第四章 赤の巫女~レベル98の臆病者~
「・・・」
あまりに突然なことだったので俺は手に握られた定規を見て黙ってしまった。
当り前である、たった今まで何の役にも立たないガラクタだと思っていたものが常識外れのチート武器と化したのだから。
「・・・はっ!そうだ、さっきの女の子は!」
そこで俺はさっきまで男たちに囲まれていた少女の存在を思い出した。
確かまだ二人ほど残っていたはずなので、この間に少女の身に何かあったら・・・
「は、離せ!」
「ぐ、ぐぐ」
何かあったら・・・
「全く、うちの主は臆病だからいけない」
俺が少女の方を見ると、残った男たちの頭を少女が両手でつかんで男たちの体を持ち上げていた。
しばらくすると、男たちは気を失ってしまった。それを確認すると、少女は男たちを道のわきに投げ捨てた。
「ふぅ・・・ん?」
少女が力を抜くように息を吐いて体を大きくのけぞらせると、俺と倒れてるリリを見つけたようで首をかしげて声を漏らす。
俺が大丈夫かと声をかけようとした時、少女は体勢を戻してから腰にさした刀に手を置いた。
そして次の瞬間、一瞬少女の姿が消えたように見えたかと思うと少女が俺の首もとに美しい紅色の刀身をした刃を突き立てていた。
「あんたらもあの男らの連れかいのう?」
「は?違うよ、俺たちは・・・」
「問答無用や!」
俺が話をしようとしたら少女は容赦なく刀を振り下ろした。
しかし、その刀身は俺の首を切らなかった。
なぜなら、少女が一歩後ろに下がったことで刀身が俺の首まで届かなかったからだ。
「っく!」
俺はすぐさま地面をけって少女と距離をとった。
その間、少女は頭を押さえて何か独り言をブツブツと話し始めた。
よく聞こえなかったが、最後に「少し引っ込んどき」と言っていたのは聞きとることができた。
しばらくして少女は再び刀を構えて俺に向かって走ってきた。
「今度こそ」
少女が高く体を浮かびあげて俺に向かって刀を振り下ろそうとした時、俺は定規を思いっきり少女に向かって振った。
すると、さっきとは比べ物にならないほどの風が巻き起こり少女の体をさらに高く舞上げた。
少女の体はさっきまで俺たちのいた広場の方に飛んで行ったようだ。
「おい、リリ」
倒れているリリの体を抱き起こすとリリは目を開けた。
「しょうや?・・・私は」
「話は後だ、厄介なことになる前に逃げるぞ」
リリの手を握って走ろうとした時、リリが急に倒れて俺もバランスを崩しそれにつられて倒れてしまった。
「どうした!」
「・・・お、おなか減りました」
その言葉を聞いて俺はとりあえず、リリの手を離して壁にもたれさせてから俺は全力で走った。
もうあんな奴には関わりたくなかったのだ。
裏切ったわけではない、決してだ。
走って路地裏を出て光に体を包まれた時、目の前にはさっき目にした赤い刀身が・・・
「うおっ!」
その刀身を体をまげて俺はぎりぎりで避けた。
体をあげて前を見ると、さっきの少女が刀を構えていた。
「いい加減にしろ!」
「でもな、一度敵とみなした相手をみすみす逃がすゆうのもちょっとな」
意味がわからない説明に息をもらしながら右手に握っていた定規を構えて俺は少女の目を見た。
すると、少女が笑みを浮かべて・・・消えた。
「くっ!」
しばらくすると少女が俺の目の前に姿を現した。
そして、思いっきり振り下ろした刃を俺は定規を両手で支えて受け止めた。
「おや、うちの刃を受けても切れんとは、ようできた武器やのう?」
「そう?今のさっきまでガラクタだと思ってたよ!」
腕に全力を集中させながら俺は少女と言葉を交わす。
それにしてもこの少女ものすごい筋力である。おそらく世界記録をとれるくらいの力はあるんではないだろうか。と思いながら俺は定規を傾けて刃を流してからまた少女との距離をとった。
その時、周りに集まっていた民衆の人たちからある声が耳に入ってきた。
そう・・・『赤の巫女』と。
おそらくこの少女の通り名か何かだろう。
