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第五夜 強襲 30
少し荒い息をしながら笑顔を作ろうとする士音に、野絵は胸が痛む。
「かっこ悪いだなんて、そんなことないよ!私のこと守ってくれて最高にかっこ良かったよ!!」
汗だくの額を優しく拭いてあげると、ハンカチがあっという間に焦げ茶色に染まった。
士音は力無く笑い、胸に手を当て呼吸を整える。
「…ありがと、野絵」
「私こそありがとう。士音君が来てくれなかったら私…私……」
再び視界がぼやけて来たので、お腹に力を入れ自分の両頬を叩く。
少し痛い位だったので、かえって目が覚めた。
「も、もう大丈夫…!ここは安全そうだし、もう少し休んだら皆を探しに行こうね」
「野絵…」
平静を装おうとするのだが、声が上擦ってしまい笑顔が上手く作れない。
(これ以上泣いたら士音君に迷惑かけちゃう。笑え、笑うんだ私…!!)
無理矢理頬を引っ張り笑顔を作ると、彼は優しく野絵の手を取り、小さな花でも摘むかのようにそっと握った。
「無理しなくていいから。泣いていいよ」
短い言葉の中に彼の優しさが凝縮されていて、野絵の意思など簡単に崩れ去ってしまう。




