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安心

成長するに連れて違和感が確信へと変わりつつある中、私はできるだけ家にいることを止めた。


あの行為がどれだけ間違っているかを分かりつつも父に逆らえない自分が許せず、意気地なしで、酷く汚らしいものだと感じていた。

だからせめて、家にいる時間を減らすことで父と対面することを避けるようになった。


幸いにして昼間は小学校に行っているので、学校の中では楽しく過ごせた。


私が通っていた小学校は、見渡す限りの田畑の中にぽつんとあるという、なんとも田舎らしい小学校だ。

全校生徒もそこまで多くなく、下級生や上級生でも仲のいい友達が何人かいる…そんな学校だった。


新しく出来たばかりの飼育小屋で、友達と一緒に鶏に追い掛け回されつつ掃除をしたり、夏休みになると上級生・下級生を関係なく誘って、みんな一緒に学校のプールで遊んだりした覚えがある。


先生方も面白い方が多く、授業中に退屈している子が多くなると怖い話をしてみたり、学校の周辺に生えている薬になる野草について教えてくれる先生もいた。


勉強をする場所であるのは確かだったが、楽しいことがある場所、そして辛いことから逃げ出せる場所、それが私の小学校に対するイメージだった。


学校が終わると一度家に帰り、すぐさま遊びに行くことが多かった。


特に一番仲が良かった女の子の家には何度も通った。


その子は漫画が大好きな女の子で、自分で書いた絵を楽しげに見せてくれた。

描いたキャラクターがどんな性格で、どういう物語で、どんな風に話が進むのかを説明してくれる時は、子供心にワクワクしたものだ。


クレヨンや色鉛筆を多彩に使った絵を見ると楽しくて、私も一緒に書いて遊ぶことが増えた。

女の子と二人で下手な漫画を書き、笑いながら過ごす時間はとても楽しい時間だった。

何かを作り出す面白さを教えてくれた友達だ。


時が経って空が茜色になり、家に帰らなければならない時刻になると途端に気が滅入った。


その子の家は私の家から大分距離があり、自転車で田畑を通り抜けた先にあった。

季節によって様々な表情を見せる田畑を夕暮れが染め上げる中、自転車を漕ぎつつ色々なことを願った。


『今日はお父さんの期限が悪くありませんように』


『今日はあれをしなくてもいい日でありますように』


『今日はお母さんが家にいる日でありますように』


楽しければ楽しかった分、家に向かっている時間は泣き出したいような気分になった。

泣いて、喚いて、暴れて、そんな自分を見かねた誰かが助けてくれないかと考えたりした。


だけど、弱い私は父に逆らうことが何よりも恐ろしい。


只でさえ、門限を破ってしまえば父が激怒することは目に見えていたため、帰りたくない思いを懸命に押さえ込みつつ自宅に帰るしかなかった。


自宅に着いて自転車を庭に停め、玄関を入ってリビングに行き、仕事帰りの母や父以外の誰かがいると心底安堵した。

父が私に触れるのは、二人きりの時が常だったからだ。


母や他の人が居てくれることで漸く、安心して宿題をし、夕飯を食べ、お風呂に入って眠りにつくことができるのだ。


だが、今日は大丈夫だと思っていても、父の機嫌が悪くなると酒を飲んで暴言を吐きつつ暴れるので、本当に安心出来ないのも事実だった。

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