赤い髪に巫女服、まさにぴったりである。
「俺はただお前を助けようとしただけだったのに、なんで攻撃してくんだよ」
少女の動きに警戒しながら俺は話しかける。
すると、少女がきょとんとした顔をした。
「え?そうなん?あんたらうちの主の敵ちゃうの?」
「・・・さっきからそう言ってるだろ」
俺がそう答えると、少女は「そうなんか~」と軽い口調で言いながら刀を鞘におさめた。
「すまんな、うちの早とちりか。こらぁ傑作、あはははは」
おなかを押さえて大笑いする少女を見て俺も定規をベルトに刺した。
しばらくすると、少女は笑うのをやめて俺の肩に手を置いた。
「ありがとうな、うちの主は臆病やさかいお前さんに恐怖を覚えただけやったんか」
「・・・なあ、さっきから『主』って何だ?」
少女の言葉のところどころに出てくる違和感のある言葉に俺は疑問をもって少女に尋ねると、少女は刀を持って俺に説明をした。
「うちはな、この刀・・・妖刀のモノノケなんよ。だからこのからだの巫女がうちの主なんや」
「ってことは、今はその体を借りてるのか?」
「せや。じゃあ、そないなわけで」
手を振りながら笑顔でそういうと、少女は顔面から倒れこんでしまった。
あわてて俺が体を抱き起こすと、少女が目を開いた。
「・・・」
「・・・」
互いにしばらく見つめ合う。そして・・・
「きゃ~~~!!!」
俺は悲鳴をあげた少女にほほをぶたれた。
ぶたれて赤くはれたほほをさすりながら立ちあがると、少女がもじもじしながら俺を見ていた。
「ご、ごめんなさい。私の妖刀が、無礼を・・・」
「ああ、気にしないでくれ(あの妖刀、紅っていうのか)」
さっきとは違って、もじもじとした仕草に独り言のように小さい声で話す様子を見てものすごい違和感を覚えながらも俺は少女を見る。
すると、小さい悲鳴を上げて少女は物陰に走って隠れてしまった。
そんな姿を見て俺はこれ以上関わらないようにこの場を去ろうとした・・・その時、急に俺の脚が重くなった。
俺が足元を見ると・・・リリが俺の足にしがみついていた。
「リリ?何してるんですか?」
「ふふふ・・・私を置いていけるとでも?」
俺は思いっきり脚をふりまくってリリをはがそうとした。
しかし、リリも思いのほか力があり、全くはがれなかった。
「離れろ!」
「やです!私とパーティーを組んだんですからご飯食べさせてくださいよ!私は呪いのアイテム並みに付きまとってやりますよ!」
何やら怪しい笑みを浮かべながらしがみつくリリに俺は抵抗をやめた。
本当にこのままはいやだった。周りから見たら『ハゲと幼女がいちゃついてる』こんな変な様子に見られるだろう。
足から離れてくれたリリを背中にかつぐと、今度はさっきの巫女服の少女が話しかけてきた。
「あ、あの」
「何だ?まだようがあるのか?」
しばらくもじもじしてから少女は勇気を振り絞ったような声で言った。
「私をあなたたちのパーティーに入れてください」
「「・・・は」」
あまりに突然だったので、俺とリリは息を合わせたわけでもないのに、同時に声を漏らした。
どうして俺たちのパーティに入りたいのか、その答えはすぐに分かった。
なぜなら、少女のおなかが大きな音を立てて鳴ったからである。
どうやらご飯を食べさせてくれとのことらしい。
「駄目、ですか?」
すると、リリが俺の背中から下りて少女を指差す。
「いいけど、あなたレベルは?低いレベルで入れると思わないでね?」
なぜか偉そうにするリリをジト目で見る。
少女は少し戸惑ってから巫女服のポケットから一枚のカード『レベルカード』を取り出して、リリに渡した。
そのカードを俺も横から覗く。
【name:アカバ・メイ job:剣士 level:98】
目をこすってもう一度一か所を見る。
【level:98】
そして、俺とリリは再び大声を上げる。
「「レベル98ぃぃぃ~~~~!!!!」」
その声はどこまでも響き渡った。