第三夜 天文学部、設立?! 5
嬉しくてたまらない野絵は思わず彼の手を取り、思いきり上下に振る。
こうなるともう外部の声はほとんど聞こえない。
「あー、手…」
「やった、やったー!!」
「…袖ノ月さん、手、手が」
「あ、ごめんね。嬉しくてつい…」
急いで手を離すが、野絵の興奮状態はなかなか収まらない。
一人心の中で喜んでいると、彼が少し潤んだ瞳をしてこちらを見ているのに気づく。
心なしか頬も少し赤く、何だか辛そうに見えた。
(佐山君は花粉症なんだな…)
勝手な解釈をしていると、士音が何かを決心したかのように口を開いた。
「野絵」
「えっ」
いきなり呼び捨てで呼ばれ、思わずドキリとする。
「野絵って呼んでいいなら、入るよ」
静かな落ち着いた声には、有無を言わせない力強さがあった。
真摯な瞳に見つめられ、普通の子なら完全にノックアウトしてしまいそうなものだが、野絵は力なく笑い、楽しそうに頷いた。
「うん、いいよ。野絵って呼ばれるの久し振りだなぁ」
「オレの事は士音でいいから」
「うん、分かった」
二つ返事で答えてしまったが、彼の思いには全く気付かず、ただ純粋に一人目をゲット出来たことに喜んでいた。
(名前で呼ぶだけで入ってくれるなんて、佐山く…士音君っていい人だなぁ)
月以外の事には無頓着で鈍感な野絵なのであった。




