第五夜 強襲 15
「それならもう決まっています」
凛とした表情の中に強い意思が垣間見え、詩歌は何も言わず優しく微笑む。
(…魔法よ、どうか私に力を貸して。ムーンのこと忘れない為にも…私は力が欲しい!!)
瞳を閉じ胸に手を当てると、瞼の裏に月の紋章が映った。
そっと目を開け辺りを見回すと、部屋の隅にある一際輝くカードが、音も無く動きを止めた。
瞳なんて無いのに、何故か視線を感じる。
「こっちにおいで」
優しく導くように手を伸ばすと、カードがこちらへ向かってゆっくりと動き出す。
(これでツッキーも魔法が…!!)
誰よりも嬉々として、その一部始終を見守っていた詩歌は、いつもなら気付いていたであろう異変に全く気付かなかった。
暗闇に紛れ、畏怖の対象が侵入してきていた事に…。
野絵がカードに触れようとした、その刹那、いきなり空間がぐにゃりと歪んだ。
自分の指先がいびつな形に伸びるのをはっきりと見てしまい、恐怖を覚える。
「な、何っ…?!」
「まずいっ、これは…!!」
詩歌の焦った声がすぐ側で聞こえたかと思うと、次の瞬間、胃が持ち上げられるような感覚がした。
強烈な目眩に襲われ、気持ち悪くなる。




