アニマルラブラブ
西暦2013年、地球人類は遂に本格的な宇宙進出を果たしていた。地球各地に軌道エレベーターや宇宙港が建設され、様々な星々へと旅立つ人達が現れ、逆に地球を訪れる宇宙人も現れはじめていた。しかし、いくら異星間交流が始まったばかりとはいえ、地球を捨てて別の惑星に永住するといった事は地球ではまだ認められていなかった。それに宇宙港を利用出来るのは、よほど裕福な家庭でなければ金銭的に厳しかった。まだまだ下々の者達が宇宙へ進出するには時間がかかるみたいである。そんなご時世の中、地球を日本をそして今までの生活を全て投げ捨てて、1人宇宙へ旅立った青年がいた。
「う~にゃあ~♬先生、おっぱおっ!」
「……………」
「う、うにゃ、起きない…まったく!」
ここは惑星ニャルエリア。地球から遥か遠くに位置し、獣人達が平和に暮らす小さな緑豊かな惑星である。そんな小さな丘の上に建てられた家の寝室にて眠る1人の日本人男性を起こそうとしているのが、この物語のヒロインで猫の獣人・ナツミである。白い猫耳をピクピク動かしながら、ナツミは先生と呼ぶ愛する青年を起こそうとしていた。
「起きないなら…昨日みたいに無理矢理襲っちゃうにゃ♫だって、先生はあたしだけのモノなんだから…」
「…………………」
「ホントにしちゃうよ?ふふっ、じゃあ…いただきま~す♫」
「はっ!」
「にゃ、起きたにゃ!」
目を覚ました彼こそがこの物語の主人公である青年・片倉景綱である。目を覚ました景綱は眼鏡をかけると早速目の前でナツミがドロドロに濁りきった瞳で自身を見つめ、口から涎を垂らして四つん這いで景綱を美味しくいただこうとしている場面に遭遇していた。ナニを美味しくいただくかは聞いてはいけない。
「おはようございます、ナツミ。そして、何をしようとしてるんですか?聞きたくありませんけど…」
「えっとね、あまりにも先生が起きないからしょうがなく先生のビッグマグナムをだね…」
「言わせませんよ?」
朝からナツミの下ネタに呆れ果てるが、こんなのは今に始まった事ではない。景綱が惑星ニャルエリアを訪れ、ナツミと出会って一緒に暮らすようになってからである。結論から言えばナツミは度を越して景綱に執着している上にド淫乱で、あまりにも景綱の事が好きすぎて病んでいた。間違いなく二次元の世界だとナツミはヤンデレと呼ばれていただろう。しかし、そんなナツミを景綱は事もあろうか愛してしまったのだ。
「えへへ♫もうご飯できてるにゃ♫さっ、早くあたしの目の前で着替えるにゃ!」
「嫌ですよ」
「え~!昨日も同じカッコだったにゃ!汚いから早く着替えるにゃ!」
「だって、めんどくさいじゃないですか」
しかし、ナツミがナツミなら景綱も景綱だった。彼はかつて日本で高校教師をしていたのだが何を思ったのか、急に教師の職を辞した上に住んでたアパートを出て、まだ地球人が訪れた事がないニャルエリアに1人たどり着いたのだった。そこで、ナツミと運命的な出会いを果たし一緒に暮らすようになったのだが、景綱はとにかく家事が出来ない上に食べる事や衣服に関する執着が異様に薄く、逆に寝る事に関して異様に執着する人間だった。
「むぅ、とにかく着替えるにゃあ!でないと後でお仕置きだじぇ‼」
「何と…それは困りましたね。わかりました、着替えればいいんですよね?」
「うんうん、わかればよろしいにゃあ♫そして、そのワイシャツは後であたしのオカズに…」
「やっぱり着替えるのやめますね…」
そんないざこざがあり、ようやく景綱は朝食にありつける事になった。最も景綱は地球にいた頃は朝食を食べないのは当たり前、酷い時は一日中何も食べずに過ごし、それを2日間も続けた事があるらしい。それぐらい食に関する執着がないのだが、そのせいなのか、景綱は身長187cmもありながら体重が50kg前後、日によっては50kgを下回る日もある程の極端な痩身だった。それを知ったナツミはそんな景綱の食生活を正すべく、きちんと三食食べさせようとして今に至るのだった。
