私はリサイクルでチートする
クソゲーという言葉が産まれてはや数十年、VRゲーム――時代は遂にVRMMO――数々の名作が世に送り出される中、その一つであるVRMMO『あすなろ』はクソゲーとの評判……いや、そうだろうという判断がされていた。理由は幾つか。単純に無名のゲーム会社、海外の怪しいって感じの……PVがクソなのは安いところに外注したか自作したのかはよく分からない。うたい文句とかは最悪だった、重厚な戦闘という曖昧なものとは反対に牧歌的な雰囲気を醸し出すプレイ動画。ベータテストやらをやったという話も聞かない。何より高額、しかも専用の機器を買わなければならず、致命的に知名度が足りなかった。
そんな如何にもクソゲー買ったのは私です。
「happybirthdaytoyou happybirthdaytoyou happybirthdaytodearあすなろ happybirthdaytoyou!」
音楽が聴ける。VRは没入する関係上、ながら○○なんて器用な真似は出来ません。ゲーム内に用意されたBGMしか聴けないのです。多少気を使って数十種類セレクト出来ても、それはゲームBGM。私は自分の好きな音楽を好きなときに好きなだけ聴きたい。なんとこのくっそ高かった機器は事前にデータを入れることでゲームをしながら聴けるという仕様なのでした。こんなの、神ゲーに決まっているでしょう。
尤も、ゲームそのものが面白いとは限りませんがそこまで絶望はしていません。好きな音楽を聴きながら生産が出来ればそれで十分です。
で、あすなろはスキル制と聞きましたが実は私生産があんまり得意じゃないんですよ(一度別のVRゲームで魔法陣に手を出してみたけれど、コンパスを使っても円が書けないレベルの)。生産に失敗したらスキルレベルは上がらないそうです。少し困ってしまった私が見つけたのは”リサイクル”という名のスキル。
これはいいですね……
132・名無し
これから生産職で始めるつもりですが、リサイクルは取っておいた方がいいですか?
135・名無し
>>132止めとけ失敗ばかりでもリサイクルは使えん
136・名無し
リサイクル使えないってよく見るけどどうして?
137・名無し
十個ゴミを作って一回分素材が戻ってくるのはまあ有用だがスキル枠を費やしてまでやることじゃない
つかよほどのことがない限りそんなにゴミを量産しない
レア素材を使っての生産を数こなすならありうるが今は要らんだろ それより鑑定とっとけ、プレイヤーの露店は安いが偽装されてる場合もある 何よりリサイクルすると品質が落ちる
139・名無し
>>137 長文ありがとうございました! 鑑定は取らずにリサイクルを取ります!!
140・名無し
>>139幾らなんでもこれは鬼だ
さて、掲示板で情報収集もしたことですし、
始めますか!
混雑を避けるようにして正午のサービス開始から8時間待ってのログイン。だからまあ、夜です。スタート地点であるあすなろの大木広場には人があまりいません。いきなり過疎ってる? 別にいいけど。加速設定を確認――一倍。固定らしい。待たせる友人もいない私は早速行動……何を? チュートリアルか。
ヘルプを確認する――親切ティーチャーはいない――がレンタル作業場はあるらしい。
「初心者調薬道具一式をください」
「はいよ。3000Bだ」
因みに初期資金で渡されるのが5000B……ちょいと高すぎやしませんか? これに部屋を借りる費用1000Bを差し引いて残り資金1000Bなんですが。大丈夫だろうと高を括ってポーションでも作ってみようかと思って………………材料買ってないじゃん!?
