第五夜 強襲 17
(大丈夫、大丈夫!!何ともない、みんなきっといる…!!)
恐怖に打ち勝つように自己暗示をかける。
その間も心臓が早鐘のように鳴っているのが、自分でも良く分かった。
悪い考えを払拭するように、助走をつけて角を曲がった時、思いきり何かとぶつかってしまい、体制を崩す。
「きゃっ!」
可愛らしい悲鳴の主は、見覚えのある人物だった。
確か、クラスメイトの…。
「氷川純子…さん?」
極度の緊張状態の為か、何故かフルネームで尋ねてしまう。
普段なら気付いた時点で軽く笑うのだが、今はそんな余裕などない。
「袖ノ月さん…?」
黒目がちの瞳が少し戸惑いながら、こちらを見上げている。
瞳に負けず劣らずの漆黒の長い髪の持ち主で、クラスの男子に“カラス”とからかわれていたが、艶のある綺麗な髪の毛だと野絵は思っていた。
話した事は一度もないが、女の子らしい雰囲気を纏っている子だ。
この状況の中、見知った顔に会えた事が嬉しくて、少しだけ緊張がほぐれる。
「ごめんね、痛くなかった?」
「うん、大丈夫だよ。少し驚いて転んじゃっただけ。私っておっちょこちょいだからさ」
照れ笑いをしながら、差し出された野絵の手を掴むと、軽やかに立ち上がる。