「今日はご飯に味噌汁なんですね?」
「うん♫」
「いまどき朝にご飯と味噌汁なんて食べるんでしょうか…僕だったら絶対に食べませんが…」
「文句言ってないで食べるにゃ!えいっ!」
「あたっ!」
せっかく作ってくれた朝食に文句を言いつつ食べる景綱に対し、ナツミはどこからか取り出したピコピコハンマー、通称『ナツミハンマー』で景綱に制裁を下す。見た目は線が細すぎる女顔の優しそうな眼鏡のイケメンである景綱だが、性格は怠惰かつ慇懃無礼で余計な事を口にしやすいタイプだった。勿論、優しいのだが、いつも余計な事を口走るので、こうしてナツミハンマーで制裁を下されているのであった。
「ご馳走様でした」
「はぁ~い♫」
「じゃあ、寝てますね」
「お昼になったら起こすにゃ!」
「お願いしますね」
朝食を食べ終えた景綱は再び寝室に向かい、そのまま眠り始める。衣服や食に関する執着が極端に薄い景綱が執着する数少ないものが眠る事であった。元々、あまり身体が丈夫ではなく幼少期から病気がちだった景綱は眠る事で身体の調子を整えていたが、それが何時の間にか景綱の生活の大半を占めるようになり、一日に何度も睡眠を取らなくてはいけなくなってしまったのだ。
「……………」
「ふっふっふっ、先生は寝てるにゃ」
ぐっすり眠っている景綱に忍び寄る影、それはナツミであった。他にいても困るだけだが。ナツミは150cmと小柄ではあるが、Kカップの爆乳の持ち主でムチムチした身体付きをしており、ガリガリで背が高い景綱とは真逆である。猫の獣人なので手に肉球があったり、猫耳尻尾は当たり前、暗くなると瞳が細くなるといった猫の要素がある。逆に言えば、人間らしいところは二足歩行に普通に言葉を話せる、胸が大きい、衣服を着ている事ぐらいしかなかったりする。
「せっかくだし、イタズラしちゃうにゃん♫覚悟するにゃ!グフフフフッ♫」
「……………」
小柄で幼い顔つきに似合わず、意外とSなナツミはこうして眠る景綱にイタズラをする事が多い。ナツミはとにかく愛する人に対する支配欲や独占欲が人並外れて強く、夜な夜な景綱を調教するのは日常茶飯事、場合によっては一日中監禁なんてマネをしでかす事もあるぐらい景綱の事が好きなのである。日本だと犯罪になりかねないが、ニャルエリアだと特に問題ないらしい。そして、ナツミのイタズラが完了し、お昼時に景綱は目を覚ます。今回はナツミに起こされる事なく、自分で目を覚ます事が出来たのだが…
「んっ……珍しく勝手に目が覚めて…おや?」
「うにゃ、珍しく1人で起きれたね♪」
「どうして十字架に⁉」
「ふっふっふっ、いつのまに十字架にされた気分はどうかにゃ?」
結論から言えば、景綱は十字架にされていた。この十字架はわざわざナツミが通販で購入した『ラブラブ十字架調教キット』である。愛する人を十字架にして調教し、2人の愛を深めようという趣旨の所謂大人の玩具なのだが、ナツミの場合は景綱を拘束する為に用いられるのだ。ナツミが一応、大の大人である景綱を持ち上げるのは困難かと思いきや、自由自在に動かせる尻尾を使って軽い景綱を持ち上げ、十字架の上に寝かせて拘束したのだった。
「もうお昼なんですよね?早く外してくれませんか?ちょっと惨めな気持ちになってきましたよ」
「お昼食べたいの?だったら、あたしが口移しで食べさせてあげるにゃ♪あたしのお口の中でくちゃくちゃしたら、きっと美味しいにゃ♫」
「普通に食べさせて下さいな」
「ちぇっ、先生はノリが悪いにゃ!」
