家宅捜索
公園ではアブラゼミが "ガーガー" と五月蝿く鳴いている。その公園のすぐ側に五階建てのマンションが建っている。そのマンションの303号室の前に西川 翔平巡査は巡査長の原田 雅史と立っていた。
呼び鈴の押し釦を押してみたが反応はない。西川は恐る恐るドアノブに手を掛けた。すると施錠はされておらず、ドアは簡単に開いた。
「こんにちは!三宅さん?居られませんか?」部屋中から "ムーン" とした湿気を帯びた蒸し暑い空気と共に、嫌な臭いが流れ出した。
「うわぁ!何や?この臭いは?」思わず飛び出してしまった西川の言葉に、原田は西川の腹辺りを軽く肘で小突いた。
「オイッ!中に誰が居るか分からんねんから気を付けぇ」原田巡査長は西川巡査を叱責した。
「三宅さん!警察です!居られませんか?中に入りますよ」今度は原田が大きな声で叫んだ。しかしやはり反応はなく二人は中に入る事にした。
部屋の中は、脱ぎ捨てられた衣類等で散らかっており、窓という窓にガムテープで目張りされている。しかも、電気が停められているせいか、エアコンも掛かっていない為やたらと暑い。恐らく50℃くらいにはなっていると思われた。特に、キッチンには臭いの元であろう糞尿と思われる汚物や何かの食べカスが無数に落ちている。その上に白くニョキニョキ動く蛆虫が蠢いており、更にその上の空中を成虫になった蝿が飛び交っている。
「なっ…何や?この部屋は?」警官として経験豊富な原田も流石にこの光景には面食らった。
「巡査長?これなんですかね?」
西川は、キッチンに備え付けられている、縦に取り付けられた鉄パイプに繋がっている何かを指刺して言った。原田はそれを手に取った。
「手錠?玩具の手錠やなぁ」原田はそう言いつつ恐らく数日前までここにいたであろう三宅 健太の様子を想像した。
「オイッ!西川。こら酷いで!多分やが、ここに繋がれたまんま、ずっと放ったらかしにされとったんやないかな?もし自分でこれを外せんとずっとここに居ったら多分死んどったで」西川も原田の言葉を聞いて、山崎 和浩の店で見かけた少年の姿を思い浮かべた。
「巡査長?どないします?」西川はデカい図体から汗を吹き出させて渋い顔をした。
「こら放っとけんで!とりあえず署に帰って親の捜索手続き取らんとな!」
西川は現地の写真を数枚撮った。
「西川、どない思う?事件性ありか?」原田の言葉を受け西川は帽子を取って右袖で額をゴシゴシ拭いた。
「当たり前ですやん。こんなん許されへんですわ」健太の姿を見ているからだろう。西川巡査の正義感が湧き上がった。それを見て原田は神妙な面持ちで頷いた。
アブラゼミが鬱陶しいくらいに鳴き叫ぶ公園を自転車で通り抜け二人の警官はマンションを後にした。