受付の人にー、ごめんなさいを言って別の人に部屋を譲りー、街へ繰り出す。探すは露店、プレイヤー経由で何かこう材料を……
「あ」
『薬草 品質E~D 50B』
一見好青年のお兄さんが薬草を売っていました、しかも飛び切り安く! 勤勉な私は相場を事前に調べていますが、大体150Bくらいです。つまり、三分の一という安価です。買うしかない。
「すみません。この薬草安いですね、何か理由が?」
「り、理由? えーっと商売スキルのレベル上げかな?」
「成程。それなら私も商売スキルを持っているのでよおおく分かります」
「商売スキル? あ、じゃあ一緒に鑑定とか」
「持ってませんよ。可笑しいですか?」
「いやいや全然。で、薬草買う?」
「冷やかしじゃあるまいし、買いますよ。1000Bです、買えるだけください」
「毎度ありー」
「ところで何ですが」
「ん?」
「折角なのでフレンド登録しませんか? 今後も買いたいです」
「…………いいよ」
「ありがとうございます! ではまた、来ます」
「…………ふぅ」
「あ、そういえば」
「何か?」
「記念に写真を撮ってくれませんか。ピースはしてもしなくてもどっちでもいいです」
「あ、うん」
気を取り直して生産と洒落こみましょう。今回作るのはポーションです。材料は薬草×2と水少々。水はこの生産施設にてタダで採取できるので心配する必要は無し。工程も簡単です、それも最初から持っているレシピに従うだけ。薬草を切り刻んで、鍋でグツグツ煮込んで、完成したのはゴミ。
何故故に?
もう一回試す。切って、煮込んで、ゴミが出来た。
もう一回、試す×18 ゴミとは果たしてゴミなのだろうか? 別の何かではないか?
何時の間にかリサイクルのスキルレベルが上昇していた。
時にはお手玉をしてみる。小学校の頃、老人たちが伝統芸能を教えるとか何とかで学校にやって来た。彼らは何も知らない。そのくせに、お手玉を何個も同時に操り、駒をいとも簡単に回すのだ。私はそんな、得体の知れない存在である彼らが怖くて仕方が無かった。
そんな時のことを不意に思い出しながら、ゲームをしたりお手玉をする。
親切そうなお姉さんが私に話しかけて来た。
「それってゴミ?」
「うん。かつては薬草だったはずなの。しかしみんなゴミ」
「何を作って?」
「下級ポーション」
「変ね……そう簡単に失敗するはずないのに」
「20回も連続でポーション製作するような駄目人間でごめんなさい」
「20回!? それって詐欺…………あ! 材料は何を使った?」
「そんなもの薬草と水に決まっているじゃないですか」
「その薬草はどうやって?」
「その辺の露店で安かったので纏め買いです」
「多分、買った薬草って実は雑草だったのよ。鑑定を持っていれば見抜けるけど」
「生きててすいません」
「偽装……ねえその人の人相とか場所って」
「茶髪で青眼(リアルは黒髪黒目みたいな)な身長167cmの左頬にほくろがある16歳くらいの少年、場所は此処から南に630m先です。フレンドに記載されているものを読むとロキ、になっています。写真もあります」
「何? そういうの得意?」
「人間観察が趣味です」
「ともかく、フレンド登録しましょ? 私そいつを探すわ、ここで待ってて」
私はその間暇だったので彼の写真を掲示板に上げようかと思ったが止めた。
刹那だったか久遠だったのか、永久ではない時間を思考の海に浸していた私は揺り戻される。フレンド二人が眼前に在った。
「騙される方が悪いんだろ」
「そーですね。貴方がそういうプレイヤーだって掲示板に晒されたくなければ、所詮ゲームなので。キャラリセの御準備を」
「おい」
「金くれればいいです、1000B」
少年は雑草代くらいいいだろ? と言ったけれど殆どタダのようなものとお姉さんが反論してすぼんだ。
お姉さんは帰って行ったが少年はまだブツブツ言っていた。納得いかない様子。
「ところで少年」
「あ?」
「貴方がやったのは偽装というスキルを使って雑草を薬草と偽って販売した、でいいですよね」
「そうだけど?」
「その中に薬草は混じっていない」
「あったらんなもんNPCに売ってるよ」
「つまり私に売った薬草は全て雑草だった。ならば。この掌にある薬草は一体何なのでしょう?」
「知らねーよ」
「一つ提案があるのですが。幾ら持ってます?」
「……3000B」
「全部貸してください」
543・名無し
薬草探し面倒だな
544・名無し
そんなことするより魔物狩ってこいよ
545・名無し
>>544いや薬草探しは侮れんぞ? 現状一番確実な収入源だし
546・名無し
>>544意外と魔物が強い。
547・名無し
>>545つか薬草ってそんな生えているもんじゃないだろ、明らかに確実性に欠ける
548・名無し
鑑定スキルさえ持っていればそのうち見つかりますよ
549・解析班F
>>543‐548 お前らNPCの話を聴け。薬草は確かに鑑定スキルさえあれば見つかるが直ぐ生える雑草と違って復活には時間が掛かる。採りすぎると無くなる。薬草が手に入るのは今しかないぞ
550・商人G
あーこれは薬草が高騰するパターン……?
