第三章 チート武器~見た目は普通の定規です~
「・・・」
「・・・」
リリに案内されて俺は今、異世界の町『マシャール』に来ている。
そして、俺はリリと肩を合わせて無言でその町を歩く。
周りの人が俺たちのことを見て何やらこそこそしているが・・・いや、もう分かり切っているので言ってしまおう。
「そんなに珍しいか!!!」
俺が吹っ切れたように周りにいた人に自分の頭を指して叫ぶと、町の人々が次々と辺りの店の中に逃げ込んでいってしまった。
今、ものすごく気持ち悪がられてる人とかいじめを受けてる人の気持ちがよくわかった。
「・・・気持ちは分かりますけど、堪えてください。下手に騒ぎを起こすと捕まってしまいますよ」
「わかってるけど・・・それより、一体どこに向かってるんだ?」
「ん?もうすぐわかるよ」
そう言われて俺は疑問符を浮かべるが、そのままリリの後に続いて道を歩く。
普段は楽しい雰囲気に包まれた市場のようだが、俺が現れたことにより客を含めて店の店員までもが隠れてしまって、廃棄された無法地帯のように静まり返ってしまっていた。
そんな中をしばらく歩くとリリがある建物の前で足をとめた。
その建物は、十字架の飾りが印象的な教会だった。
すると、リリはその教会の扉を開けて中に入った。
教会の中には神父と思われる80代くらいの男性が聖書をもって立っていた。
ちなみに、髪の毛はまだ少し残っている。
「本日はどのような御用ですか?」
「レベルの更新を」
神父に要件を聞かれてリリはポケットからレベルカードを出してそれを神父に渡して要件を伝えた。
「はい、しばらくお待ちください」
そう言い残して神父は神様を模した石像の横にある扉の中に入っていってしまった。
そして、残された俺とリリは近くにあった椅子に座る。
「なあ、レベルの更新って?」
「ある一定の経験値を集めると、この教会でレベルが更新できるようになるんです。更新するとさっきも言った通り新しい魔法や技を使えるようになるんです」
「そうか、それでそのカードってどうやってもらうんだ?」
俺がそんなことを尋ねると、リリは目を丸くして疑問符を浮かべた。
「何を言ってるんですか、生まれたらすぐに教会を通じて渡されるじゃないですか?・・・まさかないんですか?」
首をかしげて聞いてくるリリに俺を戸惑うように手を動かしながら考える。
いきなり異世界に来たのだから、俺にはそんなもの渡したくても渡せないのが実際のところの答えだ。あの髪様がそこまで手配してくれるとは正直期待できない。
そんな時、俺に救いの手を差し伸べるように神父が戻ってきた。
「更新いたしました。それでは、神の加護があらんことを」
そう言って、神父はリリのレベルカードをリリに返す。
そのカードは確かにさっきまでは3だったレベルが4に上がっていた。
それを確認すると、リリはカードをポケットに入れて教会を後にした。
「さて、次は武器屋に行きましょうか」
「何か買うのか?」
「ええ、そうだ!しょうやにも何か買ってあげますよ、ご飯を食べさせてくれたお礼に」
リリが目をキラキラさせて俺に提案するが、正直どんな武器が自分に合うのかはっきりしないし、女の子に買ってもらうっていうのも気が引けるので断ろうと・・・思った。
「兜とかいいと思いますけど?」
「よし、お言葉に甘えよう!」
今の自分の頭をかぶせるものが手に入るのだからそれに甘えるのも悪くはないはずだ。
そして、俺たちは早速武器屋に向かうのだった。
数分後―――
「くそ~~~~~!!!!」
俺は武器屋で兜を手に持ちながら叫んだ。
なぜなら、この兜をかぶろうとするのだがなぜかはじかれてしまってかぶることができないのだ。
「どうやら装備できないようですね」
俺と視線を合わせながらリリが冷静に状況を把握して説明してくれた。
この世界では装備できないものは弾かれて、触れることができないようになっているようだ。
しかし、俺が叫んだのはこれだけの理由ではなかった。
「珍しいね、剣も斧も銃も杖も弓矢もすべて装備できない人は」
そんなことを言いながら武器屋の店主が頭をさする。
そう、俺はここにあるすべてのタイプの武器を触ることすらできなかったのだ。
それはつまり、この世界では俺は素手で戦うしかないことを示していた。
「終わった」
「大丈夫!私がパーティーに入ってあげるから元気出して」
そんなことを膝を折って倒れこむ俺にリリが言ってくれるが、そんな言葉は今の俺には一言も入ってこなかった。