ナツミのお誘いをやんわり断った景綱に文句を言いつつ、ナツミは景綱を十字架から解放する。景綱はマイペース故にどうもノリが悪い一面があるが、ナツミも猫なのでどちらかと言えばマイペースで自由な一面がある。こんな自由な2人だが、実は意外と喧嘩をした事がなかったりする。なんだかんだでお互いを思いやっているせいなのか。
「因みに今日のお昼はなんでしょう?」
「エビピラフだにゃん」
「なるほど、それをナツミはわざわざ口移しで食べさせようとしたわけですね?」
「うん♫」
テーブルについた景綱の目の前にはナツミが作った手作りのエビピラフが並べてあった。食に関する執着が極端に薄い景綱は食べる量も少なく、半人前を食べるのがやっとなぐらいであった。だから不健康そうな身体の細さであったり、不健康そうな肌の白さだったりするのだが…。ナツミも出会った当初は景綱の健康の為に量を多くしたりしてたのだが、景綱が食べ切れずに残してしまう為、結局は景綱が食べやすいように量を少なくして食事を作るようにしていた。
「1回だけならいいですよ」
「ふぇっ?いいの⁉」
「やりたかったんでしょ?」
「うん!じゃあ、行くよ?」
まさかの口移しを許可した景綱に驚くナツミだったが、すぐさま景綱のエビピラフをスプーンで掬い、自分の口の中に入れる。軽く咀嚼しながらナツミは景綱に口移しでエビピラフを食べさせる。ナツミの唾液と景綱の唾液が混ざり合い、何とも卑猥な光景が広がるが、それを普通にこなしてしまう辺り、この2人はどこかズレていた。そもそも景綱も景綱でナツミに対する執着が強くなっていたりする。これもナツミの日頃の調教の成果のようである。
「……はぁっ、美味しかった?」
「えぇ、とても」
「えへへっ、良かったにゃ♪よし、あたしも食べよう!いただきま~す♫」
1度きりの口移しを終えたナツミも自分のエビピラフを食べ始める。ナツミのエビピラフは勿論、一人前である。一方の景綱は食べる量は半人前であるにもかかわらず、意外と食べるのも遅かったりする。本人もこの事を自覚してるのか、かつて教師時代に同僚の教師と食事しに行く時は決まって何も食べず、ひたすら飲み物を飲むことが殆どだったそうな。しかし、そんな景綱にあわせて、ナツミは食事をしてくれていた。別に早く食べ終わるのがいいわけではない。要は楽しめばそれでいいのである。
「ご馳走様でした」
「うにゃ♫」
「ごめんなさいね、食べるのが遅くて…」
「ううん、気にしなくていいにゃ♫あたしはちゃんとご飯食べてくれるだけで充分なんだにゃ♫」
ナツミは基本的に好きな相手には徹底的に尽くすタイプで、常に側にいないと気が済まない性分である。尽くすタイプなので、景綱を侮辱するような事は言わないし、優しく包むようにフォローする事が多いのだが、いい事言った後に下ネタを言うのがマイナス点だったりする。
「プププッ、お次はあたしを食べちゃおっか♫あっ、逆にあたしが先生を食べちゃおっか♫」
「もうなんか色々台無しじゃないですか…」
「どうする?どうする?」
「夜までお預けです!」
「ちぇ、あと一息だったのに」
ナツミお手製のエビピラフを食べ終えた景綱は再び寝室にて眠りに就こうとする。普通の人間だったら、運動せずにただ食べて寝るだけの生活を繰り返していたら太ったりするものだが、景綱は太らなかった。ただ単に元々太りにくい体質なのかもしれないが。そんな景綱の下に片付けを終えたナツミがベッドに這いよってきた。
「先生、起きてる~?」
「これから寝るところですよ」
「じゃあ、あたしも寝る~♫先生と一緒にお昼寝する~♫」
