高い小森はそういった所謂、高飛車な女性に取り入る事が出来なかったと言う。
その事が小森のストレスとなり、何かにつけて健太に虐待を加えるようになっていったと言う。
それから小森が茜の部屋に転がり込んで二ヶ月くらい経った頃だった。小森は店内で問題を起こした。
この頃の小森のストレスは頂点を極め、ついには女性客と揉め事を起こし、店を追いやられる事となった。
茜の売春斡旋業者の例で分かるように、店のバックには暴力団組織がついており、そのままでは小森は殺される事になったと供述した。
仕方なく店から追われる身となった小森は、茜を言葉巧みに言い包め、二人で逃避行を図ったのだった。
"子供の事は考えなかったのか?" との刑事の問いに、小森はまったく悪びれもせずに "ガキは邪魔でしかなかった。茜もそう言っていた" と言い放った。