551・廃人連合
いや、薬草が採られてるのは森の浅部だから奥に行けばある。NPCが注意してないのは取りつくされても問題ないから
552・名無し
>>困らないのは強いお前らだけだろ、ノーリスクで稼げるから薬草探しが方法の一つなわけで
553・リサイクルマスター
みなさんだけにお教えします。実は楽に金を稼げる方法があるのです。
554・名無し
廃人連合は自力で賄えると思うが、他が苦しいな。
555・名無し
薬草が足りない⇒ポーションが足りない⇒攻略できない⇒薬草を確保した一部の連中との差が開く
556・風邪薬
保育園を増やせとか言っておいて保育士を増やさないお前らのことだから忘れていると思うが
そもそも調薬スキル持ちが少ないんだが? 正確には
薬草と調薬スキル持ちが足りない⇒自分たちで作れるポーションが足りない⇒NPC製のポーション(多分ぼってくる)を買わざるを得ない⇒資金不足⇒薬草と調薬スキル持ちを確保した一部の連中との差が開く
本来なら調薬スキルを取るよう勧めるところだが薬草がないと話にならない
557・名無し
悲報 あすなろがサービス開始直後から過疎決定
558・リサイクルマスター
方法は簡単 雑草を集めるだけです
559・名無し
>>558 ギルドにでも依頼してこい
560・リサイクルマスター
……どうやってやるのですか?
561・名無し
ggrks
562・名無し
>>560 あすなろの大木広場からそう遠くないところに冒険者ギルドがあるから、そこの受付嬢に言えば出来る。内容は受付嬢と相談して決めろ
563・リサイクルマスター
ありがとうございます
599・名無し
これからは金なし薬草無しポーション無しの三重苦だな
600・リサイクルマスター
依頼を載せてきました! 宣伝のために載せておきます
雑草収集 非ギルド依頼GP無し ランクF制限なし 依頼主リサイクルマスター
雑草を諸事情で集めているので出来るだけください
報酬 雑草一本につき5B 支払いが少し遅れるかもしれませんが必ず払います
備考 報酬のレートは変えるかも
601・名無し
荒らしかと思っていたんだがマジだったとはな
602・名無し
>>600 そんなに雑草を集めてどうするの?
603・名無し
>>602 肥料じゃね?
604・名無し
>>602 タンブルウィードでも作るんだろ
605・流離の剣士
>>600 二刀流が気持ちいいので雑草をバッサバッサ切って今手元に200本くらいあるんだが
あれ? これ薬草探しより儲かるような……
私の目は節穴ですから、たとえ薬草が偽装されたとしてもタダ同然だったら買ってしまうのです。
「はい薬草200本品質Aを1Bで売ります」
「買った。純利益の2割が報酬でいい?」
「取りあえずは。ギルド往復した程度だからな」
私は生産施設に籠ってゴミを量産する。あっという間にゴミが完成し、リサイクルによって薬草へと生まれ変わる。
私は腕に薬草を抱えながら少年にどや顔を披露するのだった。
「どういう仕組みなんだ?」
「生産の時点では偽装薬草が実際は雑草として扱われて生産が失敗してしまうけど、ゴミをリサイクルする時には薬草として扱われているってことだね。これによって雑草10本が薬草一本に化ける」
「これってバグじゃね?」
「私は薬草を購入してゴミにしてリサイクルしただけ。偽装されていることは知らなかった、いいね?」
「アッハイ」
411・商人G
おい誰だよ薬草が高騰するとか言った奴。買い占めた薬草が全然売れないんだが?
