楽しい朝食
「カズちゃん!カズちゃん!起きてぇな。オレ、もう腹減ったから帰るで」土曜日で食堂も休みにする為、つい目覚ましを忘れて寝坊している山崎を腹を空かせた山口 克也は揺り起こした。
「おぉ?スマン!寝坊してもうたなぁ?健太も起きとっんたか」山崎は、寝癖だらけの頭を掻き毟った。
「ほならなぁ、オレ帰んで」克也は口を尖らせて拗ねたように言っている。
「まぁ待て!一応、昨日お母ちゃんに電話して、夕方まで居ってエエって許してもうたから…朝ゴハン作るさかいに!何食いたい?」
克也は "ウーン" と考えた後「フレンチトースト食べたい。バターにメープルシロップいっぱい掛かったヤツ」とイタズラっぽく答えた。
「よっしゃ!健太もそれでエエか?」山崎が健太に目配せした。
「そんなん知らん」健太は悲しそうに答えた。
「あぁ、スマン、スマン!でも任しとけ!オレの作る料理は美味いって分かって来たやろ?」山崎は自慢げに胸を叩いた。
山崎は厨房に行き、克也のリクエスト通りの物とホイップクリームにサクランボを乗せた二種類のものを作り、ミルクにシロップを入れ、甘くしたアイスミルクを入れた。
「ムッチャ美味そう!いただきます!」顔の前で合掌を作り勢い良く挨拶する克也の仕草を真似て、健太も同じようにした。その様子をインスタントコーヒーで作ったアイスコーヒーを口に運びながら、山崎は微笑ましく見つめた。
「あの…み…」健太の様子がおかしい。何故か苦しそうにしている。まさか?何かのアレルギー反応でも出たと言うのか?
「おい!健太…どうした?」山崎の顔がみるみる内に青ざめていき、脳裏をトラウマが走った。
「カズちゃん、健太君な何か水が欲しいねんて」克也が単調に言った。山崎は慌てて水を汲みにいき、健太に飲ませた。どうやらフレンチトーストが喉に詰まったようだった。
「何やー、驚かすなよー。飲み物やったらミルクがあるやないか?」山崎の言葉を聞いて健太は首を横に激しく振った。
「あんな、大丈夫やからな。オレなんかピーマンも人参もキャベツも椎茸も皆ーんな嫌いやってん。せやけどなカズちゃんが作ったん食べさせられてな、ほんで食べれるようになってんやん。健太君も大丈夫やしな。牛乳臭くないから、甘いから、飲んでみぃ」克也が自分の体験談を子供なりに熱弁した。それを聞いて健太は目を一杯に瞑って恐る恐ると言う感じにアイスミルクを一口飲んだ。すると顔が一気に明るくなり "コクコク" と喉を鳴らして飲み始めた。
「なぁ、美味しいやろ?カズちゃんは嫌いな物も魔法を使って美味しく出来るからな」普段から子供たちは自分が食べた物の感想を言わない。嫌いな物を拒んでも美味しいとは中々言ってくれない。そんな山崎にとって思わぬご褒美が与えられた。
「健太君、クリームが鼻に着いてんで。キャハハッ」克也の言葉に健太は照れながらもケタケタ笑った。恐らく健太にとってこの世に生を受けて一、二を争う楽しい食卓になった事だろう。
山崎は二人の様子を見ながら久しぶりの感慨深い幸せを感じていた。