00 プロローグ
こんな小学校の担任になった俺はもう終わりかもしれない
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「ーーお前ら、集まれ!」
澄み渡る青空の下、光る校庭には輝く向日葵のような笑顔を咲かせる子供たちがそれはもう沢山いる。
そら、当たり前だな。
ーーーーここは小学校。で、俺は担任だ。
「せんせい!」
舌足らずな声が下から張り上げてくる。
「棄権します」
黒髪のストレートロングヘアーが無表情に言った。でっかい目にサラサラの髪は、アジアンビューティが期待されそうだ。
「危険なので、やりません。知り合いのおねえさんが8本突き指して暫く勉強ができなかったと言っていました。そんな事態を防ぐためにも辞退させていただきます」
ボブカットの癖っ毛はなぜかドヤ顔で。
「ひとにぼーるをぶつけてあざわらうすぽーつとはいかがなもんでしょうか、せんせい!
これはせんそうにかいかんをおぼえるのとおなじことだとおもいます!
ひとをころしてよろこぶこと、ひとにぶつけてよろこぶこと。このふたつにちがいはあるのでしょーか!」
ついでに言えば、その後ろでは何が楽しいのか、ニヤニヤと笑いながら真面目顏をするという器用な真似をこなす、パーマのロング。色素が薄いのか、茶色い髪色に白い肌。一見外人の子供のような容姿をしているコイツがさっき俺を大声で呼んだ舌足らずである。
思わず、俺の眉間にはなにかが寄る。
「…おい」
「はい、なんでしょーか、せんせい!」
「そーゆーのをなんていうか知ってるか?」
「くつへりです!」
パーマのロングの言。
「…わたしの競争心のなさを言葉にするとそうなるのだ」
黒髪ストレートロングは無表情にて。
「屁の理屈って書いて屁理屈っつーんだよ。全くオナラくせえな」
心の中を一文字で表すなら「けっ」である。まさに疲労困憊だ。
そんな俺の様子に気づいているだろうに、いやむしろ気づいているからこそだろうか、奴らは心底楽しそうに口を開き始める。
「争いなんて。それも実際に傷を負わせる可能性のある争いごとなんて。あゝ無情」
嘆き悲しむ言葉を無表情で呟いた。
こんな小学校いやだ。
「へりくつというのは!
理窟だけ取り上げれば筋が通っていても、実際に何の役にも立たない理窟
といういみです!
このばあいの へ とはつまらないもののたとえなので、じっさいにはオナラのことじゃありません!」
自信満々、鼻高々。
「…そーゆーのを屁理屈っつーんだよ…」
俺は深く溜息をつくと俯いて小さく呟いた。
残念ながら、思いは届かなかったようで、横では奴らが嬉しそうに飛び跳ねている。
「またつまらぬものをろんぱしてしまった…」
パーマはポージングしていた。
こんな小学校、いやだ。
マジでいやだ。
「大体、屁が役に立たないって誰が決めた決めたんですか!スカンクを見てください!スカンクを!」
後ろで癖っ毛が熱論している。
「スカンクだけに総スカンですなー、せんせい!」
「…そうだな」
おやじくさいことを言っているパーマに俺はもう頷いておいた。
ーーーーだってよ、これで小学1年生なんだぜ。
もう、ほんと、こんな小学校の担任になった俺は終ってると思うんだ。