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非日常

中学校での生活が充実していても、前向きになろうと努力しても、時折暗い感情に支配されることがあった。


友人宅へ遊びに行くと、専業主婦のお母さんが出迎え、久々の休みを満喫しているお父さんが挨拶をしてくれる。

お父さんとお母さんが仲良く会話している。

友人にしてみれば当たり前の風景が、私には酷く眩しく感じられて直視できない時もあった。


友人たちが集まって恋の話をする時は、話を合わせていても胸が詰まる様な思いだった。

恋をして、告白をして、いずれ大好きな人に初めてを捧げる――私にはできないと事だと分かっているからこそ、無邪気に話す友人が羨ましく、自分の足元に広がる影の大きさに気付かされた。


どんなに学校が楽しくても、友人と過ごす時間が大切でも、まだ中学生の私は家に帰らないといけない。

自分一人の力で生きていけないと分かっていたが、友人たちの普通の家庭に憧れ、何度羨ましいと思ったか数え切れない。


家に帰ると友人とは違う日常が私に待っている。


その頃の私は、家に帰って母がいる時や父が私に興味が無い時は内職をしていた。


家計が厳しく、母は日中の仕事の他に、空いた時間に内職をするようになったからだ。

私は母の負担を少しでも減らしたくて、学校の授業中に宿題を終わらせ、家に帰って内職をするという生活をした。

父は相変わらず仕事をする気配はなく、お金がある時はパチンコへ行き、無い時は家に籠もりきりでテレビやビデオを見続けていた。


家に帰って父しかいない時、あの行為を要求される事が苦痛だった。


それは苦しかったり痛かったりすることもあったが、ただ言われた通りにしてじっと耐え続けるほかなかった。

そうしていると、ふと自分が父のために用意された人形なのではないかと感じる事があった。

父のための人形なのだから、父の言うことを聞き、父の欲望のはけ口になるのが私の役目ではないのかと、錯覚しそうになった。


たとえあの行為を要求されなくても、父の逆鱗に触れないようにと気を使った。

うっかり逆鱗に触れると、父は激しい口調で私や母を散々罵り、物を投げたり蹴り飛ばしたりして、家の中は台風でも通り過ぎたかのように散らかるからだ。


父の激怒するタイミングは本当に予測できなかった。


ある日、私はリビングでノートを広げて小説を書いていた。

そこに偶々通りかかった父が背後から覗き込んできたのだが、私は恥ずかしくて咄嗟にノートに両手を載せて隠した。

それが癪に障った父は


「見られたくねぇならオレの目につく所でするんじゃねぇ!!」


といって、ノートを取り上げて庭に投げ捨てた。

その後は何時も通り罵られ暴れられたので、その日以降私は家で小説を書くことはなかった。


またある日は、自分の見ていたテレビが気に入らないからと、夜にも関わらずテレビ局に電話し散々クレームを入れていた。

一度は怒りが納まって電話を切ったが、何かで再度思い出して苛ついたのか、また電話を入れようとした。

それを見かねた母が


「一度電話を入れたのだからもういいじゃないですか」


と宥めたことに激怒し、大声で母を怒鳴りながら物を投げつけ始めた。

私は母が怪我をすると思い、背後から父にしがみついて止めようとしたが、今度は私が逆らった事に腹を立てたのだろう。

灰皿を投げ付けてガラスを割り、私が大切にしていた本は破られ、ゲーム機は叩き壊された。


ある日は私が不機嫌な顔をしていると言われて怒られ、またある日は気持ち悪い目で見るなと罵られた。


表情に気を付けつつも元気で明るく、父の言うことを聞くいい子でいることが家で平穏に過ごせるコツだと分かると、私はその通りになるよう心掛けるようにした。


それでも父が怒る時は、嵐が過ぎ去るのを只ひたすらに待つしか無いのだ。


家で散々な目に合った翌日、学校で友人たちに会うだけでいつも泣きそうになった。

笑いかけられ、話しかけてもらい、普通に接してもらうだけで、明るい場所へ引っ張り上げてもらっているように感じた。

私が憧れていた普通の学校生活を送らせてくれることを感謝した。


だからこそ、友人を羨ましいと思ったり、嫉妬したり、妬ましいと思った自分が許せず、何事もないよう振る舞うしかできなかった。


何事もないような振りがどんどん得意になっていき、笑顔を浮かべることが上手になったのは、きっとこの頃だろう。

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