第三夜 天文学部、設立?! 29
笑顔の士音だったが、目は笑っていなかった。
「はいはい、すみませんね。大事なプリンセス様だもんなー」
「なっ、何言って…!」
真っ赤になって反論しようとした士音だったが、彼もまた詩歌によって、髪の毛をぐしゃぐしゃに掻き回される。
「プリンス君も結構小柄だなー」
「あー、止めてよ詩歌」
綺麗に整えられていた士音の髪はボサボサ状態になってしまい、彼は手ぐしで軽く直す。
野絵はというと、ボーッと二人のやり取りを見ていただけで髪の毛はぐしゃぐしゃなままだった。
「…とにかく二人には一晩考えてほしい。これ以上先に踏み込んだらもう後には戻れない。ケガをしたり……最悪の場合もあるかもしれないからな」
今までに無い気迫だったので、二人は気圧されてしまう。
彼の瞳の中に何か覚悟みたいな物を感じた。
「クロノメーター、リリース」
詩歌が呟くと再び金属音が鳴り、ガラスが割れたような音が辺りに響く。
違和感を感じたのは一瞬で、再び世界に音が戻る。
部活道中の生徒達の声や、車の音、ワンッという威勢のいい鳴き声も聞こえ、野絵は何だか安心した。
「いつもの世界だ。ほっとしただろ?」
「…はい、とても」
こちらの考えを全て見透かされていて、野絵は素直に答えてしまう。
「あっ、いやでも魔法が嫌って訳じゃ…」
「いやいい、それが普通の反応だ。そのまま何も見なかった事ににして、普通の高校生活を送ってもいいんだぞ」




