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学校も夏休みに入り、しばらく経った早朝だった。珍しく早起きした山崎和浩は、ハイライトに火を着けながら何気にTVのスイッチを入れた。
政治家の汚職問題についてのニュースが流れた後、山崎の目を一気に覚ます映像が流れた。
"児童虐待により指名手配されていた男女が今朝、早くに大阪府内で逮捕されました。
逮捕されたのは住所不定で無職の小森 洋輔容疑者(23)と府内在住の無職、三宅 茜容疑者(28)の二人で警察によりますと、二人は三宅容疑者の長男(10)に対して日常的に虐待を加え、真夏のマンションの一室に玩具の手錠で縛り付けた上で放置したとの疑いが持たれています。
男の子は自力で脱出したようで、近所の善意ある男性に保護されましたが、脱出出来ていなかった場合、死に至っていた可能性もあると見て、殺人未遂の容疑でも捜査を進めて行くとの事です。
尚、二人は交際関係にあったと見て、二人の共謀の線も視野に入れて捜査を進めていくと言う事です。"
そこには、如何にも悪人面の金髪の若者と、何かに疲れ果てたようなノーメイクの女の顔写真が写り込んでいた。
山崎は、思わずTVのスイッチを切った。
そして、恐る恐る後ろを振り向くと、そこに無表情のままで直立不動の三宅 健太が立っていた。
「おっ…おぉ!おはようさん!エラい早いやないか?」
山崎は、しどろもどろに挨拶をした。しかし健太は拳を "グッ" と握り締めたまま、黙っている。
「お腹空いたやろ?今日は何しよ?ご飯か?あっ!それかまたフレンチトーストにしよか?」山崎はとにかく今の空気をかき消すように極めて明るく努めた。
しかし健太は無表情のままでゆっくりと口を開いた。
「カズちゃん…ボク…大丈夫やで!あんなんお母ちゃん違うから…
お父ちゃんも居れへんから…
でも…でもな…ボクの…ボクのお父ちゃんはカズちゃんが…カズちゃんがエエねん!」言っている途中から、健太の瞳からは "ボロボロ" と大粒の涙が溢れ落ちた。
山崎は、出会った頃よりも少しだけ大きくなった健太の身体を引き寄せた。
「当たり前やろ!お前はオレの可愛い息子やからな!もう辛い想いさせへん!ずっと離さへんからなぁ!」山崎は健太を力強く抱きしめ、気付けば山崎の瞳からも涙が溢れていた。
しばらくの静寂に包まれた室内とは対照的に、外ではアブラゼミが "ガーガー" と合唱を始めていた。
いつもは五月蝿いだけのその合唱はまるで生まれたばかりの父子を祝福しているようだった。