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短編

Not女たらし。

作者: 382

 ウチの弟は、ヤリチンと呼ばれてるらしい。

 冒頭から何を。と、思うかもしれないが、まあ聞いてほしい。

 姉のウチが言うのもなんだが、弟はイケメンという奴で、高身長のモデル体型。しかも成績優秀、スポーツ万能といった何それどこの乙女ゲー?というスペックの持ち主。

 中学校の卒業式など、第二ボタンどころか全ボタン剥ぎ取られ、しまいには上の制服すら追剥に遭ったようで。

 キャッキャッ。と、点描舞う少女漫画の一コマではなく、世紀末伝説や漂流した教室のような描写の光景だったそこは、カオス。

 あの時の女子たちは、まさに追剥ぎババアだった。と、ロウタは思い出すたびに青い顔をする。


 しかし、高校に入ってからは女性関係というものが悪くなり、新しく付き合ってはすぐに別れ、また新しく付き合っては別れているらしい。

 新しく付き合う子は、ロウタと付き合えるなら何でもいいのか、ロウタがフリーになれば自分から告白するらしい。

 だが、つき合った数日後の彼女たちは、夢から覚めたと言おうか現実を見たと言おうか……。

 いつもロウタから別れを言われるらしく、彼女たちのほとんどは文句も言わず別れるらしい。


 らしい。らしい。ばかりだが、何分ウチも聞いた話なので勘弁してほしい。

「おい、何で聞かねえんだ」

 先程からロウタがソファに寝転んで本を読んでいるウチの隣で正座をしてガン見しているが、ウチは何もロウタから話を聞く気など無い。

 ロウタがいる実家から、独り暮らししている私の家まで遠い。なのに態々やってくるのは、話を聞いてもらいたいかららしい。

 しかし、聞き飽きたウチは、今の言葉もスルーしている。

 最初の一、二回ぐらいまでは話は聞いてやっていたのだ。

 それを放棄させたのはロウタの話の内容。そもそも、何で聞いてやっていたのか、自分自身理解に苦しむ。


「今日のご飯か?」

「違う」

「明日のご飯か?」

「違う」

「ほな、訊く事ないわ。」

「いいから聞け。」

 ウチは聞くとも言えとも言ってない。

 話し始めると止まらないロウタの話、どうかウチの代わりに最後まで聞いてやってほしい。



 ◇◇◇◇



 最初は、どんな奴だったか。

 そうだ、クラスで一番派手な女だった。

 化粧や香水の量は断トツで、授業中に化粧を直して、雑誌を読んで、何しに学校に来てるのか分からない女。

 それで何で付き合っていたのかと言えば、俺も男だ。

 彼女の一人や二人…いや一人でいいのか。まあ、欲しかったわけだ。

「ね、ロウタ君。アタシと付き合って」

 その言葉に乗っかって軽く返事を返したまでは良かった。

 だが、次の日から俺の地獄が始まった。

 彼女になった女は、「ロウタ君、アタシと付き合ってるから」を前面に押し出し、俺に近づく女……例えば教師に頼まれて伝言を伝えに来た女に出さえ牙をむき、常に行動を共にしたがり、定時のlineを怠れば「アタシの事愛してないんだ」と五月蠅く、缶ジュース一本から高めの服まで俺の金を当てにし、勝手にスマホを見てフォルダ別けしていた姉貴の写真や番号を消そうとする始末。


 何かが違う。

 これは俺の望んだ彼女とは違う。

 いい加減香水の匂いにも限界がきた俺は、別れを切り出した。

 そうすればどうだ、「アタシをポイ捨てする気!?」だの「このドシスコン!」だの言いたい放題。

 せめて「アタシの何がいけなかったの?」とでも訊いてくれれば可愛げがあったろうに、残念ながらそういう女でもなかったし、あったとして言ったとしても、そういう質問をする女に限って自分はどこも悪くないと思い込んでいるのだ。タチが悪い。


 次の女は大人しい女が良い。

 そう思って校舎裏で告白してきた黒髪おさげの眼鏡女と付き合った。

 臭くもないし、ケバくない。

 奥ゆかしい。細かい事に気付くマメな奴。最初の女との違いが大きかったから、俺も少しは安心していた。

 だけど、やっぱり付き合ってみると違うもんで。

 奥ゆかしい……ではなく、ただの引っ込み思案。

 マメだと思っていたが、ただの神経質。……いや、これはいいのか?

 問題は、いつもオドオドと不安げにしていたのは何かと思えば、「あの女の人、誰?」「今、誰と喋ってたの?」「ロウタ君、昨日の休み何してたの?」と、自分が安心するまで訊いてくるところだ。

 ヤバい、コイツも束縛系だ。と、気付いた時には姉貴に「私のロウタ君、取らないでください!」なんて突撃する始末。

 これが決定打になって、嫌になって別れを告げれば、先ほど言った「私の何がいけなかったんでしょうか?」を何度も訊いてきた。一応「ダメな所」を言ってみたが、案の定理解されず、俺は「酷い男」の烙印を押されてしまった。

