第五夜 強襲 14
(詩歌…、君は本当にそれでいいのかい?)
「ツッキー、こっちへ!」
強い口調で呼ばれ、野絵は少し驚く。
いつもの優しげな話し方ではなく、緊張感が漂うような強い言葉に、彼が逼迫している状態なのを感じ取った。
「は、はい」
小走りで詩歌の元へと駆け寄ると、優しく肩を掴まれ、体を反転させられた。
「カードを良く見て強く念じるんだ。ツッキーはどんな力が欲しい?」
「わ、私はみんなの役に立てるなら、どんな力でも…」
「違うだろ、ツッキー」
耳元で甘く囁かれ、思わず体が大きく揺れる。
士音が何か言いたそうに口を開いたが、一瞬躊躇し、そのまま黙り込んだ。
「お前の欲する力はもう決まっているはずだ。誰の為でもない、自分の為だけに力を求めるんだ」
「自分の…為」
本当は最初から手に入れたい力は決まっている。
幼い頃から憧れて、見ているだけで満足していたもの。
その力が自分に宿ったらどんなに素敵なことだろう。
どんなに手を伸ばしても、自分には届かないものだと思っていた。
どんなに学習しても、余計遠くに感じた。
寂しい夜も。
悲しい夜も。
胸が張り裂けそうだったあの夜も。
優しく野絵の事を見守り続けてきてくれた。




