プロローグ『始まりの時・・・とハゲ』
俺の名前は佐藤将也。夢と希望にあふれ、将来のために勉学に励む高校二年生である。しかし、そんなことは一般的な考えである。
「あ~、サーバーメンテ地獄だわ~」
そんなこの世の終わりのような声を出しながらベッドに倒れこむ将也。
現在の時間は午前11時・・・しかも火曜日のである。今日は祝日でも将也の通ってる高校の開校記念日でもない。そう、この佐藤将也は一言で言うと『ひきこもり』である。
俺が学校に通わなくなってもう、四カ月になる。その原因は・・・今は触れないでおこう。
「暇だな~」
俺は声をもらしながら仰向けになって手元にあったタブレットの電源を入れて動画アプリを開いた。オススメの欄を見て適当にアニメの動画を再生する。
最近話題になっている異世界系のアニメだ。
「・・・」
無言でただひたすらに動画を見る。
そんな中、俺はぼそりとつぶやいた。誰もが一度は思うことを、それは
「異世界に暮らしてみたい」
その時、いきなりとてつもない眠気が俺を襲った。
しかし、それは一瞬だった。気がつくと俺は何もない真っ白な空間に立っていた。
「・・・は?」
しばらく周りを見渡して口から漏れた言葉は、一言だった。
当たり前だ、いきなりこんな状況に置かれたら思考は停止するに決まってる。
とりあえず俺は自分のほほを思いっきり引っ張ってみる。
「痛い。ってことはこれ、夢じゃない?」
自分の手のひらを見て首をかしげていると、いきなり後ろから声をかけられた。
「ねえ」
「ん?・・・うわっ!」
後ろから聞こえてきた低い男性の声に応えるように後ろを振り向くと、俺はとっさに目元を両腕で覆った。
なぜなら、振り返った瞬間にとてつもなくまぶしい光が俺の目を襲ってきたからだ。
目にものすごい痛みが走っていたが、俺は何とか再び目を開き目の前に立っている存在を認識しようとした。
「えっ・・・っぷ」
その存在を目にして脳内でその存在を理解して、俺は無意識に口元を押さえて笑いをこらえた。
だってそうだろう、今自分の目の前に一点の曇りもない美しいスキンヘッドがあるのだから。
「君さ、いきなり初対面の人を笑うって失礼だと思わんの?」
俺は必死に噴き出すのを我慢してその人の話を聞く。
年齢は30代ぐらいだろう男性は、修行中のお坊さんがしっくりくるような服装に身を包んで何か難しそうな顔をしている。
「い、いえ。っく、すみません」
周りには何もなく、まるで光でできたようなこの空間ではこの男性が少し動くだけで光が男性の頭で反射して俺の目を直撃してくる。
すると、男性が何かに気づいたようで表情を変えた。
「まぶしいのか」
「ぶはっ!」
俺はついに限界を迎えて噴き出してしまった。
(この人、自分で認めた)
そんな俺を見て男性はさらに不機嫌そうな表情になってから、ため息をついて指を鳴らした。
すると、さっきまでまぶしかった空間がだんだんと暗くなっていきちょうどいい明るさになった。
「・・・!どうやったの!」
いきなり目の前で起こった現象に混乱していると、男性が腰に手を置きドヤ顔で話を続けた。
「どうだ、すごいだろう」
「あ、ああ」(お前の頭の方がすごいよ)
俺は内心そんなこと思いながら男性の言葉に返事をする。
そして、俺はとりあえず確認したいことをまず把握しようと男性に話しかけた。
「あの~」
「ん?なんだい将也君」
ハゲの言葉に驚きを感じたがそんな考えはすぐに消え失せた。
自分の名前を知っていることに驚きはしない、だて今目の前にいるハゲはさっき信じられないことをしたのだから名前ぐらい、と思ってしまう。
「まず、あなたは?」
「ああ、そういえば自己紹介がまだだったね。僕は君たち人間でいうところの『神様』と呼ばれる存在だよ」
「・・・ん~?」
それを聞いた時、俺は再び目の前に輝くスキンヘッドを見る。
その結果、俺は一つの考えに至った。それは・・
「神様っていうか、髪がない神様で・・・『髪様』(かみさま)だな」
「君、馬鹿にしてるのかい」
「いえ!そんなことは」(思ってるよ)
髪様がものすごい勢いで俺の肩を掴んで、まるで殺人鬼のような目で睨まれたので俺は反射的に謝罪をした。
すると、髪様は俺の肩から手を離して、気持ちを落ち着けるように一回咳払いをしてから俺の顔をまっすぐに見て会話を再開させた。
「ごほん。それで、だ。今回君を呼んだのには理由があるのだよ」
「理由?」
俺が髪様の言葉の気になる単語を復唱すると、髪様はその場で右腕を天高く伸ばしてからその腕を勢いよく振りおろして俺を指差した。
そして、信じられない言葉を告げられた。
「将也君、君にはこれより異世界に転生してもらいたい」
「・・・」
再びしばらくの放心と沈黙。
どれくらいの時間がたっただろうか。髪様が疲れたように右腕を下すと同時に俺は叫んだ・・・
「うっそぉぉぉぉぉ~~~~~~~!!!」
これが、俺の新しい人生の序章となった。
このときは思いもしなかった。まさか、あんなことになるなんて・・・