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二度目の恋

中学3年生の頃、私は二度目の恋をした。


相手は同級生で友人だった女の子だ。

本やゲームなどの趣味が合ってよく話をするようになり、まるで昔からの知り合いのように自然と友人になった。


恋に落ちたタイミングは覚えていない。

ちょっと小柄で華奢な女の子で、よく柔らかな髪をくるんとねじって1つに束ねていたのを覚えている。

好きや嫌いと言った感情がはっきりした子で、自分の考えを率直に話し、私の意見もちゃんと聞いてくれる子だった。

楽しいことや嬉しいことがあるとぱっと花咲くように笑い、理不尽なことがあると真っ向から怒る。

天真爛漫な彼女を見て真夏の向日葵のようだと思ったときには好きになっていた。


勿論、彼女と私は同性なので好きと言葉にすることは避けた。

それに自分が如何に汚らわしいものか自覚していたので、彼女と付き合えるとはこれっぽっちも考えていなかった。

彼女に気持ち悪いと言われてしまえば立ち直れる気はしなかったし、こんな私と友人でいてくれるだけでも幸福だと感じていた。

だから、校内で彼女を見ると嬉しくなったし、彼女が話しかけてくれるとドキドキと鼓動が高鳴る――それだけで十分だと思っていた。


彼女の友人としての地位に甘んじていたある日


「〇〇のこと好きだし、試しに付き合ってみよっか?」


と屈託のない笑顔で思いもかけない台詞を言われた時は頭が真っ白になり、目の前の彼女をぽかんと見つめてしまった。

投げかけられた言葉がじわじわと浸透し理解できると舞い上がるほど嬉しくなり、思わず頷いてしまった。

恥ずかしながらその瞬間だけは、同性だとか自分の汚らわしさとかはすっかり忘れていた。


こうして私と彼女は付き合うようになった。


といっても、互いに中学生なので大したことはしていない。

少しでも一緒にいたくて駅で待ち合わせて早めに登校したり、交通機関をわざと使わずに歩いて帰ったりしたくらいだ。

休みの日は彼女の家の近くにある書店で待ち合わせをし、あの本が面白いとか、この本が人気だとか他愛もない話をした。

それだけで世界が驚くほど違って見えて、何もかもが美しく輝いているような気がした。

生まれたときから掛け続けていた色付き眼鏡がぱっと取り払われ、初めて色彩豊かな風景を見たかのような気分だった。


だからこそ、彼女に触れるようなことは極力しなかった。

父との関係は相変わらず続いていたので、私が触れた場所から彼女が汚れるような気がして触れることができなかった。

彼女を騙している事が心苦しかったが見損なわれるのも怖くて、家庭のことは何一つ話さずにいた。

頭の隅で期限付きの恋だと誰かが呟いていたが聞こえないふりをして、彼女に触れず、彼女を大切にすることで少しでも一緒にいたいと思っていた。


終わりは数カ月後に突然やってきた。


学校が休みの日に彼女と待ち合わせをした。

予定の時間を過ぎても彼女が現れず、私は何かあったのだろうかと不安になりつつ待ち続けた。

1時間経っても2時間経っても彼女は待ち合わせの場所に現れることはなかったが、それでも私はその場所から立ち去りたくなかった。

もう来るかもしれない、入れ違いになるかもしれないと安易なことを考えつつ門限まで待ち続けたが、結局その日彼女が現れることはなかった。


翌日、彼女はいつも待ち合わせをしている駅にも居なかった。


仕方ないので1人で登校すると、学校で彼女の友人から手紙をもらった。

嫌な予感がしてすぐに読む気が起きず、昼休みに誰もいない場所で手紙を読むと、そこには彼女からのお別れの言葉が綴られていた。

私が彼女の行動や意見に合わせるばかりなのが嫌だった、気持ちが通っているように思えなかったと書かれた手紙を読んで、私がいかに自己満足で彼女を傷付け続けたのかを知った。

大好きなのに傷付けることしかできなかった自分が悔しくて、学校内にも関わらず泣いてしまった。


その日以降、彼女は私に話しかけることはせず、視線を合わせることもなくなった。

私も彼女に嫌われてしまったことが辛く、後ろめたさと罪悪感が入り混じって、彼女に声をかけることなどできなかった。


長かったようで短かった中学校生活の最終日。


仲のいい友人たちと話している時、遠くに彼女の姿を見つけた。

他の友人と楽しげに話をしている彼女を見て、切ないような申し訳ないような気持ちになった。

大切にできなかった彼女に私ができることは何もなかったが、せめて彼女が幸せであるようにとその華奢な後ろ姿に願った。

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