第四夜 天使の裁き 2
(今日も囲まれてる…)
女子達6、7人に囲まれて困っている士音と目が合い、野絵は苦笑する。
「先に…」
行ってるね、と言いかけて野絵はその続きを言うのをやめた。
何人かの女子達が物凄い形相で睨んできたので、その先を言うことが出来なかったのだ。
ジェスチャーでそれらしい事を伝えると、彼は大きく頷き、無言で教室を出ていった。
(大変だなぁ、士音君も…。しょうがない、一人で先に行ってよう)
士音達が出て行き静かになった教室には、もう野絵一人しか残っておらず、グラウンドからの声やホイッスルのような音が鳴り響いている。
足早にその場を去ろうとしたのだが、背後で小さく扉が開く音がし、唐突に名前を呼ばれた。
「袖ノ月野絵さん」
声に弾かれるように振り向く野絵。
視線の先には、腰まであるストレートの髪を風になびかせ、こちらを見ている少女が写った。
「あなた、袖ノ月さんよね?」
「え…あ、ハイ」
少しハスキーボイスの彼女は優しく微笑むと、軽やかな足取りでこちらへ近づいてきた。
柑橘系の香りが辺りに漂い、思わずうっとりしてしまうが、近くで見ると彼女の女子力の高さをより一層思い知ることになる。