そう言ってナツミは景綱の隣に寄り添うようにベッドに入り、じっと景綱を大きな瞳で見つめる。こうして見るとまるで夫婦、それも新婚ホヤホヤのバカップルみたいに見えるが、実はこの2人、まだ婚約すらしてしなかったのだ。にも関わらずそう見えるのはお互いの愛が深いからだろう。しかし、そんな2人が結婚について踏み出せないのはやはり人間と獣人という異種族間の恋愛に世間一般では抵抗があり、本人達も無意識のうちに避けていたからだった。所謂禁断の関係であった。このままではいけないと思いつつも、一歩踏み出せないまま半年が経ってしまっていたのだ。
「そうだ、お昼寝が終わったら、デートしませんか?」
「ふぇっ?い、いいけど、どうしたの?先生からデートのお誘いなんて初めてだよね⁉」
「いいじゃないですか、たまには…ね?」
「う、うん、わかった♫」
突然の景綱からのデートのお誘いに驚きつつもナツミはこれを快諾した。今までデートのお誘いなんてナツミが突発的かつ強引に景綱を連れ出してそれで成立していたので、こうした正統派なお誘いなんて初めてだったのだ。勿論、これを断る理由はない。景綱としては人生初のデートのお誘いが成功して何よりだった。実は景綱、地球にいた頃は容姿端麗にも関わらず意外とモテなかったらしく、デートもした事なかったそうな。モテなかったのは当時景綱が異性に興味を持たなかったのとその慇懃無礼な性格が災いしていたからであろう。そんなこんなで32歳まで過ごしてしまったわけである。
「良かったです、人生初のデートのお誘いが成功して」
「そうなんだ~♫」
「じゃあ、お休みなさい」
「うにゃ、お休み~!」
こうして2人仲良くお昼寝タイムに突入するハズだった。しかし、寝ているのは景綱だけ。一方のナツミは景綱からデートに誘われた事で興奮し、全く寝られずにいた。普段だったらすんなりとお昼寝出来るのだが、嬉しい事や気になる事があると眠れなくなってしまうものである。熟睡する景綱の隣でナツミは猫耳をピンと張り、大きな瞳をギンギンに開いて眠れずにいた。
「ど、どうしよう…寝られないよぉ。先生からって事は何かあるんだよね…?まさかの野外プレイで犯されちゃうのかな…それはそれで嬉しいけど…///もしかして別れてくれって言われたら……そんなのヤダよぉ…あたし、あたし、先生がいなかったら死んじゃう。先生がいないとあたし、死んじゃうんだからね?」
「……………」
「ねぇ、先生……もしあたしの事が嫌いなんて言ったら、そんな事ないと思うけど他に好きな娘が出来たって言ったら、その時はエヘヘ、先生の事メチャクチャに犯してグチャグチャに壊してから殺してア・ゲ・ル…」
ナツミと付き合う人物は大変であろう。四六時中ナツミの重すぎる愛に応えなければならないのだから。意外とナツミは自分に自信がない。恵まれたスタイルに可愛らしい容姿、家事全般のスキルに長けているにも関わらず。ベッタリくっ付き徹底的に奉仕するその姿勢が重すぎると付き合っていた彼氏にフられ続けてしまい、ナツミはすっかり自信を喪失してしまっていたが、そこで出会ったのが地球から来た景綱であった。ナツミはすぐに景綱に惹かれ、景綱もナツミに惹かれた。しかし、ナツミは景綱をモノにしながらも心の底では不安を拭い去れずにいた。今回景綱が予想外な行動に出たので、ナツミの不安が爆発しそうになっていた。
「おや、起きてたんですか?」
「うん、ちょっとお昼寝出来なかったにゃ…」
「ふふっ、珍しい事もあるんですね。じゃあ、デートに行きましょうか」
「……うん」
それから数時間後、ようやくお昼寝から目を覚ました景綱はナツミと共にデートに出かける。この時既にナツミの瞳は暗く濁り、声のトーンもいつもの明るく甘い声から低く落ち着いた声になっていたのだが、景綱は特に理由を尋ねなかった。気づいていないのか、或いは気づいてるけど気づいていないふりをしてるのか。時折、何を考えているのかわからない事が景綱にはあった。