412・名無し
ブーメラン乙
413・風邪薬
なんか知らんが高品質で安価な薬草が大量に出回っているぞ。調薬スキルを取るなら今しかない
414・名無し
ついさっきまで薬草不足が叫ばれていたような……
415・名無し
>>414 俺もさっき来て驚いたわ
416・解析班F
あすなろ騎士団とかいう中小ギルドが薬草を売りまくってる 値段は100B品質はB
417・名無し
これは買い占めた奴終わったな
418・名無し
あのー……浅部で採れる薬草の品質はE~Cだったような
419・名無し
おっ、そうだな
420・名無し
誰かが森の奥に入って大量に手に入れたのか?
421・名無し
スレのアイドルが誕生する予感……
422・解析班F
出所を聞いたら闇としか答えてくれなかった。末端には知らされていないらしい。今からギルドリーダーに会いに行く。
423・名無し
闇……ひょっとして無から薬草を出しているんじゃないのか?
424・名無し
闇とかお茶吹いたじゃねーか
425・名無し
だとしたらなんで品質がBなんだよ、Aにしろよ
426・名無し
自重した結果だろ
427・名無し
品質Bにはなんか理由があるんじゃねーの?
428・名無し
なあお前ら……俺さっき雑草を納品して金を貰ってからこのスレを開いたんだが、
この雑草はどこへ行った?
429・名無し
あっ……(察し)
430・名無し
リサイクルって確か、リサイクルした素材の品質を下げる……あっ……(察し)
431・名無し
あすなろはホモの巣窟なのか(呆れ)
432・名無し
リサイクルマスターってまさか?
後日
「結局偽装がより使えなくなっただけじゃねーか」
緊急メンテが入り、素材が偽装されていた場合生産には使えませんという警告が出るようになった。あと地味にリサイクルしても品質が下がらないようになった。少年は結果として偽装の知名度が上がったせいで鑑定の保有率が増えたことを嘆いている。
「お咎めなしとかずるくね?」
「廃人どもじゃなくて初心者に貢献したからね、当然だよ」
「そういう態度は高くつくぞ。で、手に持っているのは?」
「暗黒物質」
「は?」
「いやさ、私沢山失敗したの。それで称号の習得条件を満たしたらしく」
久遠の失敗者 生産で1000回ゴミを作ったプレイヤーに送られる称号 生産成功率-5%
「マイナス?」
「で、リサイクル成功率は100%なのね」
「ああ、そのリサイクルに失敗すると――暗黒物質が出来上がる訳か」
「そゆこと」
さて、この暗黒物質は何に使えるだろうか?
次のメンテが来るまで私はきっと遊び続けるだろう。私は、さっきからずっと流していた曲を止めて、別の曲をセレクトした。
次回予告
「成功率0%に-5%を+したら?」
「……いや、普通に-5%じゃねえの?」
「答え。95%」
「暗黒物質は何物でもない」
「つまり?」
「何物にもなれるという無限の可能性を秘めているということです」
「料理スキルは諸事情で失敗してもスキルレベルは上がる。ゴミも出ない。毒物なら出来るけど」
「闇鍋でも作るつもりですか?」
「YES!」
「料理は実質錬金術のようなものだと思っていましたが、私気付いてしまったのですよ」
「どうぞ」
「料理の重さは入れた素材の量の合算である」
「我が魔王だ」
「問答無用闇鍋メテオを喰らえっ!!」
『魔王が討伐されました』
※続きません