第二夜 獅子羽高校入学 7
言葉にしなくてもはっきりと分かる。
これ以上彼に近づくなという、女子の牽制だ。
「え、えーと、では私はこれにて!」
そそくさとその場を後にしようとしたのだが、彼にバッグを捕まれ、思わず振り向く。
「あー…、ごめん。折角だし一緒に行かない?」
何故だか頬を薄紅色に染め、彼は真摯な瞳でこちらを見つめてくる。
(こ、これはもしかして…)
「深い意味は無いんだ、でもそろそろ時間だし…」
「あなた、乙女系男子ですね?!」
「違うよ?!」
またもや突飛な発言をする野絵に、今度はさすがに慌てふためく少年。
「そうですか…?私なんかより全然女子力高そうですけど…」
まじまじと彼を見ると、明後日の方を向き頭をかき始めた。
キーンコーンカーンコーン…
「あ」
「あー」
予鈴が鳴り、二人同時に呟く。
「とにかく行きましょうか」
「あー、うん。行こう」
そんな二人の様子を出会いの瞬間から、窺っている者がいた。
二階の窓から見られているなんてことは、二人は全く気付かず、慌てて昇降口の中へと消えていく。
淡いミルクティー色の髪が春風になびき、傍観者の口角が上がる。
「獅子高にようこそ。待ってたぜ、ツッキー」
春、出会いと別れの季節。
今年は出会いの方が多くなりそうな、そんな気がした野絵だった。