 別れてからしばらく、ストーカー被害に遭ったため、姉貴の所に逃げた俺は、しばらく彼女は要らないと思った。


 しかし、被害も収まってまた彼女欲しい。となる頃に、今度は活発系女子の告白を受けた。

 また新しい要素を持つ女だったが、前の女たちに比べればサバサバしてたし、暫くは俺も爽やかな青春。というものを謳歌し始めたのだ。

 だけれど、やっぱり嫌な部分。というものは見えてくるものだ。

「ごめーん。失敗しちゃってさー」

 と、言いながら出してきたのは、弁当箱に入ったダークマター。

 どこからが白飯でどこからがおかずなのか分からないその物質。それをいつもの笑顔で「食べて」と、差し出してきた。

「お前が作った物は何でも美味い」なんて言える男であればよかったが、残念ながら俺はそんな男の要素を持っていなかったようだ。

 どんな素材をどう調理してこの結果なのか、自分から作ると宣言しながら恥ずかしげもなくコレを他人に振る舞えるその神経。それなら、母親が作ったものを自分が作ったと言ってくれる方がまだマシだ。

何もかも分からないこの女が怖くなり、俺は翌日その女と別れた。

 ダークマターを見てない奴らからすれば、弁当まで作った甲斐甲斐しい子をポイ捨てした酷い男。と、見えている事だろう。

 一番良かった所は、別れる時もサバサバしていた所だろうか。


 その後も様々な女と付き合い、そして別れ、気付けば俺は校内一のヤリチンとして名を馳せていた。

 しかし誤解しないでもらいたいのが、俺は一回もヤってない。そう、ただの一度も。

 それなのにヤリチンという冤罪をかけられたのは、今まで付き合った女達が勝手に見栄を張った挙げ句、話を盛ったに過ぎない。

 DTじゃない。大事に取っているだけだ。……女子か俺は。



◇◇◇◇



 ロウタがセルフツッコみを入れたところで、ウチは気になっていた部分を訊いてみた。

「で?今回はどんな所に冷めたんや?」

「……袖の所から、生えてきたわき毛を見た」

「……」

 まあ、今は夏で、当然制服も夏服になる。

 女子はシャツにスカート。

 白いシャツにブラが透けて見える。なんてチョイエロなものを吹っ飛ばすのが、半袖の場合腕をちょっと上げれば脇が見える。処理が甘いと、剃った後生えてくる黒い点々がよく見えるアレ。

 まあ、あれは女のウチでも「うわ」なんて思う。女に勝手な幻想を抱くロウタからしてみれば、更に「うわ」だろう。毛関係で言うなら、すね毛が生えてた。だの手足の指毛が生えてた。だの鼻毛が見えた。だのと多い。毛だけに。


「……それくらいは、堪忍したりぃな」

「嫌だ。俺はあの瞬間絶望した。髪質だの肌のケアだのと気遣うなら、何で脇まで行き届かねえんだ。そんな中途半端、俺は認めねえ」

「そんなん言うてたら、裸見たらアンタ絶望どころやあらへんで」

「そう。この前、階段下にいたら上にいた女のスカートが風で煽られて、中が見えた。その時、パンツからはみ出たモンに、俺の女不信を煽られた」

「しっかり見といて被害者面かよ。不信っつーなら、もう彼女いらんやろ」

「いる。俺は姉貴みてェに独り身になりたくねえ。孤独死は、もっと嫌だ」

「ぶっ殺すぞテメエ。大体、男友達も呼べんのはアンタが威嚇するからやろがい」

「変に勘違いした髪形や恰好した男、この家に入れたくねえ。あと、香水付け過ぎで臭い」

「初対面でファブられたのアンタが初めてやって。やったね、初めての男」

「何ら嬉しくねえ」


 それからも女はこうあるべきだ。だの、これは絶対譲れねえだのと演説する弟を眺めていたら、こちらに向けられる視線に気付いた。

「……何?」

「もし俺に彼女が出来なくとも、高校生活がヤリチンの称号で終わろうとも、来年大学に入れば、俺も姉貴の所に来るから、二人淋しく俺に真の彼女ができるまで一緒に住もうな」

「いっそ清々しいまでに自分都合かよ。つーか、大学行くならオトンに頼んでアパート借りろや」

「俺の食事や洗濯は誰がするんだ」

「彼女にしてもらえや」


 一番面倒くさいのは、この弟じゃないか。



(シスコンは無自覚な件)

登場人物

【ロウタ】

イケメンハイスペックの筈なのに、女子に夢見るせいで、未だDT。

女の子は小さくて可愛くてフワフワして、香水とか使わなくてもいい匂いがして、恥ずかしがり屋で料理が上手くて、裁縫なら小さなぬいぐるみを作ったり、でもどこか不器用でいつも怪我してしまう。頭は良いけど、ちょっと運動神経が悪い。声は鈴の音が転がる的な、可愛い感じ。ムダ毛と日焼けという単語など存在しないスベスベモッチリしたお肌はお人形さんのようで、櫛を通さずともサラサラな髪は、絹糸の如く。

まだあるが、今の所彼が要求するのは、こんな感じの彼女らしい。もちろん、まだ見つかっていない。

彼の姉は上記の項目とは真逆の人間であるが、彼曰く、姉は別格らしい。


【姉】

ロウタの姉。弟とは違い、平凡な容姿とスペック。

毎日のようにやってくる弟を、鬱陶しがっている。が、本人には通じてないので当たり障りなく対応している。

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