「やっぱりバイクはやめるにゃ」
「どうしてですか?気持ちいいじゃないですか、風を受けて走るのは」
「危ないにゃ」
「たまにこの星の皆さんの感覚がわかりませんね…やはり車の類がないからでしょうか?」
実はこの惑星ニャルエリアには車や電車が存在しないのである。あるとすれば、自転車や船ぐらいだろうか。緑豊かな惑星なので自動車や電車は合わないのだろうが、景綱は地球から愛車の大型バイクをニャルエリアに持ち込んでいた。勿論、排気ガスを出さない環境に優しい動力を使用した特別製なのだが、この星の住人には少々理解されていないようである。現時点では特に運転を禁止されていないが、あくまでもそういう法律が整備されていないだけで、もしかしたら禁止されてしまうかもしれないようだ。
「毎回思うけど、チーキュの乗り物って怖いにゃ…」
「それでは、いずれ地球に来た時には腰を抜かしますよ。地球では自動車や電車、バイクが走るのは当たり前なんですから」
「だから、チーキュの環境破壊がニュースになるんだにゃ。あたし、知ってるよ」
「一旦便利な物を覚えるとやめられないのが人間の悪い癖ですから。だから、環境破壊がどうとか言ってもあまり本気で向き合わないんですよ。人間、どんなに環境が悪化しても多分普通に生活出来ますよ、きっと……」
そんな事を話しながらバイクは目的地に辿り着いた。そこはかつてナツミに連れられた事がある砂浜であった。サラサラした砂浜の綺麗なビーチで、地球で言えば南国もしくは南の島を連想させる場所だ。景綱はこの場所をいたく気に入り、いつかナツミを誘うならここだと決めていたようである。
「いつ来ても綺麗な場所ですね」
「そうだね」
「ナツミ、ずっと考えていたんですが……僕達、このままじゃいけませんよね」
「……⁉」
「だから僕達……うわあっ‼」
景綱は砂浜をゆっくり歩き、背を向けたままナツミにある決意を語ろうとするのだが、突然ナツミに砂浜に押し倒され、仰向けにされた挙句に馬乗りにされてしまう。突然の行動に驚く景綱をナツミはただ濁りきった瞳でじっと見つめ、家から持ち出した包丁をちらつかせる。そこまでするとはもはや正気の沙汰ではない。
「ねぇ、先生。もしかしてさ、あたしと別れようとか思ってないカナ?」
「な、何を急に…!」
「だってそうだよね?急に先生からデートに誘うなんて今までなかったんだよ。いつも受け身だった先生がだよ?おかしいよねぇ?それに『このままじゃいけませんよね』って、別れようって事だよね?」
「そ、それは…」
「もしかして、あたし以外に好きな娘出来ちゃった?浮気は良くないのは人間さんも一緒だよねぇ?あんなに先生の為にいっぱいいっぱいい~っぱい尽くしたのに…ねぇ、何か言ってよ?言ってよ!言いなさいよ‼」
景綱を容赦なく責めるナツミ。今まで密かに抱いていた不安が一気に最悪の形で爆発してしまった。景綱を逃さずじっと見つめ続けるナツミに対し、景綱は顔を逸らして辛そうな表情を浮かべていた。あまりに何も語ろうとしない景綱に対し、遂にナツミは過激な実力行使に出てしまう。
「そっか、先生はあたしに何にも言ってくれないんだね………もういい。じゃあ、先生の事、殺しちゃうね」
「はい?」
「だって、このまま別れたら先生をあたしから奪った卑しい泥棒猫の勝ちになっちゃうし…そんなの嫌だから、先生を殺すの♫いいよね?そうだ、先生を殺した後はあたしも死ぬから安心だね♫地獄でもずっとずっとずぅっと一緒だよ?逃げようとしてもムダだから。ホントはね、先生の事をメチャクチャに犯してやろうかと思ったけど気が変わっちゃった♫あたしを捨てようとした事を後悔しながら逝ってね…あたしも後から逝くから」
「……………………」