なんやかんやあって俺たちは武器屋を出たのだった。
そして、近くにあったベンチに座り気持ちを落ち着かせていた。
町も俺の存在に慣れたのか、いつも通りのようににぎわっている。
しかしまだ俺を見て笑う人はいるが、俺はできる限り怒りを抑えて・・・ただひたすらに耐えた。
「元気出しなよ、レベルが上がれば装備できるようになるって」
「俺にレベルカードなんてねえよ」
「うっ」
暗いオーラを漂わせている俺にリリは励ましの言葉をかけてくれるが、俺はそのリリの励ましすらもマイナスにしていた。
それにリリは図星をつかれたような顔をして俺から目をそらしてしまう。
その時、どこからか声が聞こえてきた。
普通の声ではない、叫び声だった。
「リリ、聞こえた?」
「ん?ええ。叫び声のようなものが」
俺とリリはその声のもとを探すために辺りを見渡した。
そして、路地裏の方から聞こえてくることに気がついた。
「あそこだ」
俺はリリにそういうとその路地裏に走った。
路地裏を進んでいくとそこには、一人の少女が男たちに囲まれていた。
「離してください」
「いいだろう、ちょっと付き合ってくれればいいからさ」
どうやら少女は周りの男たちに絡まれているようだった。
少女は腰まで伸びた紅色の髪を頭の上の方で黒い大きなリボンでまとめて、まるで巫女服のような服装をして、腰には赤い色をした鞘の日本刀を携えていた。
「おい!」
それを見て俺は反射的に男たちに声をかけた。
すると、男たちは俺とリリの存在に気づき俺たちの方に体を向けた。
男たちが俺の目と鼻の先に立つと、男は俺の頭に手を置いて話しかけてきた。
「何だよハゲ。一人前にヒーローごっこか?」
「てかなんだよその頭!まるで卵みたいだな!」
「「「ははははははははははははははは」」」
男たちが俺のことを笑う。
それに対して俺は怒りを抑えながら話をかける。
「その子困ってるから離してあげてくださいよ」
「ふっ、それは無理な話だ。あいつはこれから俺たちと遊ぶんだからな・・・って、その子も可愛いな。どうだ、君も来ない?」
「ひっ!」
男に声をかけられてリリは手に持った箒に抱きついてその場で震えていた。
そして、男がリリに手を触れようとした時、俺はその男の手を掴んだ。
「邪魔すんなよハゲ、殺すぞ」
「さっきから・・・」
俺は心の底から湧きあがる感情に身を任せて男の腕を思いっきり投げ飛ばした。すると、男の体がふわりと浮かびあがり右側にあった建物の壁にめり込んだ。
「さっきから俺のことをバカにしやがって!俺だって好きでハゲになったんじゃねえよ!!!」
「ちょ、ちょっとしょうや?」
大声をあげて暴れる俺にリリは声をかけるが、俺はそんなのは気にもとめずに暴れ続けた。
「俺の頭がそんなに珍しいかてめぇら!!!」
俺はそのまま男たちを投げ飛ばしていき、残り三人になったときに男たちのボスらしい男が大剣を俺めがけて振りおろした。
「調子に乗るなよ、ハゲ」
「ハゲ、なめんなよ」
勢いよく振り下ろされた大剣をぎりぎりで避けると俺は目の前の男と睨みあって二人の間に火花を散らせた。
それを見ていたリリが手に持っていた箒を足元に置いて、背中にかついでいた杖を構えて呪文を唱え始めた。
「しょうや、今助けるからね」
すると、しばらく時間がたった後にリリの持っている杖に赤い光が集まり始めた。
それに気が付き俺と大剣の男がリリの方を向く。
「喰らえ!」
そう言ってリリが杖を大剣の男に向ける。すると、ライターの火くらいの大きさの火が放たれてのろのろと大剣の男に近づいていく。そして・・・大剣の男まで後半分の所でその火は消えてしまった。
それに合わせるように、リリがおなかを鳴らしながら倒れてしまった。
「もう限界、おなか減りました」
しばらく二人でリリの倒れた姿を見てから、俺と大剣の男は再び何事もなかったかのように睨みあった。
そして、男が大剣をまた高く振りかぶる。
それと同時に、俺は無意識に腰のベルトに刺していた定規に手を伸ばしその定規を抜いた、その時・・・大剣の男がはるかかなたに飛ばされてしまった。血を流しながら。
「・・・え」
一瞬何が起こったのか分からず俺は戸惑った。
今、何が起こったのか。それは・・・・俺は斬撃を飛ばしたのだ定規を抜いた動作だけで。
その斬撃の勢いで男ははるかかなたに飛ばされたのだ。
俺は、あっけなく終わってしまった戦いに唖然としながら右手に持った定規を見て声を漏らす。
「何、このチート武器」