遂にナツミは景綱を殺そうとする。今まで注いで来た愛情が全て憎悪と殺意に変換され、今まさに景綱の喉元に突き刺そうとしていた。そのハイライトが消えてすっかり濁りきった瞳にはかすかに涙を浮かべ、口元には歪んだ笑みさえ浮かべていた。思い返すのは今までの楽しかった日々だろう。一方、最期に死というプレゼントを贈られようとしていた景綱は何か覚悟を決めて行動する。
「じゃあ、後でね…先生ぇ‼」
「いい加減にしなさい‼」
「ひっ‼きゃあっ!」
ナツミが自分の喉元に包丁を突き刺そうとする瞬間、景綱はナツミに一喝して逆に砂浜に押し倒した。一喝されて怯えた隙に押し倒されたナツミは瞳を見開き景綱を見つめる。まさか怒鳴られるとは思っていなかったナツミ。いつも慇懃無礼ながらも穏やかな景綱に一喝されたのがショックだったのか、先程までの勢いがなくなってしまう。
「僕があなたと別れようするなんてあり得ないじゃないですか…」
「だっ、だって…!」
「僕はナツミと結婚したいんです!」
「ふえっ?」
それはまさに突然の出来事であった。自分が殺されようとしてるのにプロポーズをする馬鹿者がいただろうか?ここにいた。片倉景綱である。突然のプロポーズにナツミの瞳は元の綺麗な瞳に戻り、声のトーンも明るく甘い声に戻ってしまった。
「確かにこのままじゃいけないとは言いましたが、何も別れようとは言ってませんよ?僕達は一歩進むべきなんですよ、いつまでも恋人のままではいられませんからね」
「そ、それはそうだけど…でも、あたし達、違う種族なんだよ?人間さんで言ったら動物と結婚しようって事なんだよ?」
「もう一線なんてとっくのとうに越えたんです、もう何も怖くない…そうでしょう?僕も今まで避けて来ましたが、これからはちゃんとあなたの生涯のパートナーになりたいんです」
「で、でも、あたしでホントにいいの?あたし、エッチ大好きだし、嫉妬深いし、病んでるし、寂しがり屋さんだし、不安になりやすいし、イタズラばっかりして先生を困らせてるし、さっきだって先生を殺そうとしたんだよ⁉それでもいいの?」
「気にする事はありません。だって、それらを含めてあなたの事を愛してるんですから」
普段は基本そういうロマンチックな事を言わない景綱だが、今回は片倉景綱一世一代のプロポーズである。景綱は自分の思いの丈をそのままナツミに伝える。例えヤンデレだろうが、自分を殺そうとしたとしてもそれを許してしまう景綱は器の大きな人と言えるだろう。ナツミも自分が抱えていた不安を思いっきり景綱にぶちまける。景綱ならば受け止めてくれると信じて。
「う、うにゃ、ありがとう」
「では改めて、僕と結婚してくれますか?」
そう言って景綱は懐から何と婚約指輪を取り出し、ナツミの前に跪いて婚約指輪を渡す。景綱がナツミに内緒で選んだ指輪はあまり派手で高価な物ではなく飾り気のない実にシンプルな物だが、景綱の愛情が詰まった一品である。勿論、ナツミはこれを受け取る。この時、2人は真に結ばれたのだ。
「うわぁ♫」
「受け取ってくれますか?」
「勿論だよ!えへへっ、ありがとう///」
「ふふっ、どういたしまして」
こうして片倉景綱一世一代のプロポーズは成功した。景綱に指輪を嵌められたナツミはご満悦な笑みを浮かべて喜んだ。そんなナツミの喜ぶ姿を景綱は軽く笑みを浮かべて見つめていた。すっかり日が暮れ、2人は愛の巣に帰ろうとする。因みにナツミ持参の包丁は景綱がナツミを押し倒した際に取り上げ、ちゃんとナツミに返していた。
「先生、色んな事があって今日は疲れたにゃ!」
「そうですねぇ、少なくとも一日中寝ていられるぐらいは疲れました」
「そっかぁ♫ねぇ、汗かいちゃってベタベタだよ~」
「そうですか?僕はあんまり汗をかかないので、ベタベタしてませんが…」
一見すると何気ない会話である。しかし、この会話にはナツミのある思惑が隠されている事を景綱はこの時点では気づいていない。この段階で気付けば間違いなくエスパーだろうが、景綱にはそんな超能力などなかった。一応、景綱は普通とは言い難いが普通の人間なのである。
「ねぇ、シャワー浴びたい♫ムラムラする♫ベッドの上で先生と合体したい!ギシギシアンアンしたい!ズッコンバッゴンしたい!」
「もう言わなくていいですよ~?欲望まる出しじゃないですか」
「ラブホに行きた~い!」
「言うと思いましたよ…」
あまりに率直すぎる欲望まる出しなナツミは遂にラブホテルに行きたいと叫ぶ。因みにナツミは20歳なので別に何か問題があるわけではない。景綱は呆れて家に帰ろうとする。別に行きたくないわけではないが、あまりお金がない。実は景綱、現在無職なのだ。最もまだ地球人を働かせる事がこの星では出来ないだけでいつかは職に就くつもりである。本人は重労働はお断りだが。
「ダメですよ、お金ないんですから。それにお家に帰るまでがデートなんですよ?」
「まるで先生みたいだにゃ!」
「かつて教師でしたから、それぐらいは言えますよ」
「あっ、因みに帰ったら寝かせないにゃ?朝チュンまであたしと頑張るにゃあ!今度こそ覚悟するにゃよ?先生♫」
「明日一日中寝ていいなら頑張りますよ」
「やった~♫ありがとね♫」
結局は何とも無茶苦茶なお願いもちゃんと聞き入れてしまう景綱であった。これからも景綱とナツミはこの惑星で平和に騒々しくお互いを支え合いながら生きていくだろう。この2人がこれからどんな人生を歩むかはわからない。しかし、1人の地球人と1人の獣人という種族を星を超越した2人に幸あらん事を切に願う。全ては緑豊かな辺境の小さな惑星の物語である。
こんにちわ、お久しぶりですねf^_^;)覚えていますか?エンジェビルですm(_ _)m
ホントに久し振りの小説になりました。ここまで長かったですf^_^;)色々考えてはいたのですが、なかなか書けなくて…とりあえず短編から始めようと思いました。
第一弾は我が不死鳥シリーズの主人公だった片倉景綱と片倉夏海夫妻をリ・イマジネーションしてのただの恋愛短編ですf^_^;)短編書くのも大変ですねf^_^;)彼等からバトル要素を抜くと恋愛しかないので、こうなりました。久し振りに景綱・ナツミを描けて楽しかったですよ(^^)また2人の話を書いてみたいですねo(^▽^)o
・片倉景綱(ICV:辻谷耕史)
景綱は相変わらずですよ。戦わなくなったし、働かなくなった事以外はf^_^;)景綱と言えば草食系かつ慇懃無礼なので、それを守れば大体景綱になります。この景綱も恋人に振り回されてばかりですが、やる時はやりますよ♫
・ナツミ(ICV:大亀あすか)
ナツミと相変わらずかと思いきや、ケモノになっていたとf^_^;)元から猫っぽかったのでこれはこれでアリかと(^^)ナツミと言えばスタイル含めてエロい!ヤンデレ!特にヤンデレはやり過ぎたかと思うぐらい頑張りました(^^)こんな娘がリアルにいたら怖いですが…因みに景綱と結婚したらめでたく片倉夏海になりますね(^^)
今回、2人しか出さなかったんですね…そこは反省すべき点ですねf^_^;)後、やり過ぎました、ごめんなさいm(_ _)m
さて、次は長編でも書きましょうか(^^)もう案は決めてありますよ(^-^)/少なくとも景綱・夏海夫妻は出て来ないですねf^_^;)あの2人は常に主人公であるべきなので…その長編の主人公も亡き不死鳥シリーズから出しますよ♫大体誰かは不死鳥シリーズ読んでくださっていたであろう皆様ならわかるのではないかとf^_^;)
では、次の小説でまたお会いしましょうm(_ _)m